33 敗色濃厚
ベルガルはまた、突進していく。
さっきまでの軽やかな足取りではなく、一歩一歩が体重をしっかり武舞台をとらえている。
ドッドッドッドッ、といかにも重そうな体が前傾して突っ込んでいく。
腕を振り、太い脚が体をぐいぐい、前へ前へと運ぶ。
それを棒立ちで迎える一般人。
ぶつかる直前、ぐっ、とベルガルが筋肉をふくらませ、あたかも体が大きくなったように見えた。
肩から直撃した。
戦いの中で、ああいう重さというのは、力の集約も難しいが、当てるのが最も難しい。
レスラーのように正面からの力比べを好む変人か、そういう相手でなければ、準備が必要だ。
足腰を弱らせるとか、魔法で動きを鈍らせるとか。
スレインなら影縫のように物理的に止めるだけでなく、人質をとることも考えるだろう。
あるいは台本か。
ベルガルがひたすらに、拳を打ち込んでいく。
膝を曲げて腰の回転で打っていく。
あの一般人は、
ずらさず、そらさず、受ける。
そこになんのメリットがあるだろうか。
「おい」
ベルガルが吹っ飛んだ。
今度は武舞台の端まで飛んできて、背中から落ちた。その衝撃で武舞台の一部が崩れた。
「ベルガル! おい!」
スレインが大声を出す。
ベルガルは動かない。
「死んだんじゃないだろうなあ」
「まさか」
ペインゴッドが脚を組み替えた。
「さっさと特級使いなさい」
「そうするしか、ないか」
ベルガルは、すっ、と腹筋で起き上がった。
「名も知らぬ男よ。レスラー以外に、こんなに楽しませてくれるとはな……」
「ナガレだ、ナガレそいつの名前は」
「特級武具、剛点」
その声を聞いて、客席から歓声のようなものだったり、ざわめきのようなものが起きたりした。
『戦争』でこうしたものを、ベルガルは使わないからだ。
両手に金属のグローブのようなものを装着し、力強く合わせる。
「行くぞ!」
いちいち名前を言ってから使うのは戦術上の問題はあるのだが、本人のやる気を減らすくらいだったら好きにやってもらったほうがいい。
それくらいの力がある。
「うおおおー!」
ベルガルは突っ込んだ。
殴った。
「うおおおー!」
ベルガルが吹っ飛ばされた。
一点に集約する特級武具。
それをかんたんに受け止められて、ふっとばされた。
客席のバリアに当たって落ちてくる。
ちょうど、オレたちの前だった。
「降参するなら、どうぞ」
武舞台から声が聞こえた。
それを聞いてにやりとしたベルガルは起き上がると、突進していった。
同じことのくりかえしだった。
二度、三度やっても同じ。
「降参するなら、どうぞ」
ナガレはそれしか言わない。
またベルガルが突っ込んでいった。
頑丈な体と体力があるから続けられるが、もう、続ける意味はない。
悪い冗談のようだった。
「ボス、どう思う」
スレインは言った。
さっきまでの大騒ぎはすっかりやんで、静かな目をしていた。
「耐久にすべての能力をあてた冒険者の話は聞いたことがあるが」
「あれは耐久じゃあないだろう」
またベルガルが飛んできて、起き上がり、突っ込む。
「死にゃあしないよなあ?」
「問題ないだろうが、そろそろ、降参してもらうことになるが」
「決め手にかけるなあ」
スレインが言った。
「決め手?」
「ベルガルをいたぶって楽しんでるってわけじゃあなさそうだ。というよりは、さっさと終わって欲しがってる」
ナガレの表情は、これだけ圧倒しているのに、むしろ浮かないものだった。
「たしかに」
「なのに、仕留められない」
「あれだけ吹っ飛ばせれば十分な攻撃力だろう」
「いやあ、なんていうかなあ」
スレインが首をかしげる。
「受けた攻撃を返す、くらいのことしかできないんじゃあねえかなあ? って仮説はどうだい、ボス」
「つまりどういうことだ」
「相手に攻めさせてみたら、どうですかねえ」
「それで負けたら?」
「どっちみち、ほとんど終わりでしょうよ」
スレインは言った。
「わかった。ベルガル!」
吹っ飛んできたベルガルに、攻めさせるようサインを送った。
ベルガルがうなずく。




