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(2)

 渦を巻く不気味なトンネルを抜け、たどり着いたのは周囲いっぱいをおおう高層ビル群だった。


 目線を下にさげると、そこは神社の中だった。

 大都会の中に奥ゆかしい神社。確かに違和感はあるが……


「へぇ、あんまり人間界と変わらないな。

 空も(くも)ってる以外は割と普通だ」


 肩に手をかけたままのタタミちゃんは楽しそうな声をあげる。


「でしょ!? 新介ビビりすぎなんだって。

 一度来れば、ここもいいとこだってわかってくれるって」

「わたしたちが住んでいる里は、正確には『荒神市(あらかむし)』という名前だわ。

 里と言っても、実際にはそれなりに発展した立派な都市なんだけれどね」


 沙耶に言われおれは高層ビルを観察する。

 それなりにくたびれてはいるが立派なものばかりだ。

 少し陰鬱(いんうつ)なイメージを抱かせる以外は人間世界とまったく変わらない。


「これが、死霊族の住んでいる街か。案外悪くないな」

「……おお! 弥子、帰ってきたか!」


 振り返ると少しあわてた様子で中年の男性と女性が階段を下りてくる。

 目の前の建物は学校にあるものと瓜二つだ。

……境内(けいだい)がテニスコートじゃない以外は。


「弥子のお父さんとお母さん、ごぶさたしてます」


 ミノンちゃんがペコリと頭を下げた。

 2人は高校に入る前からの親友だと聞いている。


「あらまあミノンちゃん、お久しぶりね。

 そちらのみなさんが新しいお友達? ずいぶんにぎやかな子たちなのね」


 少し老けているだけで美人だとわかる風貌の女性が、おれたちの姿をまじまじとながめる。

 となりにいる男性は少しだけくたびれた印象だ。どちらも聖職者の姿だ。

 弥子ちゃんが両親に俺たちを順々に紹介して行き、おれの順番は最後にまわった。


「そんでこの人が、人間界からやってきた結城新介君!

 慣れない場所で大変みたいだけど、いろいろ教えてあげてね!」

「ほほう、君が。ウワサはかねがね聞いているよ。

 向こうとこちらじゃ環境も文化も違うから苦労してるみたいだね」


 弥子ちゃんのお父さんに言われ、おれは申し訳なさげに首を振った。


「いえいえ、思ったよりカルチャーギャップが少なくて助かりました。

 おかげですぐに慣れちゃいましたよ」

「ここはずいぶんむさくるしいところだから、居心地が悪いだろうけど勘忍(かんにん)してね」


 おれはお母さんにも「いえいえ、お世話になります」と恐縮した。


「せっかくだけれど、新介君には真っ先に見てもらいたいところがあるの。

 とりあえず、わたしの実家に連れて行きますわ」

「これはこれは、狛田村のお嬢様。わざわざ世話をかけてすみません」


 弥子ちゃんの両親は丁寧に頭を下げるが、沙耶は恐縮する。


「おやめ下さい。狛田村家はすでに荒神市の実権から退いております。

 今はただ単に資産を多く所有している大地主のひとつにしかすぎません」

「そのようなことはありません。

 今でもなお、狛田村家は多くの守備兵をかかえる大隊の頭領。

 私たちがこうして安全に暮らせているのは、あなた様がたがしっかりと防衛線を守備されているからにほかなりません。

 とてもとても、あなた様方に足を向けて寝られませんよ」

「ですけど南家は評判が悪いのでちゃっかり足を向けて眠っちゃってますけどね、おほほほほ」


 そう言って夫婦は自分たちで笑いあう。

 南家のお坊ちゃんの根性の悪さを知っていても、おれにはさっぱりわからないギャグ。


「そう言えば、ここってれっきとした魔界なんだよな。

 市の境界線の外には危険な妖怪がうようよしてる……考えてみればコワッッ!」

「そりゃ大丈夫だよ。

 荒神市の半径数十キロは無人地帯だし、オレたち死霊族に友好的な妖怪も数多くいる。

 ここ数十年じゃオレらの強さにビビらないで近づいてくるような、ガッツのある妖怪なんてめったにいねえよ」


 ヒャッパに言われ、おれはほっと胸をなでおろした。

 しかし沙耶は首を振る。


「それでも、警戒は(ゆる)められないわね。

 街に忍び寄る危険を少しでも回避するため、わたしたちの軍は今でも遠征隊(えんせいたい)を送って、危険な妖怪がいないか調べを進めているの。

 近隣(きんりん)の妖怪たちにも協力を仰いでいるわ」

「へえ、大変なんだな。ここは人間界とのゲートの役割を果たしてるんだろ?

 科学が発達した現代になっても、おれたち人間は死霊族のみんなに守ってもらってる。

 しかもその事実も知らない。なんだかバツが悪いな」

「その上遠征隊は妖怪たちとの戦いで少なくない犠牲(ぎせい)を出し続けていると言うのに、人間たちは安全な生活に守られてどんどん数を増やしていくばかりだ」

「キース! 縁起(えんぎ)でもないこと言わない!

 ほら、新介がめちゃめちゃ暗い顔になってるじゃない!」

「あ、いや。タタミちゃん、別におれ怒ってなんかないから。

 むしろ、その事実をきちんと受け止めなきゃいけないなと思って……」


 どんよりした雰囲気を見かねてか、弥子ちゃんのお母さんが口を開いた。


「さあさ、せっかくなんだから、うちにでもあがって。

 弥子の里帰りだからきれいさっぱり掃除して、お菓子も用意したんだから」


 何人かが素直に「は~い」と言ってお言葉に甘えようとするが、おれはツッコまずにはいられなかった。


「死霊族の社交辞令っていつもそんな率直なんですか?」





 早く沙耶の実家に行きたかったので、弥子ちゃんの実家での団らんはほどほどに切り上げる。


「帰りもここで待ってるから、その時はゆっくりしていってね」

「ぜひそうさせてもらいます」


 おれたちがさっそく出発しようとするのとは対照的に、弥子ちゃんはさみしそうな顔をする。


「うぇ~、パパとママと一緒にいられるのはうれしいけど、みんなと離れるのはつらいよ~」

「そんな長いこと離れるわけじゃないし、すぐに戻ってくるって。

 なんならあたしだけ一足先に帰ろうか?」


 そう言って弥子の頭をなでまわすミノンちゃんを見て、ご両親はクスクスと笑う。


「ふふふ、ミノンちゃんの話はいろいろ聞いてるけど、ホントにお世話になってるみたいね。

 ていうかごめんなさいね。うちの子、いつまでも甘えたい放題で」

「いえいえ、かわいいもんです。それじゃ、弥子ちゃんをお願いしますね」

「気をつけていってらっしゃいね」「みんな、気をつけてね~」


 垣冴ファミリーに見送られ、おれたちは街の中に繰り出した。


「へえ、こっちの世界じゃ、和風家屋が主流なんだな。

 まるで東京の下町みたいだ」

「東京の下町だったらいいけど、ちょっとカオスだよね。

 電線はいたるところに張り巡らされてるし、変なお札がやたらと貼ってあるし。

 ふるさとなのにちょっとブキミ」


 言いながらタタミちゃんはあきれた表情になる。


「それと高層ビルのギャップか。

 でも、あの建物もみんな年季入ってるよな」

「ここ数十年は妖怪の襲撃(しゅうげき)もなく、平和に過ごせたからかしらね。

 以前の襲撃では大妖怪が軍団を引き連れて大規模な攻撃を行って、大きな被害を受けたのだけれど。

 決して少なくない数字だけれど、数十人の犠牲(ぎせい)ですんだのは奇跡だわ」


 俺は思いだすように告げる沙耶に質問を浴びせた。


「妖怪はそこまで大変な目に会ってまで、なんでこの街におそいかかるんだ?」

「新介、狙いはこの街じゃない。この街にある、人間界のゲートだ」


 キースは少々小バカにした感じで言う。ちょっとムッとした。


「そりゃわかるよ。

 だけどそこまで人間界への進出にこだわる、妖怪の心理がよくわからないな」


 そこまで言うと、沙耶は表情をくもらせた。

 そして突然声をあげる。


「その話に関してはかなり込み入ってるから、いずれちゃんと話すことにするわ。

 今は街の景観を楽しみましょ」

「楽しいのは楽しいんだけど、若干ホラーがかかってるな……」


 言いつつおれたちはどこかくたびれた雑多な通りを歩き続けた。





「うほあっ! 意外とすげえなっ!」


 街の中心部に出ると、おどろきの光景が広がっていた。

 どこか古めかしい高層ビル群に囲まれて、新旧入り混じった外観の建物が同居し、共存している。

 目の前には地下へと続く巨大な吹き抜けがあり、そこを大勢の人々が行きかっていた。


「人々が」とは言ったが、歩いているのは人の姿をした死霊族だけではなかった。


「……うわ、なにこれ。普通に妖怪が歩いてるよ」


 神社の近辺でも妖怪を見かけたのだが、ここではおびただしい数の異形がうろうろしていた。

 2足歩行の獣みたいなやつ。顔がやたらとでかいやつ。身体の表面がまったく異質な物質でできているやつなど、多種多様な妖怪が街にあふれ返っている。


「ちょっと失礼」背後から呼びかけられその場をどくと、おれは完全に飛びあがってしまった。

 そいつはブクブクと太った体に、やたらと目のようなものがついているピンク色の化け物だった。


「ひ、ひぃっ! なんじゃあの……あぶねえ差別的発言が出るところだった!」

「新介落ち着け!

 この街じゃれっきとした人間はお前しかいないんだから変な態度とるとあやしまれるぞ!」


 キースはそういうが、おれは心底ため息をついた。


「正直来たことを後悔し始めているよ……」


 しかし途中であることが気になり、思わず口を開いた。


「そう言えば、これだけ妖怪が堂々と出歩いてるのを見ると、よからぬことを考えている奴がいてもわかんなくなるところがあるな。

 この街のセキュリティは大丈夫なのか?」


 言われ、タタミちゃんは自慢げに人差し指を振る。


「フフン。その辺は大丈夫。

 この街はきちんと税関みたいなものがあって、個性的な妖怪を1体1体詳しく調べるシステムがあるんだよね。

 素性や経歴までバッチリ調べられるから、怪しい奴はその時点で速攻シャットアウト!」


 勢いよく手を交差させるタタミちゃんだが、おれはさらに質問をぶつけた。


「それでも、よくこんなに妖怪が集まるな。

 この街はそんなに魅力的なのか?」

「なによう! あんたアタシたちの街にケチつける気!?」


 押し迫ろうとするタタミちゃんにあわてるおれだが、ヒャッパがその問いに答える。


「魔界にはここまでの大規模な街なんてなかなかないからな。

 ここみたいな立派な都市をのぞいたら、後はひたすら手つかずの大自然ばっかり。

 妖怪が住んでる場所なんぞ洞窟(どうくつ)かテキトーなアバラ家くらいしかないから、うらやましくて仕方がないんだろ」

「妖怪の世界は弱肉強食だから、都市はどこも厳重な防衛線を張って身を守っているわ。

 ここからかなり離れたところにある大都市なんか、直径数百メートルの防護壁を築いてるくらいと言う話だから、おどろきね」

「なにそれ。そんなやたらとスケールのでかい魔界の大都市って……」


 その時、とてつもなく大きな音が響き渡った。

 おれが「なんじゃこりゃっ!」と叫んでいると、沙耶が「こっちに来て! 見せたいものがあるの!」と呼びかけた。

 うなずきながら、みんなと一緒に反対側の道路に向かってかけぬけていく。


 通りがかる車に注意を払いながら(この街、信号がない……)も反対側にたどり着くと、自分たちが立っている高架橋(こうかきょう)の下から、とてつもなく巨大な何かが現れた。


 列車のようにも見えるが、地上のものより何倍も巨大で、分厚い鋼板におおわれ重厚な外観をしている。

 しかもいたるところに重火器のようなものを取り付けてあり、死霊族と妖怪が一緒になって周囲を見張っている。


「『魔界列車』よ。ここから魔界に点在する大都市同士をつなぐ唯一の交通手段ね。

 これほどの圧倒的規模を持つ車両でなければ、まともに移動することもできないということね」


 それは電車ではなく、キャタピラ式の連結車両のようだった。

 線路なんてものをつくれば、すぐにタチの悪い妖怪に破壊されてしまうということだろう。

 ものものしい大戦車は土けむりをあげながら、どんどんおれたちのそばから離れていく。


「でも、逆に心配したくなるな。

 数百メートルの壁を築き、あれだけの頑丈な列車を使わなきゃならないのなら、この街の防衛線は大丈夫なのか?」


 深刻さが顔に出てしまうおれに対して、沙耶は挑発的な笑みを返す。


「あら、新介そんなこと心配してるの?

 わたしたち死霊族は強いのよ? この街を本気で滅ぼそうとするのなら、それこそトップクラスの妖怪が束にならないと不可能だわ」


 おれはうなずいた。

 この街を守りぬくために、いったいどれだけの死霊族の血が流れたのだろう。

 苦難に満ちた長い歴史を経て、この街の平穏はあるはずだ。


 そして死霊族の版図は人間界にまで及ぼうとしている。

 そしてその過渡期にあるのが、おれを死霊族の世界にいざなうという行いなのだ。

 彼らの今後をにぎるカギがおれ自身だと思うと、あまりにも……


「ああやべぇ、スケールのデカい物や話を見聞きしすぎて頭がクラクラしてくる」

「おいおい、大丈夫かよ。

 今から沙耶の実家だぜ? そんなんで大丈夫かよ」

「ん? そう言えばみんな、自分の実家には帰らないの?」


 言いつつ、タタミちゃんには申し訳なさげな目を向けた。


「ああそう言えば、タタミちゃんは実家と仲が悪かったんだっけ」


 タタミちゃんはふくれっ面で腕を組み、誰もいないところを見る。


「そうだよ!

 しかもアタシがバンド活動してるのを人づてに聞いたらしくて、またカンカンに怒っちゃってさ!

 帰ったらソッコーで大ゲンカになるに決まってるから、パスッ!」

「今すぐじゃなくていいから、ちゃんと仲直りしなさいね。

 他のみんなは?」


 言われ、大多数が不満げな顔をする。


「えぇ~っ!?

 沙耶の実家大豪邸(ごうてい)だよっ!? そんなん絶対泊まらなきゃ損だって!」

「ミノンちゃん、弥子ちゃんを実家においてきぼりにした責任感じてる?」


 そんな中、1人だけ神妙な顔をしているキースの姿があった。

 おれはそんな奴に思わず声をかける。


「どうしたんだよ。お前も実家と仲が悪いのか?

 ていうか悪そうだな。ヤンキーだし」

「ん? あ、ああ。そうだな。正直、親と顔合わせるのはしんどいな」


 しかしただヤンキーと言うだけならここまで深刻そうな顔をしない。

 よほど家に帰れない事情があるのではないかと(かん)ぐってしまう。

 しかし、それを口に出すのは野暮(やぼ)だ。


 タタミちゃんもそれに気づいたようで、おれに意味深な目を向けたままみんなと一緒に歩き出した。





 おれたちは吹き抜けを下りて地下鉄に向かう。

 沙耶の実家に通じているという路線に向かう途中、突然目の前に集団が現れた。


 かなりガラの悪そうな連中だ。

 よりによってバットや鉄パイプという、ヤンキーのマストアイテムを持参しての登場だ。

 例によって人通りの少ないトンネルである。


「おい、誰かと思ったら、キースじゃねえか。ずいぶん久しぶりだな」

「……お前ら、今さらいったい何の用だ」


 不安げに目を向けると、キースはいかにも気まずそうな表情になっている。

 あきらかに知り合いのようだ。


「決まってるじゃねえか。

 お前がなんでおれたちのグループから抜けて、のんきに進学校になんか通ってんだよ。

 しかもこんなカワイイ女どもとつるんでさ。いったいどうしちまったんだよ?」


 言われ、沙耶とタタミちゃんが前に進み出た。


「あら、かわいいだけじゃないわよ。

 あなたがたわたしが何者なのか、ご存じ?」


 不良の1人があわてて仲間に呼びかける。


「やべぇっ! こいつ狛田村家の令嬢だぞっ!」

「もてはやされるのは面倒だけど、こういうトラブルにはもってこいね。

 ところで、このわたしをお相手にする勇気はあるかしら?」


 不良たちは思わず後ずさる。

 沙耶ほどの腕があれば、こんな奴ら素手でもコテンパンにできるだろう。


 ところがここで異変が起こる。

 キースが突然「すまんっ!」と言って後ろへと駆け出して行ったのだ。

 前方のヤンキー達は「あっ! 待てっ!」と言いつつも沙耶たちに邪魔されて進むことができず、立ち往生する。


「おい、キース待てよっ! 待てったらっ!」

「ほっといたら?

 どうせアタシたちと違って本当に不死身なんだから、なにをされたって大丈夫っしょ」


 タタミちゃんはそっけなく言う。

 おれは思わず「そんな……」と言うが、彼女は首をすくめるだけだ。


「もっとも、彼の身に何かあったら承知しないけれど。

 もしそうなったら、あなたたちは狛田村家をも敵に回すことになるわよ?

 それでもよろしいのかしら?」


 沙耶の挑発に、ヤンキー達は口ごもったままその場を立ち去った。

 それを見て沙耶は思わずため息をついた。


「これでキース君の身柄も大丈夫でしょ。

 彼の背後にわたしがいるとわかれば、彼らも下手に手出しできないはずよ」

「おいおい、キース追いかけなくていいのか? いいのかほっといて」

「特別沙耶の家に行きたいわけでもなさそうだったし。ほっとこうぜ。

 なんだったら通信機能を使って居場所を探してもいいけどな」


 ヒャッパに言われても、おれはキースが消えて言ったほうをながめ続けた。

 なにか見落としているような気もするが、残念ながらそれがまったく見当がつかないのだった。





 漠然(ばくぜん)としたまま駅の列車に向かう。

 乗り込む列車はなんともレトロな造形で、茶色の塗装はまるで大正列車を思わせた。

 車内を見渡せば、床はフローリング、つり革もちゃんとした革でできているという本格仕様。


 そんな旧式の列車に揺られ窓の外をながめていると、風景は近代建築から最初に見た和風家屋、そして田園風景へと移り変わる。


「へえ、防衛線に囲まれた街だからてっきり全部都市なのかと思ってたよ」

「あったり前じゃん。この街は基本自給自足なんだよ?

 荒神市の食いぶちはできるだけ自分たちで稼ぐ! これ基本!」


 きっぱり言うタタミちゃんに続き、沙耶も付け加える。


「他の魔界都市や人間界から輸入してもらうこともあるけれど、めったに機会はないわね」


 田園の向こうには山のようなものも見える。

 どんよりとした天候以外は、人間界のド田舎とほとんど変わらない光景だった。

 それにしてもよくこんな天候で作物みのるな。たぶん太陽光じゃなくて魔力をエネルギーにしてるんだろうから、いちいち質問はしない。


 ところが、それがある時点を境に一変する。


「ほら! 見えてきたよ!」


 タタミちゃんが反対方向の車窓を指差し、おれは目をこらす。


 そのとたん、おれは自分の目を疑った。「……なんじゃこりゃぁぁぁぁっっっ!」


 車窓から見えたのは、


 山の斜面におびただしい家屋が立ち並び、

 その頂点に巨大な2つの建物がそびえ立っている光景だった。


 おれは頭をかかえる。


「城……城って……」


 なによりおれが驚愕(きょうがく)したのは大建築の一方が、


 何層にもつらなる立派な“天守閣”であることだ。


 おれは力なく顔をあげる。


「ねえ、まさかのまさかとは思うけど、あれが沙耶の実家ってことはないよね?」

「まさかも何もないと思うけど。

 あれがわたしたち一族が住まう、狛田村の敷地よ?」


 おれはもう一度頭をかかえた。

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