12 会場控室
「これは……」
この巨大な施設、たぶん、上から見ると丸いんだろう。
ゆるやかにカーブして、高さのある外壁。
野球場か、あるいはローマのコロッセオみたいなものを思わせる外見だった。
「闘技場かなにかですか?」
「よくわかったな」
レスラーさんが入り口に向かう。
レスラーさんが係員にA級の証を見せると、かんたんにパスできた。
「ここに、名前を」
レスラーさん、俺の順に、リストに名前を書いた。
その文字は、レスラーさんも、他の人たちの名前も、知らない言語ではなく、バリバリの日本語だった。実際にそうなのか、俺の頭の中で変換されるとそう見えるだけで、特殊な言語なのかもしれない。
そもそも最初、会話をしているときに疑問に持つべきだったか。
薄暗い通路をずんずん進む。
通路は石造りで空気がひんやり感じられた。
外の壁にそっているのか、ゆっくりカーブしている。
「ここで審査をやる」
「レスラーさんもやったことあるんですか」
「おれは、お前と同じだ。スカウトが来たからやったことはないな。舞台で戦ってるのを見たことはある」
「戦うのか……」
ギブアップはどのタイミングですればいいのか、きいておかないと。
「今日は、魔法使いが三人入ってたな」
「え?」
「入り口で名前があった。Aだった気もするが、そうじゃなかった気もする」
「他の人も審査受けられるんですか?」
「ああ。審査のときはこういう施設を利用するから、せっかくだから他にも受けたい人間は受けてもいい、と告知することもある」
「そんなんでいいんですか?」
「どうせA級を受ける自信がある人間は限られる。誰だって、無駄にボコボコにされたくないだろう」
「ちょっと! 俺、おしまいじゃないですか。え、ちょっと待ってくださいよ……」
俺はすこし前の記憶をたどった。
「魔法使いがいて、Aだった気もするって言いました? 魔法使い? その人が審査する可能性もあるんですか?」
「そうだ」
「そんな」
「魔法だろうが打撃だろうが、かわして殴るだけだろうが」
「そうかんたんには……」
「ここだな」
レスラーさんが開けようとしたドアの、反対側のドアから誰か飛び出してきた。
「くっそー!」
と言いながら、俺たちとは逆の方向へと通路を走っていった。
「なんだありゃ」
そう言ってレスラーさんがあらためてドアを開けて入っていく。
会議室のような広さがあった。
学校のひとクラスどころか、2、3クラス分の、ちょっとした集会ができそうだ。
こういうのは、楽屋とかいうやつよりも、全員ここに入ってもらって競技を待つ場所、のようなところなんだろう。
陸上競技とか、そういう部屋がありそうだ。そこからグラウンドに出ていくような部屋。
家具とかそういうものはなにもなく、ただ、がらんと広く、片側に窓があって光が入っていた。
そこに、剣を持った男と、その剣をのどに突きつけられている男がいた。
剣を持った男はこっちを見る。
「なにをしてる」
レスラーさんは言った。
「レスラーか」
男は言って、剣を引いた。
もうひとりの男は、急いで離れると、後ろのドアから走って通路に出ていった。
剣の男はこっちを見た。
黒い髪の毛に、黒い服。黒い鎧。
でも靴だけが真っ白だった。おかげで、暗殺者、といった印象ではなくなっている。
どういうコーディネートだろう。
「誰だお前は」
「直接の面識はない。A級のレスラーといえば有名だから知っているだけだ」
「お前は誰だと言ってるんだ」
「A級の審査を受けに来た者だ。そっちのやつが、審査を受けに来たのか」
彼は俺に剣の先を向けた。
「はい」
「では、用意をしろ」
「用意?」
「勝ったほうが審査を受ける」
彼は剣を構えた。
両手で剣を持って、こちらに突き出す。剣道みたいな感じだ。
いや、剣道にしてはちょっと、剣の位置が体の中心ではなく、すこしずらしている。
「あなた審査官なんですか?」
「A級の審査を受けに来たと言っただろう。聞いていないのか」
言っていることがおかしいから、たしかめただけなのに。
「審査が発表されたのは昨夜。それでA級に合格できるのは、せいぜいひとりだ。ここで決着をつけてから審査にまわるべきだとは思わないか」
剣男は言う。
「A級といえば力があるものだけが許されたものだ。だが毎回、さっきの男たちのような、自分の力もわかっていないやつらが混ざる。いや、わかっていなからこそ混ざるというべきか。わかっている者は来ないからな」
「なんの話です?」
「見苦しいとは思わないか? 闘技場に、まるで記念受験でやってくるB級ども」
「こいつがそうだというのか」
レスラーさんは俺の肩に手を置いた。
「レスラーは強いが、兄貴分が前に出る」
剣男は言った。
「あ?」
「そいつへの好感と能力的評価が混ざっているのだろう。適正な評価はできていないはずだ。混ざりもの。ああ、よくないな」
剣男は小さく首を振る。
「なにが言いたい」
「ここは力のある者が来る場所だ。帰れ」
「お前が決めることじゃないんだよ」
「いいや。おれが決めることだ」
そう言って剣男は前に出た。
たたっ、と前に出た速度が異常に速い。
レスラーさんが俺と剣男の間に体をすべりこませる。
剣男が消えた。
気づくと、剣男は俺の横にいて、剣男が横薙ぎにする途中の剣が俺の首の前で止まっていた。
「お前も死ぬことがわかったな。帰れ」
剣男が言った。
「その靴、特級だな?」
レスラーさんが言うと、剣男は唇の端を上げた。笑っているのかもしれない。




