表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/60

13 見えない

「特級がどうしてここにいるんだ?」

「国は頭がかたいようだ。審査を受けなければ特級どころか、Aと認められないという。だから来たまでだ。おい、もういいだろう」

 剣男は俺に言う。


「戦力にならないやつは帰す。無駄な時間は過ごしたくない。そうだろう? 特級に達しない、達し得ない者は去れ。くだらない。時間の無駄だ」

「そんなことを言われると心外だな」


 レスラーさんゆっくり首をまわす。


「レスラー。王都に属さないが、王都の目の届かない危機を救う、孤独の勇者」

「あ?」

「賛辞を惜しまぬ」

 剣男はやっと俺につきつけた剣をどかすと、レスラーさんに一礼した。


「……悪いやつではなさそうだな」

「レスラーさん?」

「だが。おれはナガレがAであることに、疑問はない」

 剣男はじろりと俺を見る。


「おれには、疑問しかない。おれの動きにまったく反応ができていなかった。実戦の前に、審査で死ぬぞ。お前は、なんのためにA級になろうとしているんだ?」

「なんのため……。生活?」

 俺が言うと、レスラーさんが吹き出した。


「レスラーさんが言ったんでしょう。Aになれるときになったほうがいいって」

「なれるならなったほうがいいに決まってる。なあ?」

「……」

 剣男は顔をすこししかめた。


「おれは、この国を守るためにA、そして特級となる。国民の生活を守る」

 剣男は言う。

「それは、すばらしいと思いますけど」

「お前はそういう意味で、生活のためと言っているのか?」

「……自分の生活ですが」

「どうしてもやるというのなら、戦闘不能になってもらうが」

 首に突きつけられた剣の角度が変わったのが、光の反射でわかった。


「ちょ、ちょっと! そんなことして……、怒られたりしますよ!」

「怒られる?」

「だってあなた! 勝手にここで、他の参加者を追い出してるわけでしょう? そんなことしていいと思ってるんですか? 失格になりますよ!」

「それはない」

「なにを根拠に!」

「なぜなら、ここで戦闘を行ってはいけない、と言われていないからだ」

 剣男は堂々と言った。


「そんな……。言われてないからやっていいなんてことはないでしょう。常識っていうか。人を殺したらいけないって言われるまで、殺したらいけないと思わないんですか? そんな神経で、よく、人を守るなんて言えますね」

「では、誰か訴え出た者がいるか? お前はここにいるべきではないとやってくる係員がいたか?」

「知りませんけど……」

「ありなんだよ。厳選は。むしろ、やってほしいはずだ。力のあるひとりを採用して終わる。それが彼らののぞみだ」

「ナガレ、本気で相手してやったらどうだ」

 レスラーさんが言う。


「本気って……」

「痛い目をみないとわからないってよ」

「なるほど。そうなんだな?」

 剣男は俺に言う。

 そんなこと言ってませんよね?


「なら」

 と言ったか言わないか、くらいのとき。


 ドドド、と腹に力がたまった。

 剣男の姿は消え、頭、側頭部、後頭部、脇腹、胸、となにかが打ち込まれているようで力がたまっていく。鋭さはないので、剣の一部か、別の武器で殴ってきているようだけれども。


 ふともも、膝、ふくらはぎ。

 あご。

 間近で、すごい速さでなにかが動き、打撃を入れていく。


「なにをされているかもわかっていないだろう。死にたくなかったら、負けた、と言え」

「ま」

 言おうとしたら顔面に力がたまる。

 殴ってるじゃないか!

 止まってもらおうと、右手に力をためてやみくもに突き出してみるが当たらない。


「えい! やー!」


 全然当たらない。


「なかなか頑丈なようだが、負けを認めるなら早いほうがいい。再起不能になっても知らんぞ」

「ま」

 また顔面を殴ってきた。

 こいつ。


 ものすごい速さで俺に攻撃を加え続ける。

 いや、待てよ。

 俺が悪いのか?

 俺がすぐ降参するとは思っていないみたいだから、顔面を殴ってくるだけかもしれない。


 もしかして、立ってるからいけないのか。

 床に寝っ転がって、負けを認めれば、聞いてくれるのかもしれない。

 立ったままだと、反撃をするのを警戒してしまう。

 そういうことか。

 わかったぞ。


 と気づきを得たときだった。

 なんだか、突然鼻がむずむずして。

 鼻に力を入れたとき、ちょうど剣男が殴ってきたようだった。


「ぐおあああ!」

 剣男が吹っ飛んだ。


 いままで俺に加えたダメージを全部受け取ってしまったようだった。体が壁に、背中から叩きつけられて、ずるり、と床に落ちた。

 壁にちょっと、ヒビみたいなものが見える。

 ふつうだったら、あんなにダメージがあったのか。

 剣男、けっこう強いんじゃないだろうか。


「あなた、余裕でA級なんじゃないですか?」


 俺が言うと、壁際で剣男がブチギレた感じで俺をにらみつけて、レスラーさんが、こらえきれない、とばかりに笑い始めた。

 なにかちがったらしい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ