場外乱闘2 深海の国にて 下
(注:乱暴な表現が出てきます。道徳的にR15)
前略。人魚(妖精族、ただしツッパリスケバン?系)と魚人(魔族、ただしカラーギャング?系)に取り囲まれ、めちゃめちゃ魚メンチ切られまくり…なんか美味しそう…ですが、「チッ」と舌打ちされつつ、とりあえず拳…じゃなくてヒレを下げて休戦してくれました。
花のオジサン妖精は聞く耳持たずだったけど、今回はちゃんと耳を傾けてくれるようでよかった。
見た目はアレだけど、正道と声高に信念押し付ける人?魚?たちでなくてよかった。
ギラギラオラオラしながら総じて腕組んでヤンキー座りで取り囲まれてるけど…
無事に種族対立抗争現場から帰れるといいなぁ…
◆◆◆
「ぇと、私は専門家ではないため、レリーフの真贋については保留とさせていただきます。」
今のところ話を聞いてくれそうな民衆…魚衆?に断りを入れて、難破船から出た物を提示しつつ、質や様式から判断できる面から始めます。
「丸みがあって竜骨や助骨の造りが未熟…おそらくこの船は人族の古代文明時代のものだと思います。」
「なんだそんなことか。この姿絵の方こそ陽の子!」
「私たちが憧れてやまない日差しを纏う王子様!」
眉間や目つきに凄みがログイン状態で、人魚が人魚姫みたいなうっとり…コワうっとり面になってきました。魚人もギョロっとしつつ頬にヒレ充ててくねくねしてます。タイやヒラメの舞い踊り?
「はい。レリーフの彫刻と古代文字からも判断できます。エゼプトメア文明”太陽王の子”」
「だからそれが何?」
「…この方が生きてたのは、今から千年以上昔の話です。人族の寿命は平均25-30歳くらい。装飾が華やかであることからしても、強い権威を示し即位された頃でしょうか。慣習的に王妃はいますし側妃と愛妾もいます。政略で後宮入りした娘や女官を含めると…ざっと百名以上。」
「……。」
「王族同士で玉座を狙う事件は度々あり、負けた王族の血は粛清されます。敵国や他民族からの侵略も同じく。現代までに何度も王朝が変わってますから…探せば今もどこかに彼の子孫がいるかもしれません。」
「……。」
…ちょっと魚人が目を見開いてます。そういえば魚って瞼あるのかしら?乾燥しちゃう。
「い、いや、人族の千年前に続く時間帯へ、時の妖精を脅して連れて行ってもらえばいい!」
「そうですね。この太陽の国は名前通りカンカン照りで雨が少ない高温で乾燥した土地です。勿論水は貴重品。オアシスの数は限られ、草や水を求めて幾度も戦いになりました。海の魚、特に生きている魚は高級品や珍品と捕らえられるかもしれません。奴隷商にお気を付けください。」
「……。」
「謁見できる身分を持ち、目通り願う算段がついていて、川を遡上して最寄りの岸から王の住まう宮殿まで一週間程度と仮定します。当時でも獣に乗るという交通手段はありますが、基本、広大な灼熱砂漠を徒歩越え。」
「……。」
…ちょっと人魚が尾を確認してます。ヒトの脚になれたとして保湿は大丈夫かしら?乾燥しちゃう。
「真水で温水でも大丈夫ですか?あと水圧は低く、地上に立つなら重力がかかります。オアシスでも酸素濃度と日光の強さがこことは違います。虫や鳥や砂の魔物もいます。」
「……。」
「熱中症や日射病、肌や喉や眼を痛めやすいです。場所によっては、昼は35℃を越えで夜の温度差は20度位下がります。時期によっては砂嵐が多発します。」
「……。」
「私みたいな恵まれた現代っ子人族でも、事前にきちんと対策しガイドがいないと大変です。特に砂漠は目印がなく方向を見誤ればすぐ迷子、虫地獄砂地獄に捕まると命の危険性が高い。」
「……。」
「環境も時代も文化も言語も別世界で、内臓や骨格をどう対応するかわからないですけど…冒険へ挑戦だけなら乗り越えられなくない…はず? ガイド付きチーム編成をオススメしますが。」
「……。」
「障害がある恋は燃えるとも言いますし…単独挑戦で、探して生き抜いて、愛を貫けそうですか?」
「……。」
直後、「うああああ!!!」と一斉に人魚族と魚人族が、膝?尾?を着いて頭をヒレで抱えて、悲嘆し痛哭し泣き出し…え。
「…私、いじめてないよ?ホントだよ?」
「わふぅ~ん?」
ケロちゃんズにやれやれと首を振られてしまいました。
◆◆◇
それからどうしたかと言いますと、流石に嘆きの人魚族・魚人族たちを放置というのも後味が悪い。
そのため、何に憧れているのか、どこに恋しているのか聞いてみれば、童話にありそうな『王子様たちのステキなダンスを観てみたい』でした。足だけなら魚人にもあると思うけど、やっぱ質感や雰囲気の演出が欲しいらしい。
ファラー王な感じの人でなくてもいいという点に至り、打ち上げられた大量の人魚と魚人を見ずに済みそうで安心しました。
「日に焼けた小麦色の逞しい体がいい!!」
「抱いてぇぇーー!!」
「白い肌の華奢な姿だって捨てがたい!!」
「愛でたい!守りたい!!」
「ロン毛派!」
「短髪派!!」
「兄タイプ!」
「弟タイプ!」
「……結構好みが分かれますね…」
先程までギャングでチンピラな表情だったのに、今では恋に恋する乙女な感じでキャーキャー騒いでます。好みの多様性はあれど、系統別に分類していけば、彼女らの欲求を満たすことはできなくもなさそうな?実現にはいくらかルールが必要ですが。
というか人族でなくてもよくない?
ポツポツ考えながら難破船を探検。おや?古い硬貨だ!まにー♪綺麗な貝殻!これは調度品に宝飾類かな?コケだらけでもアンティークで素敵。こっちは何か…がいこ…
「ぴやぁぁ!!」
わぁわぁしてると、着信合図が出てメール便2号を開けば、家族から「続報求む」とあったので、「人魚・魚人と交流中」と送り返しました。
連絡が取れたと一安心しつつ、だんだん「海上の船から好みを引きずりこむ」「すぐ溺れて死んじゃうじゃん」「微笑みのダンスが苦悶面とかヤダ」と血生臭いレディーズたち…やっぱ怖いな危ないな!おい!
うーんと考え、連絡はとれても家族たちに要相談で難しいネタしか浮かばない。これは提案できない。無理。却下。
「嬢ちゃん、何か対策があるんか?」
「あると言えばありますが…現段階だと私は勝手できないし、したくないんですよ。」
心配そうにスィーっと来たメンダコ先輩に、魔族や妖精族と接触や取引をするなら家族の許可が必要なこと、アストさんやティターニア様にきちんと相談しないと無理ということ、実現可能域に入るまで規則や育成等下準備が必要なこと、今後こちらのレディーズと連絡が取れるか不確定なこと等々、できること・やっていいか判断できないこと・筋を通せないならやりたくないことを伝えれば、目を丸くして、また微睡んで眠そうな顔になりました。
なんとなく、微笑んでるような?
「嬢ちゃんは海上で喧嘩に巻き込まれ、海中に落とされ、深海で抗争激突で囲まれたのに、魔族も妖精族も嫌いにならないんだな。」
「恐怖心はありますよ?初めて会う世界は、未知で不思議で正直おっかないです。本当に嫌なことをされたら嫌います。でも今のところはケロちゃんの注意喚起には下がってくれたし、話も聞いてくれたし、暴力を振るわれた訳でもない。無理に嫌う必要性はないかなぁ?」
ケロちゃんに「ねー」と言えば、フンフン鼻を鳴らして頷いてます。スライム達も無事で安全ならそれが一番だと、私の周辺環境を整える方に落ち着いてます。ありがとう。
「ふっ!ははは!ヒトとは面白い!」
「わうわう~」
「なんだ、嬢ちゃんが特殊なだけか。」
「わん」
「ケロちゃん…そんな、私普通だよ?普通の悪役令嬢になる予定だよ?」
「……」
「冗談が下手くそなのー」
「やかましいわ!」
皆して、可哀そうな子を見る目はやめてください。
大体一つの物語にしても、正統派ヒーロー・ヒロイン1枠に対し、ライバル・悪役令嬢・宿敵枠は複数置かれレベルアップしていくんですから、敵陣レギュラーポジションですってば。
あぁ、でもレディーズの望みを叶えるには、タイプ別だからヒーロー枠一人だと追いつかないよなぁ…
考えてると頭がぐらっとしました。あれ?
「わんわん」
『ぷるんぷるん』
「あ…うん…ぼぉっとする。」
「嬢ちゃん、魔素アタリか?瘴気か?大変か?」
「わかんない…ちょっと気持ち悪い…圧力感?」
「なの?!」
深海のレディーズが地上で生活していく事が難しいように、スライムたちが頑張ってシャボン内環境を整えてくれても、地上の生き物である私たちが深海にずっといる事も難しい。というか、地上でさえヘロヘロな私は、ケロちゃんたちに比べて圧倒的に環境の変化に弱い。
だんだんぐるぐるしてきた。倒れる前にもう帰りたい。
「…うぅ…も、帰りますぅ…」
「そうだな。では行くか。」
「「オイ、待て!!」」
再びギリギリ歯を食いしばって強面で囲い込んできたレディーズ。まだ続行なの?!体調的にもうむりー!
とか思ってたら、両チームの頭?ヘッド?を張ってるっぽいお二人様?お二匹様?がズイっと出てきて、ギラリと睨めつけた後、「一般の子供を大勢で囲んで悪かったな」「びっくりしただろ?怯えさせてごめんな」としゃがんで真珠と貝殻細工の小箱をくれました。
あらキレイ。
「宝石箱みたい…開けても?」
「玉手箱っつーんだ。いいか。決して開けちゃならねぇ。」
「もしカタギじゃないヤツに会ったら、投げつけるんだ。」
「……」
「あの御方に効くか、そもそも届くかもわからねぇが…」
「そうだな…強く生きろよ…いや、死んでも生き残れ…」
「……」
「お前の仇は…きっと取れない…!」
「骨は…拾えるかもわからない…!」
……私、そんな悲惨な未来があるんですか。
気も抜かれて脱力しそうになってたら、ぞくりとナニかが背筋を滑りました。
◆◆◆
「ふぅん?ソレがティターニアが愛でてるヒトの子かぁ」
背後から耳元に澄んだ声を拾ったかと思えば、ゆっくり、でも着実に、ぞわりぞわりと腹の奥を重く圧し掛かる空気?が場を支配し、目の前にいたレディーズが全員伏せて委縮してました。メンダコ先輩もへなへなと崩れ、子亀に至ってはどっかに逃げ出していない状態。
ぞくぞくと悪寒がして、体中の震えが止まらず、力が抜けて白に支えられます。ケロちゃんが唸り、スライムたちが…あれ?前が見えない?ぐらんぐらんと意識が混濁し始め、無意識にアストさんのお守りを握ってました。
「濃い魔素も瘴気もスライムが弾いてたかぁ でも、ボクの圧は耐えられそうにないねぇ…」
片目を開けば、鼻先三寸ばりのド直近に蒼白銀の大きな大きな龍が、こちらを覗き込んでます。今までいなかった!さっきまでいなかった!瞬きの間にいた!
おっかなびっくりして、でも声が出ない。ぎょろりとした蛇の、赤に金の挿す眼が、楽しそうに嗤いました。
同じ赤い眼でも全然違う。冷たく、寂しく、何の感情も伴わない彩。
「やぁ。ボクは深海の王リヴァイアサン。真名はナイショ。」
「は…うぅ…」
「白蛇が弱い弱いと記してたけど、そんなに弱いの?壊れちゃうねぇ…」
「あぐぅ…!」
嗤う龍の爪が水を撫でれば耳輪の端にピっと射抜いた感覚。
周囲に幾重もの輪状になった白銀の泡が現れ、ガードしていたシャボンごと周囲に巻きつき、ギリギリ絞めてきます。
どこにも、逃げ場がない。少しでも力を加えられたら爆ぜそうな危機感。
こわい。こわいよぉ…
背中を丸めて震える手でアストさんの魔石をきゅぅぎゅぅ握れば、体の周りをビキビキと護りが発動し、バチンバチンとシャボンの外にある白銀の泡を潰しました。
ぼぅっと体を包む大樹様の光は、いつもより弱めな気がします。環境が違うから?国が違うから?わからない。
僅かに、息が楽になった。けど、重く苦しい。
脳が、内臓が、骨が、握られるような。
ミシリ ミシリ
「わぁ、本当にあいつの魔石を持ってる!ねぇねぇ、ティターニアの印もあるんでしょ?見せてよ!楽しみだなぁ~」
「はぐ!」
再び泡の音と圧迫感がやってきて魔石が熱くなり、ビキビキ、バリバリィ、バキィ…と周囲での破裂音も波もどんどん激しくなります。反撃段階まで入った?ぼんやりした脳と瞼の向こう側で閃光が飛び交うような光の影が走る。
「まだ発動しないの?ねぇ、いい加減にティターニアの花を出してよ。」
「がうがう!」
「は?花を咲かすモノじゃない? 何それ、ツマンナイ。」
『ぷるん!』
「うるさいなぁ。『静かにしてろ』」
「ぎゃぷぅ」
『ぶる…』
聞いたことがないケロちゃんとスライム達の声色に、瞼をこじ開け、霞む視界に入ったのは、がくがくと弱弱しく伏せるケロちゃんたちの姿。
はっと手を伸ばしたくても届かない。
「ぁっく! ぁぅ!!」
心が張り裂けそうに悲しくて、想いが胸に詰まって哀しくて。
いつも助けてもらってばかりで何もできない自分が情けなくて。
涙がぼろぼろ出てきた。
「…っ!…っ!!」
やがて声は音にならず、はくはくと足掻く息は、やがて守っていたシャボンとともに爆ぜ、ぼわっと泡になりました。
押し寄せてくる波。深海の闇。何かの圧力。動かぬ身体。蝕む靄。
「はぁ?もう終わり?」
つまらなさそうな声を最後に、世界は真っ暗闇に塗りつぶされた。
わたしめりーさん。今シャボンの中にいるの。
水の世界は きらきらピカピカ
泡が踊って 光のはしご
きれいだからって うっとりしてると
とっても
とっても
あぶないの
※追記 20201112-13 活動報告にて「場外乱闘の更に蛇足」を落としました。
前半 https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2683325/
後半 https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2683941/




