23 王と平和
通されたのは二階の広間だった。
一階の広間もすごかった。とてつもなく広くて、左右ののぼり階段が中央で結集する、みたいなとんでもないやつだ。美女と、野獣が踊りでもしそうな広さだった。
二階の、最初の大きな扉の先には、大きな椅子が奥にある広間だった。
あれが多分玉座か。空席だ。
壁際にはきっちり鎧を身につけた兵士が四人ずつならんでいる。
幅のあるじゅうたんが奥にのびていて、途中段をあがって王座までつながっていた。ふかふかのじゅうたんだ。
王座の奥の壁にはカーテンを豪華にしたみたいな布とか、金色の布がさがっていたりしている。豪華な感じだな、としか。具体的なことはよくわからない。
奥側、横のドアが開いて誰かが出てきた。
エクサミさんたちが、すっ、とひざをついたので、俺もそれにならった。
「楽に」
やってきた人は、なんというか、こう。
肩に、白いフサフサがついた分厚い赤いマントをかけて、赤と白の服を着た男性がやってきた。
俺よりすこし上くらいの年齢だと思うが。
「王だ」
レスラーさんが言った。やっぱり。
「アイ国の者が、町中で攻撃をしてきたそうだな」
「そのとおりです」
エクサミさんとイケメンが前に、レスラーさんと俺がそのうしろ、そのうしろにホックさんの三列で参列。
「直接、誘拐を目論んでいたかと」
「この国のA級は何人残っている」
「……おそらく、この場にいる人間と、五人未満」
「えっ」
とうっかり言ったら、王様がこっちを見た。
強そうでもあり、そうでもなさそうでもあり。
イケメンだけど、人生を楽しんでいそうでもあり、苦悩系イケメンにも見えるというか。
竹野内豊みたいな感じだろうか。
「君は誰だ」
「あ、新人のA級のナガレといいます」
「この国の現状について知っていて、A級になったのか。ありがたいことだ」
おどろいたことに、頭を下げる。
「いえ、そんな」
「むろん。A級にはA級の生活がある。アイ国からすばらしい提案を受けたのなら、それは仕方ない。だが、協力してくれるなら、我々もできるかぎり、応えよう」
すばらしい提案?
王様が咳き込んだ。
「王」
「すまぬな。すこしさがる」
王様は、付添の人と一緒に別室に歩いていった。
「エクサミ。いいか」
代わりに別の男性がやってきた。
目つきが鋭く、髪がぴったりとセットされている。この世界では、なにでセットしてるんだろう。
連れていかれたのは、会議室のような部屋だった。
長テーブルと、二十脚の椅子。
大臣だという彼と、俺たちは逆側に、向かい合うように座った。
「A級は足りるか」
「今回の戦争は、乗り切れるでしょう」
「そうか」
「ですが、次回はかなり厳しいです。高い報酬やなどによるヘッドハンティングだけでなく、直接戦力を奪いに来たということは、もう数人しかいないということでしょう」
「次回は危ないか」
「次回は、まず戦争開始までにアイ国を王都に入れるのはやめるべきかと」
「それはできない」
大臣は言った。
「王は、平和を所望だ」
「しかし」
「戦争の前には、相手国に開放する。それは変わらん」
「しかし」
「だが、今回は、大会までお前たちは城から出るな。これ以上減らされてはかなわん」
「それは王の考えですか?」
「いや、わたしの考えだ。王には、城の中にいることは言わぬようにな。部屋を用意させる。ここで待て」
大臣は、会議室? を出ていった。
「……どういう状況なんです?」
俺は言った。
「王は、平和の象徴である戦争を続けたい。アイ国は、金を払って、あるいは別の条件で、この国のA級を引き抜き、とにかく数を減らして戦争を不成立にすると同時に、戦力を落としている」
エクサミさんは言った。
A級が減るというのは、戦争で死ぬとかより、そういう意味だったのか。
「兵士だっているんですよね?」
「ああ。だが、戦争にはA級しか参加できん」
「それで戦争に勝つ? でも、戦争に勝ったからって、大した利益にはならないんですよね? ということは、やっぱり、侵略してくるってことですか?」
「いや」
エクサミさんは首を振った。
「前にも言ったが、戦争は……。わかりにくいな。『戦争』、『侵略』とするか」
「『侵略』は勝つことで得られる利益は大きい。だが、同時に失われるものも多い。どうせなら、まるごと相手国を手に入れたいだろう?」
「そりゃそうですけど」
「アイ国の狙いは、この国の弱体化の宣伝だ。『戦争』には他国からも観に来る者がいる。そうした者に、この国はもう終わりだ、と知らせたいのだ」
「我が国が弱体化すれば、アイ国以外にも、この国を狙ってくる国が出てくるだろう。いかに、強力な城壁を持っていても、限度がある。そこでアイ国はどうすると思う?」
「一緒に『侵略』する?」
「逆だ」
「アイ国は、我が国を守る。そして、対価を要求する」
「なんのために?」
「アイ国がなければ我が国が成立しないようにするのだ。そうして、この国の中枢までアイ国の人を入れ、やがて乗っ取る。どうせアイ国が本気で守るとなったら、わざわざ、その軍勢と、この城壁に守られたこの国を本気で攻めようとする国などおらぬ」
「……それって、ある意味、合併というか、多少の力関係の差はあっても、力を合わせてやっていこうとか、そういうことではないんですか?}
「ない」
「アイ国は、これまでもいろいろな土地を吸収し、大きくしてきた。基本方針は我が国とは、相容れない。基本方針が『侵略』だ。だからこそ我が国は『戦争』を設定して平和を保とうとした」
「王様は、『戦争』が破綻してることをわからないんですか?」
「わかっている! だから問題なのだ。わかっていながら『侵略』を避けるには『戦争』を続けるしかない状況になってしまった。それが続いてしまっている」
「でも、もう、その気になれば『侵略』されるんでしょう? だから、エクサミさんたちも、さっき、そう思ったんじゃ?」
「そうかもしれないな」
エクサミさんはあいまいに言った。
「攻められにくい理由があるんですか?」
中に、すでにアイ国のA級が入ってきているとするなら、城壁とか、そういうもので防ぐというわけじゃないだろう。
「城に兵器があるとか?」
「詳しい話はできん」
「おい、とにかく『戦争』で勝てばいいんだろう!」
ドアが開いて、治療を受けているはずのリープさんが入ってきた。




