22 城への短くて長い道
ガラガラと荷車を、大通りを引いて歩く。
上には布がかぶせてある。中に縛られたA級が入っているなど誰も思わないだろう。
これから彼らを城へ護送する。
先頭のエクサミさんを見て、通行人は道を開けた。
でも。
わっ、と高い声があがった。
通行人の女性が寄ってくる。
やはりイケメンは目立つ。
女性たちが集まってくると、イケメンはすこし荷車から離れて、歩きながら対応していた。
会話もしながら、楽しそうだ。
命がけの侵略が始まっているのか、いや始まっていないのか、そんなついさっきの混乱を感じさせない。
こんなときでも愛想よく対応しないといけないというのは、イケメンにはイケメンの、大変な日常があるのかもしれない。
じゃあイケメンになりたくないのかときかれたら、そんなことはないとこたえますが。
予想通り、群衆の中、一般人がいる中を襲ってくる人はいなかった。
と思っていたら。
「あいつ、A級だぞ」
ホックさんが言った。
すっ、すっ、と人の間をすり抜けてやってくる女性がいた。
「センシャさーん!」
手を振りながらやってくる。イケメン目当ての女性と考えれば自然だが、いまの状況を考えると……。
「どっちのA級ですか」
「我が国だ」
エクサミさんは言う。
「だったらいいんじゃないですか?」
「むしろ悪いかもしれない」
「え?」
「寝返っている可能性がある」
「やります?」
「無理だ」
彼らが小声で、俺が理解できないやり取りをしている間に、女性はどんどん近づいてくる。
女性は、イケメンの横をすり抜けた。
「あー、これ、なんですかー?」
そう言って、迷わず荷車の布をはがした。
中で横たわっている人を見て、通行人たちが、はっとする。
「病人です。あまり、みなさんの目にふれるとよろしくないかと」
中にいたのはリープさんだった。
靴は真っ赤で、顔色が悪い。
血だということが、感覚的にわかりそうなくらいの赤さに、女性たちはぎょっとしていた。
布をはがした、A級だという女性もおどろいている。
「ご婦人方には刺激が強かったでしょう。ケガをしていてね。王宮での手当が必要なんだ。安静にさせてね」
イケメンは、ていねいに布をかけ直すと、しー、というポーズをした。
女性たちは口を閉じる。
俺は荷車を進める。
「やっぱり来たな」
「ええ」
おそらく、大通りなら、闘技場のときのような戦いはない、というのがエクサミさんたちの読みだった。通行人を巻き込むのは、完全に侵略をすると決めた場合だろう。モップ男たちの行動からして、それはない、とした。
だが、仲間の奪還を狙うことは考えられる。
これだけ目立てば、隠し場所はひとつだ。
だったら、というのがこちらの考えだった。
逆に、中を見せてやればいい。
中を見て、なにもなければ、二度はやらない。
予想通り、荷物をあらためようという者はもう現れず、ただただ、お城に向かうだけだった。
「寝返っている者は他にもいそうですね」
「そうだな……」
エクサミさんは眉間をおさえた。
「A級審査官、エクサミだ」
城の前の大きな門。
門番に名乗ると、上部に装飾された、大きな格子の門が開いた。格子というと牢屋みたいだがそんなことはなく、厳格な縦横ではなくカーブもまじえた、やわらかさも感じさせるデザインだった。
「荷は?」
「けが人と、暴れた人間を捕らえてある」
エクサミさんが荷車の布をはがすと、リープさんが。
そして、リープさんがいったん降りると、その内側の板を外す。そこにはモップ男とナイフ男がいた。
二重底だ。浅そうに見えるが容量がある。
「アイ国の人間が攻撃を仕掛けてきた。正式に抗議するつもりだ」
門番は、モップ男とナイフ男の、証を確認した。
「ついに、直接攻撃ですか?」
「いや、まだ、戦争前に本気で命のやり取りというわけでなさそうだ。いまは」
「……」
そう話していると、レスラーさんが、うしろを振り返りつつ、走ってやってきた。
「おーい」
「どうだった」
「いきなりぶっ壊してきたぜ」
レスラーさんは、裏通りをこっそり、なにものっていない荷車を走らせる役だった。
「仲間を助けるってのに、荒っぽいのなんの。とっとと逃げてきたぜ」
「行こう」
城、正面の大扉が開いていた。
俺の身長の倍くらいの高さがある。
白いお城だ。
その階段の、横のスロープを、木造の、おんぼろの、あきらかに場違いな荷車を引いてのぼっていった。




