場外乱闘2 深海の国にて 上
上下編で行きます。たぶん。
サブテーマは『人魚姫と浦島太郎を解釈して混ぜるとどうなるか』
(注:色んな意味で乱暴なシーンが出てきます。)
「ケンタロー…おまえ、これで決裁通ると本気で思ってるのか?ケンタウロス族は医術が得意だったよな?脳みそ大丈夫か?」
「もちろんデスよーぅ★」
「どう考えても『会議費』で落ちる数字じゃない。…何の会議だ?酒代か?」
「違いますよーぅ。勇者召喚事業の演出を話してたら、綺麗な花たちが俺を放してくれなくて★ って。あ。」
「…サキュッパスの館ですね。自腹でおやりなさい。」
「ひでぷーぅ★」
執務に入るなり、いや、入ってくる最中から「セぇクスィー★」とポーズをとりまくるケンタウロス(幹部職)へセバスが経費申請書を突き返し、そのまま頭を掴んで窓から放りだす。庭にいたアルラウネから「魔王様ー!これは肥料にはなりません!」と怒られた。そうか。
シャルに定型書式と決裁手順を整えた方がいいという助言を活用し、以前に比べて随分と仕事量が減ったが、未だ酒だ喧嘩だ異性だ異族だ甘味だと限定品だ騒ぐ者がいるので、一向に途切れる気配がない。またオックスに投げてしまおうか。
「ケンタローも真面目に取り組めば、デキる奴なんだがな…」
「酒と女と露出癖が治りませんねぇ…」
考えても仕方ない。さて、次の申請書…と裁可待ち箱に手を伸ばせば箱がない。怪訝に思い顔を上げれば、にこにこ笑うセバスが裁可待ちの箱を空に浮かべつつ、盆に載せた器を持っている。蓋を開ければ、スパイシーな香りが漂った。
「いい加減に食事休憩しましょう。お嬢様にもちゃんと休んでと叱られたでしょう?」
「しかし…」
「ケルベロスからお裾分けが届きました。応援飯『カツカレー』です。」
「むぅ…それを出されると弱いな。すまぬ。」
「どういたしまして」
休憩用テーブルに移動すれば、セバスがテキパキとセッティングする。千切りキャベツに白米、やや茶色がかったトンカツとかいう豚の揚げ物に、以前よりシャルが執心してたカレーなるスープがかかる。
トンカツに噛みつけばザクザクとした衣から肉汁が滴り、揚げ油に「あちっ」という悲鳴が聞こえ、煮崩れた具のスープと絡めて口にすれば、小さな声で「おいしくなーれ♪」とおまじないが旨味となる。
ぽわぽわした香しい魔力が体に馴染み、疲れた心が安らぐ。確かに美味なり。
「ふむ…シャルにしてはだいぶ辛口だな。」
「辛くてヒィヒィ泣いたそうで。チーズと半熟卵を載せて、食後にカロリーで悲鳴をあげてた、と。愛らしいですねぇ」
「くく… まったく、贅沢な嗜好品だ。オトナになるのはいつになるやら。」
「あと、伝言で『休めない人には福神漬けはお預けです!』とのことです。」
「ぐぬぅ! …仕方ない。ほどほどにするか。」
「そうしてください」
食後、一息ついたところで足元の影が動いた。ずるりと大型犬が姿を現し、行儀よく座り『ウォン』と鳴く。てっきり弟分が食べてるモノが気になったかと思いきや、ケルベロスからの臨時メッセージだった。どうやら特殊な環境に移動したようだ。が。
「…水の妖精族と魔族の生息域に落っこちましたか…あそこは種族間対立で揉めてますね。」
「深海の王の領土か… ケルベロスから細かい場所の特定はできるか?」
『ウォフ!』
「ふむ…スカルとゴーレムを呼んでくれ。イリオスにも一報を。」
「御意」
自称・悪役令嬢(予定)は今日も周りを困らせる。
◆◆◆
わたしめりーさん。今、海にいるの。
「今日は波浪・高波警報も注意報も出てなかったのにぃぃ!!」
初回米収穫までちょろちょろしてたボークレイグ領周辺を離れ、水の都だけに川魚も海産物も豊富な港に寄り、海鮮三昧に鮮魚も乾物も工芸品も購入したりして、いよいよ他国へ。
定期客船に乗って穏やかな波に揺られて数日。嵐吹き荒ぶ沖合の遭難事故多発地帯にて、商船団を襲う海賊船団を狙う巨大イカと大海蛇と犬鯨魚の大喧嘩に遭遇。たぶん、歌声も聴こえるから水妖精もいる。
悲鳴を上げ転がる乗客、舵をとろうと必死の船員、攻撃するも振り落とされる護衛の冒険者。ぐらんぐらんと揺れる船。荒波に船が押され、難破するのも時間の問題か。
「スライムさん、この前やったお菓子作りの爆ぜる音、拡大で再現できる?」
『ぷるん』
「ケロちゃん、牽制用に大きい火球を出してもらっていい?」
「わん」
揺れる看板に緑が足場を作り、にゃんポケから耳栓を取り出しケロちゃんと装着。メガホン型に変形した黄色がスタンバイ。白猫ハンドに風魔法を起動させ目的地・海賊船の看板にターゲットロックオン。
まずはケロちゃん火球(業火・大サイズ)をスピンサーブで打ちこみ、大きくバウンド後に上空で火炎を噴いて大きく弾けました。火球に慄いたタイミングで、黄色(超ステレオモード)がポップコーン作りで出た破裂音を拡大してお届け。
”パン!パンパン!!パパパパン!!”と連続爆竹ばりのド迫力爆発音が海上一帯を駆け巡り、最後に”ドカン!!”と…あ、誰か私が知らない間にポン菓子やったな。
ぱっとケロちゃんとスライム達を見たら、さっと顔を逸らされました。全員容疑者!
「…マシュマロやチョココーティングも美味しいよ?」
「わう?!」
『ぷる?!』
バッと顔を戻して視線も合わせてキラキラさせてきました。正直に自供。全員犯人!
…気付けば、喧嘩してた魔獣さん達がキョトンと大人しくなった他、静かにはなったけど、商船も海賊船も定期客船も乗船者一同、総じて気絶。
「やらかした…」
「なの~」
不思議な声に「え?」と目を向ければ、看板にいた?子亀?(対大型海獣と比較)…いや、子亀というよりガ●ラ…が、キラキラしたおめめで「ありがとなの~」と勢いよく抱擁?タックル?してきて、あっと言う頃には海に落とされました。解せぬ。
◇◆◇
「えーと、おつかいの帰り道で、大型魔獣?妖精?達の喧嘩に巻き込まれ逃げられなかった、と。」
「助けてくれてありがとなの~!」
『ぷるんぷるん!』
「落としちゃってごめんなの~!」
「まぁ、無事脱出できたのはよかったけど…」
助けた子亀に熱烈なハグ?され、勢い余って海に落とされ、只今、遠い遠い頭上には海面がキラキラと広がっております。どうやら海の深い所。
頭に緑(光合成中)を載せ、赤(保温中)を抱っこした私とケロちゃんは、スライム作大きなシャボンにガードされ、その外側はどこまでも続く水の青さとコポコポと揺らぐ泡とヒラヒラと泳ぐ魚しか見えません。あと、青に叱られてる先程の子亀。
ここはどこかと問えば、魔族と妖精族の国、正確には対立地帯とのこと。しかも、アストさんやティターニア様が治めてる地とは別で、敵対もしてないけど友好でもない関係の国。
で、ここでまず問題が。
「今、密入国状態なの…人族は見つかると大変なの…」
「なんてこったい!!」
ダメ元で急ぎメール便2号を出せば、魔素が多いからか起動可能。メッセージも送れそう。ただ、日付の数字が行ったり来たりしてるから、確実とも言い切れない…
まずは「シャル、海中の国、生きてる」と家族に送信。ホウレンソウ大事。何か助言があるなら、きっと反応がある…はず…「おとーさまとおかーさまも行きたかった!」と言われる気も…
それはさておき。
「単刀直入に言うわ。元の人族界の時間軸と場所に帰してほしい」
「…もうないなの…できないなの……」
悲しそうな声をする子亀に、なんとなく考え至るところがあります。
もうない、つまり、戻っても船が存在しない。短い間でも乗船中に過ごした人達と時間が、なんとも言えないしこりになって喉を詰まらせます。
「でもでも!近い時間軸で別の土地ならできるなの!まかせるなのー!」
「まかせるではないわ。愚か者。」
クラゲのようにふわんふわんと舞いながら、子亀の頭に張り付いた赤い物体。パタパタゆれる耳?いえ、ヒレ?眠そうな眼のメンダコが、こちらをじっと観察しています。
子亀が「パイセーン!」と喜び、それに「はぁ…夜の王の関係者はともかく、花の妖精女王の祝福持ちか…」とため息をつくメンダコ先輩…え、なんかマズイの?
「迷い込まれた人の子よ、子亀が世話になった。我の及ぶ限り手伝いをさせてもらおう。しかし、ここは不安定な政情の地。気を付けなければならぬことが多く、無事に抜け出せるかは運もあると心せよ。」
「そんな複雑な状況なんですか…」
「簡単に言えば、ここで人族は餌か愛玩動物か観賞品でしかない。一応、我の権限で臨時ビザを発行するが、それを無くしたら他の魔族や妖精族に喰われると思え。」
「めっちゃ複雑な状況!!」
「それすらも関係ない御方もおる。ただひたすら、ひたすら、気を付けよ。」
「ヒィ!」
ヒトデ(臨時ビザらしい)を差し出すメンダコ先輩(入国管理者?)の話では、長く水の魔族と妖精族が対立し、海上で遭難が多いのはその影響もあると。
更にややこしいのは、各々で種族主義・血統主義なる”これぞ正道!”と声高に掲げる過激派もいて、それらの中では、人族は凡そ人格や権利なんて無視される扱いが殆ど、もしかしたら話を聞いてくれるかもね?という生き延びる事が困難な立場でした。
「夜の王の魔石や花の妖精女王の祝福を頂いてるようだが、ここは海の国。地上のコトなんざ知らねぇと血の気の多い奴もいる。特に種族間対立の理由が人族絡みだった連中からすれば、格好の獲物だぞ。」
「予想以上のハードモード…」
「ちなみにこれから子亀が案内しようとした近道がその喧嘩場。」
「もうちょっとソフトにできませんか!!」
呆れ、「無理だな。既にここが現場の一部だ。」と諭り顔になったメンダコ先輩と「流石パイセーン!」と相変わらず明るい子亀に連れられて、竜宮城へ歓迎ならぬ種族間抗争現場からの脱出を試みることになりました。
尚、シャボンで動けるのかと心配してたら、既に青が魚の擬態をし、シャボンごと飲み込んでスイスイ泳いでくれました。ありがとう。
◇◆◆
メンダコ先輩の案内でそろりそろりと泳ぎつつ、なんだか残骸?の目立つ開けた場所にやってきました。貝がぎっしり生えてた相当昔に難破した船…の舳先の広場でで、二手に分かれた大量…じゃなくて大漁?の魚?人?がいます。
「あれは…人魚?魚人?」
「うむ。アレがここの二大勢力だぞ。見つからんようにな。」
キラキラと輝く長い金髪をリーゼントにし、剃り込みした人魚が着ているのは、『愛羅武優』と刺繍された特攻服のツッパリヤンキースタイル、かと思いきや、白系に統一された皮ジャン(刺繍はあった)に女子学生服の超超超ロングプリーツスカート。ちらりと見える貝ビキニと尾っぽ(鱧っぽい)が妙にメルヘン。
他方、赤いジャージパンツを腰履きにして、同じく赤のスカジャン(こっちも刺繍あり)のインにはグラサンを引っ掛けたパーカー。カラーギャング系かヒップホップ系かはわからないけれど、両手をポケットに突っ込んで斜に構える姿はなかなかの貫禄。被ったフードから見える顔は魚(鮪っぽい)なのが超リアル。
ガンたれまくりメンチきりまくりの不良軍団。タイマン勝負ですか?
余談ですが、双方のリーダーが持ってるモノが釘バットでもバタフライナイフでもなく、銛。
「今日こそカタつけてやろうじゃねぇか!」
「上等だコラァ!どっちが相応しいかわからせてやるよ!」
「「ヌメってんじゃねーぞ!」」
ナメるんじゃなくてヌメるんだ。
わー、撮影機器がないのに近場でスタント無しのアクション始まっちゃったーと、遠い目をしながらドンパチ?いえ、ヌルパチ?喧嘩を始める人魚(妖精族)VS魚人(魔族)
右ストレートのヒレが決まれば、尾でローキックをかます。あ、銛は使わないんだ…。
相手に対しヤーヤー暴言吐きつつ、ぼわぁんと泡が立ち、ぼぅぉんと音が聞こえ、なんとも水ってる。
喧嘩海流に巻き込まれぬように身を低くして、暫く大人しくするようメンダコ先輩から指示されます。
「あの、原因ってやはり種族の信仰や価値観の違いですか?」
「逆だ。どちらかと言えば『好みが同じすぎた』だな。こういった多種族の生息域が重なる場合、魔族妖精族両方の血を継いだり、タイプが似た者が多い。」
「同族嫌悪ですかぁ…」
「そこに難破船があろう。人族の世界に憧れ、人族の姿絵に恋して、恋バナしてる間に、誰が相応しいか喧嘩になり、今のような対立に発展した。」
メンダコ先輩の案内でこっそり見に行ったボロボロで貝だらけの難破船の近くに、定期的に掃除されているのか綺麗で豪奢なレリーフが置いてありました。そぉっと近づいて触って絵柄を観察すれば、そこに描かれているのは確かに人族…なんだけど…
顔は横顔でも目は正面向き、肩胸腕は正面でも胴体と両足は横向き、独特の直立不動なポーズ。腰布を巻き、黄金と思われる縞柄のアクセサリーを纏った男性像…ファラー王な…
「メンダコ先輩」
「なんじゃ?」
「あの方々は最強の一人?一匹?になったらどうするんですか?」
「なんでも、そのレリーフの人族に会いに行くそうだ。愛の告白をしにな。」
「あー……それ、たぶん難しいです。」
「えええなの――?!」
大声にびくっとして振り向けば子亀がしまったと口を抑えてますがもう遅い。声と私に気付いた人魚と魚人が一斉にこちらを向き、「人族だ!」「人族がいるぞ!」と包囲されました。子亀ェ~!!
グルル…とケロちゃんが三つ頭をポンポンと出して警戒態勢に入り、隠れていたスライム達も臨戦状態になります。ちなみに子亀は私の後ろに隠れて甲羅に引っ込んでブルブルしてます。子亀ェ…!!
「人魚族と魚人族よ、落ち着きなされ」
「オイ、メンダコ。指図すんなや!」
「それよか人族の嬢ちゃん、どういうことだぁ?」
「コトとシダイでは海の藻屑にすんぞ!」
囲まれて凄まれて恫喝体験中!古城で会った魔族とも誘拐しやがったオジサン妖精族ともまた違う空気に、ケロちゃんが『がぅ!!』と吠えれば、咆哮が強い海流となって人魚と魚人たちを推し流し、下がらせました。
「チッ!冥界の犬か…!」
「面倒なヤツがいるな…」
「…あのぉ…私の話、聞く気はありますかぁ?」
また魚眼メンチ切りが始まる前に、おそるおそる小さく手を挙げれば、コワイ表情ですがヤンキーでチンピラでギャングっぽい人魚と魚人にギラリと睨みつけられました。
…フルボッコだったらどうしよう…
シャル 「このヒトデは携帯していればいいですか?」
メンダコ「わかりやすいところに着けてもらいたい」
シャル 「……保安官バッジ…?」←違います




