13 見えない
「特級がどうしてここにいるんだ?」
「国は頭がかたいようだ。審査を受けなければ特級どころか、Aと認められないという。だから来たまでだ。おい、もういいだろう」
剣男は俺に言う。
「戦力にならないやつは帰す。無駄な時間は過ごしたくない。そうだろう? 特級に達しない、達し得ない者は去れ。くだらない。時間の無駄だ」
「そんなことを言われると心外だな」
レスラーさんゆっくり首をまわす。
「レスラー。王都に属さないが、王都の目の届かない危機を救う、孤独の勇者」
「あ?」
「賛辞を惜しまぬ」
剣男はやっと俺につきつけた剣をどかすと、レスラーさんに一礼した。
「……悪いやつではなさそうだな」
「レスラーさん?」
「だが。おれはナガレがAであることに、疑問はない」
剣男はじろりと俺を見る。
「おれには、疑問しかない。おれの動きにまったく反応ができていなかった。実戦の前に、審査で死ぬぞ。お前は、なんのためにA級になろうとしているんだ?」
「なんのため……。生活?」
俺が言うと、レスラーさんが吹き出した。
「レスラーさんが言ったんでしょう。Aになれるときになったほうがいいって」
「なれるならなったほうがいいに決まってる。なあ?」
「……」
剣男は顔をすこししかめた。
「おれは、この国を守るためにA、そして特級となる。国民の生活を守る」
剣男は言う。
「それは、すばらしいと思いますけど」
「お前はそういう意味で、生活のためと言っているのか?」
「……自分の生活ですが」
「どうしてもやるというのなら、戦闘不能になってもらうが」
首に突きつけられた剣の角度が変わったのが、光の反射でわかった。
「ちょ、ちょっと! そんなことして……、怒られたりしますよ!」
「怒られる?」
「だってあなた! 勝手にここで、他の参加者を追い出してるわけでしょう? そんなことしていいと思ってるんですか? 失格になりますよ!」
「それはない」
「なにを根拠に!」
「なぜなら、ここで戦闘を行ってはいけない、と言われていないからだ」
剣男は堂々と言った。
「そんな……。言われてないからやっていいなんてことはないでしょう。常識っていうか。人を殺したらいけないって言われるまで、殺したらいけないと思わないんですか? そんな神経で、よく、人を守るなんて言えますね」
「では、誰か訴え出た者がいるか? お前はここにいるべきではないとやってくる係員がいたか?」
「知りませんけど……」
「ありなんだよ。厳選は。むしろ、やってほしいはずだ。力のあるひとりを採用して終わる。それが彼らののぞみだ」
「ナガレ、本気で相手してやったらどうだ」
レスラーさんが言う。
「本気って……」
「痛い目をみないとわからないってよ」
「なるほど。そうなんだな?」
剣男は俺に言う。
そんなこと言ってませんよね?
「なら」
と言ったか言わないか、くらいのとき。
ドドド、と腹に力がたまった。
剣男の姿は消え、頭、側頭部、後頭部、脇腹、胸、となにかが打ち込まれているようで力がたまっていく。鋭さはないので、剣の一部か、別の武器で殴ってきているようだけれども。
ふともも、膝、ふくらはぎ。
あご。
間近で、すごい速さでなにかが動き、打撃を入れていく。
「なにをされているかもわかっていないだろう。死にたくなかったら、負けた、と言え」
「ま」
言おうとしたら顔面に力がたまる。
殴ってるじゃないか!
止まってもらおうと、右手に力をためてやみくもに突き出してみるが当たらない。
「えい! やー!」
全然当たらない。
「なかなか頑丈なようだが、負けを認めるなら早いほうがいい。再起不能になっても知らんぞ」
「ま」
また顔面を殴ってきた。
こいつ。
ものすごい速さで俺に攻撃を加え続ける。
いや、待てよ。
俺が悪いのか?
俺がすぐ降参するとは思っていないみたいだから、顔面を殴ってくるだけかもしれない。
もしかして、立ってるからいけないのか。
床に寝っ転がって、負けを認めれば、聞いてくれるのかもしれない。
立ったままだと、反撃をするのを警戒してしまう。
そういうことか。
わかったぞ。
と気づきを得たときだった。
なんだか、突然鼻がむずむずして。
鼻に力を入れたとき、ちょうど剣男が殴ってきたようだった。
「ぐおあああ!」
剣男が吹っ飛んだ。
いままで俺に加えたダメージを全部受け取ってしまったようだった。体が壁に、背中から叩きつけられて、ずるり、と床に落ちた。
壁にちょっと、ヒビみたいなものが見える。
ふつうだったら、あんなにダメージがあったのか。
剣男、けっこう強いんじゃないだろうか。
「あなた、余裕でA級なんじゃないですか?」
俺が言うと、壁際で剣男がブチギレた感じで俺をにらみつけて、レスラーさんが、こらえきれない、とばかりに笑い始めた。
なにかちがったらしい。




