幕間 1
第2騎士団は有給消化率が悪いな。
きっかけはルピス国王の何気ない一言だった。
その一言に、効率の鬼である宰相は眉を潜めた。彼は即座に王都以外の都市警護が任務である第3騎士団を数十人ほど王都に呼び寄せ、王都に慣れさせた。
彼らが仕事に取りかかれることを宰相は確認すると、第2騎士団に命令したのだった。
第2騎士団は1日の有給休暇をとれ。これは絶対である。
そして、第2騎士団は1日だけ一斉休暇をとることになった。
「うわあああ、1日だけの休暇って何すればいいんすかぁ! しかも、訓練もしちゃダメって……あああ!」
第2騎士団の幹部とその候補生は、宿舎にある彼ら専用の応接室に集まっていた。
会議用の長机に体を倒したイザークは、ぐずる子供のように足をバタバタさせる。
「うーん、本当に働いちゃダメなのかい? 少しぐらいなら……」
ハロルドは、上座に座っているエドワードに詰め寄る。彼の頭は無念にも昨日やり残した書類で頭がいっぱいだった。
「隊舎に入ることができないようにしてありますよ。朝起きてすぐに僕も行こうとしたんですが、第1のやつらが警備していました。
僕は全てを錬金術に使うと決めているのに、やつらときたら全く理解しようとしませんでした。これは僕なりの人生の過ごし方なのに……」
やさぐれたようにフッと笑うバートは、朝一番からやり合った疲れを美しい顔に見せている。
「その警備を掻い潜って隊舎に入る……それもありじゃないですか?」
少年が遊びに行くような誘いをするディーンは、楽しそうに瞳を輝かせた。
「……今日は絶対に駄目だと言っただろう。あの陰険男に目をつけられたら、後が面倒くさすぎる……」
宰相の卑劣さをエドワードは回想する。
現在の国王と宰相は、エドワードの幼馴染みだった。
それは昔、幼少時代の彼らが遊んでいるとき、現在の国王である第2王子が王宮の調度品を壊したのだ。
幼い彼らは絶対に言わないと沈黙の誓いを立てた。王宮の庭に穴を堀って埋め、黙っておくことにしたのだ。
しかし、調度品がなくなったことはすぐに発覚した。
両親や教育係に尋ねられても、エドワードは沈黙の誓いを守った。固い意思は、折れることを知らなかった。
そして今後も折れることはないだろうと思っていた。翌日までは。
幼い日の宰相は大人に尋ねられると、すぐに答えたのだ。
ああ、エドワードがやりました。
エドワードはそれはもう酷い仕置きを受けた。夕食抜き、外出禁止、訓練禁止、幼いエドワードにはとても耐えきれないことだった。
そして、一週間後に外出を許されたエドワードはすぐに宰相の家へ向かった。
なぜ誓いを破った、と尋ねるエドワードに、宰相はあっけらかんと答えた。
だって、お前が穴を掘って埋めたじゃないか。壊したのは誰かとは聞かれなかったからな。
尊敬する彼の行為を黙ると誓ったが、筋肉馬鹿のお前の行為を黙るとは誓ってないぞ。
それからエドワードは何度か彼に仕返しをしようとしたが、どれも返り討ちにあっていた。
優れた戦術家の側面を持つ騎士となった今でもエドワードは思い出したかのように仕返ししようとしているが、いまだ成功したことはないのだった。
「訓練も禁止だなんて、あいつは鬼だ! 騎士が訓練しないで、どうする!?」
エドワードは両手で顔を覆い、嘆く。それは悲痛な声だった。
そのとき、ウィルが応接室の扉を開いた。
「団長、ちょっと出かけてきます」
彼はそれだけ言うと、すぐに扉を閉める。
「……鍛練大好きのウィルくんが出かける……!?」
部屋に残された一同の瞳は大きく見開かれていた。




