プロローグ
あれから3年が過ぎた
少し多くなった荷物をまとめながらあの日を思い出す
退去の立ち合いはすんなり終わった
意外と大人数がやってきて色々と確認していたがどちらかというと忘れ物などを確認しているようだった
査定もしっかり行ったような印象はなく敷金も契約時に言われたクリーニング代のみ差し引かれた金額が返ってきた
一緒にB社へ移った主任は人柄の良さと会社との相性が良かったのか係長に就任していた
反発も恐れたがどうやら相当に人気があったらしく生え抜きの人々からも支持を集めていた
僕自身もその恩恵を受けてか結構おいしい仕事を回してもらえていて毎日が充実している
そして彼女の方は職種転換もあったにもかかわらず仕事をすんなりこなしているようだった
部長も僕らにはどこか寛容で相変わらず柔和な表情だった
「これどうするの?」と聞かれ我に返る
「捨てていいよ」と返すとごみ袋に入れられるのを見届ける
僕は結婚した
まさかと思われそうだが一緒に移った彼女と色々とやり取りしているうちに仲良くなりそのまま付き合う形になっていた
彼女が言うには映画や読書で泣いていた時にぐっときたそうだ
僕らは挙式を上げることはせずに知人を数名集めて小さなパーティを繰り返して結婚報告する形にした
お互いに結婚式だと誰を呼べばいいのかが分からなかったという事もあり気楽に友人通しで少しだけ騒げれば良かったのだ
妹も懐いてくれたようで「本当はお姉ちゃんが良かったんです」と甘えていた
「お義兄さん」と妹の旦那との距離だけは埋まらないがそれならばそれで構わない
敵対しているわけではなくただお互いに重なり合える部分がないだけのこと
そしてそんなものはこれから先いくらでも作っていけるはずだから……
「お待たせ」とワンピースに麦わら帽子をかぶり薄い化粧でまとまった君が言う
「無理言ってごめんね」と意外と手間をかけた姿にねぎらいの意を込めて言う
「いいのよ」と笑ってくれる
アクセスがいくらかよくはなったがそれでもこれから尋ねる場所は乗り換え回数をいくらか重ねる
駅に着けば待ち合わせ時刻の15分前ではあったがすでに彼は来ていた
お互いに「嫁さんきれいだね」と驚き本当の嫁には少しムッとされながらバスを待つ
あの日とは違い雲一つない青空が広がっている
バスはやはり発車時刻の8分くらい前には到着していた
だんだん口数が少なくなっていく
バスを降りるとどちらともなく花束と線香を購入する
「ありがとうね」と僕らを覚えてくれていた女性が笑顔でお釣りを渡してくれた
久しぶりに君の前に立つ
誰かが手入れをしっかりしてくれているのだろう
綺麗な状態のそこに花束を供えライターを使えない友人の代わりに線香に火を点ける
静かに供えると煙が空へと舞っていく
「元気にしてるか?あの時にお前を思い出したから変化を起こせたよ」静かに思う
「お前のおかげだな……当分はそっちに行けそうになくなったんだ」と申し訳なくも思う
「何もないのがいいことだと思っていてほしい」最後にそう思った
彼を見るとまだ手を合わせていた
優しい性格の彼だからきっと話すことが多いのだろう
しばらくして合わせた手をほどくと柔和な顔のまま
「行こうか」と促した
僕らは歩き出す
新しく得たものと失ったものの両方を抱えながら
向こうできっと笑ってくれているのだろう
空はすごくきれいだった
そして優しい風が4人を通り過ぎて行った




