(3)
我らがアンガクは東京の奥地にあるので、都心に行くには何度も電車を乗り継がなければならない。
実に5回もの乗り継ぎを経て、ようやく目的地の原宿に到着。
「やった~! 我が愛しの原宿、ようやく帰って来たよぉ~!」
大喜びで両腕をあげるタタミちゃん。
おれも関心深くストリートをながめる。
「さっすが原宿。
2人が溶け込んでもまったく違和感がない。と言うかむしろ自然」
街を行きかう人々が、本来浮いているはずの我々の格好に目を向けても、ほとんど無関心で通り過ぎていく。
せいぜい美人が2人つれそっているという印象くらいだろう。
「むしろ普通の格好をしているおれの方が場違いなくらいじゃないのかっ!?」
「にゃはは~、平均顔だしね~」
「自覚しちゃいるが、はっきり言われると腹が立つ!」
ふてくされて沙耶を見ると、彼女はじっと街を行きかう人々に視線を向けている。
「というより、時おりとんでもない格好で歩いてる人たちがいるんだけど、あれ、なんなのかしら」
彼女が指差そうとするので、おれはあわてて払いのける。
「ダメっ! 指さしちゃっ!
沙耶から見れば奇抜でも、あの人たちにしてみれば命かけてやってんだからっ!
さすがにロングコートで太ももが半分以上見えてる短パンはくのはおれもどうかと思うけどな!」
それでもってロン毛でヒゲもじゃもじゃってどうよ? 意味がわからん。
「ゴス系の子も気合い入ってんね~。あのイカついマスクなんなん?
アタシもあれくらい気合い入れてこればよかった」
「この街じゃわりと普通でもタタミちゃんも十分気合い入ってるからそれ以上変な格好しないでっ!
そっちがそっちならおれはいったいこれ以上どうすればいいんだ!」
「新介クンは普通の格好でいいんだよ」
「いやムリだ!
2人が派手でこちらが普通の格好でいると逆に目立つんだよ!」
「新介君、あまり叫ぶとそれもまた目立つんじゃないかしら」
沙耶のいうとおり、時おり通りかかる人たちの中にはこちらに視線を送る人もおる。
それほど気にしていないようだが。
「と、とにかく行こう!
おれも原宿は歩き慣れてるわけじゃないからとりあえずタタミちゃんのおすすめの店を教えてくれっ!」
「ハイハイわかりましたから、そうやって強く背中を押さないの!」
「あ、あそこには変な髪の色の集団がいるわ。あそこまで行くともはやわたしたちは普通ね」
「だーかーら沙耶ちゃんは人のファッションにいちいちツッコミを入れない!
こっちの世界じゃわかってても声はあげないもんなんだよ!」
沙耶の「そんなものなの?」と言う声を耳にしつつ、おれたち3人は人通りの多い竹下通りの中に入っていった。
で、夕方。
「うわ~っ、調子に乗って買い物しまくってたらもう夕方だよ~。
時間があったら秋葉原にも寄りたかったのに~」
「新介クンって、実はヲタ?」
キャリーバックともに複数の紙袋を持ったタタミちゃんがジト目を向ける。
「いやいや、ちがうよっ!?
ただせっかく泊りがけの旅行なんだから、たんに遊びに行ってみたかっただけ!
実際には2,3回くらいしか行ったことないから!」
「2,3回くらいはあるんだ……」
「1度や2度ぐらい遊び半分に行くことはあるでしょ!
なんで3回くらいでもうアキバ系扱いするんだよ!?」
「ふーん?
まあでも新介クンがアキバ系じゃなくても、アタシは絶対一緒に行かないかんね。
あんなセンスのかけらもない要素の吹きだまり、アタシは10秒ともたないから」
「原宿の中にもセンスを疑うような人たちがいるけど……」
「だから沙耶はそうやってそっけない顔で毒吐かない!」
そして彼女の荷物を見る。
原宿通いをしているタタミちゃんより、おれや沙耶のほうが紙袋が多い。
「それにしても、どうしようこれ?
おれは今日泊まる実家に持っていけばいいけど、沙耶はどうすんの?
まさか明日もこれを持ち歩くわけにもいかないし」
「とりあえず、郵送で学園まで送ろうかしら?
こちらではどうやって荷物を送ればいいの?」
「う~ん、代理店に頼むっていうのもあるけど、家に帰ったら家族に頼んでみるよ。
運送屋がやって来た時に引き取ってもらえばいいと思う」
「本当? 新介君優しいのね」
向かい合った沙耶の柔らかな表情が、かたむいた黄色い光に照らされ、より一層映える。
心なしかドキドキしてしまうおれ。
「え~っ、ほんとぉ~っ!? それじゃアタシのぶんもお願い~っ!」
「別にタタミちゃんの分もいいけど、タイミング良く口をはさんでくるのは、いい感じの雰囲気を邪魔したかっただけじゃないのかぁ?」
「さあね~」と口笛を吹くタタミちゃんの、胸の位置までかかげた紙袋に目をやる。
「てか、こりずにまた買い物しやがって。
学生寮のクローゼットには限界があるんだから、みんなで使う部屋をハンガーだらけにすんなよ?」
「あ、それなら大丈夫。
寮長のリサ様もそういうことわかってるのか、女子生徒に限り貸しクローゼットを用意してくれてんだよね。
さっすが、女が寮長だとそういうサービスもしてくれて助かるわぁ~」
「寮長はもっと生徒の金銭感覚に気をつけたほうがいいと思うな!」
くだらないやり取りをしつつ、おれたちは再び電車に乗り込んだ。
「いや~、原宿はあきないね~。 1日中いても遊べるわぁ~」
「わたしも初めてだったから楽しめたわ。
新介君はだいぶ参ってたみたいだけど?」
「う~ん、正直2人が一緒じゃないと絶対入らない店もありました。
ていうか店員さんのゴスメイクとあやしい服装がこえぇ~」
「ところで新介君、ここからあなたの実家まで連れてってもらうわけだけど、どこなのかしら?」
「ああ、それなら埼玉県の○○市ってところ。
この路線だと乗り換えは1回だけで済むかな」
とたんにタタミちゃんがこちらの方にクルッと顔を向けた。
「なにっ!?
本作の主人公の出身地は都内じゃなかったのかっ!」
「なんで発言が若干メタ的になってんだよ。ラノベじゃあるまいし……
おれの現在置かれてる状況は完全にラノベっていうかバカマンガだがな!」
タタミちゃん、とたんに不機嫌な顔になる。
「な~によぉ~う?
たしかにおかしな設定だけど、アタシたちはアタシたちなりにしっかり生きてるつもりなんだからね?
いくらなんでもバカはないでしょぉバカはぁ?」
「ハイハイ、すみませんでした。
以後発言には気をつけたいと思います」
言いながら、おれは電車の外の光景に目を向けた。
何度も目にしたことがあるその光景は、いまおれが置かれている現実を不確かなものにさせてしまう。
思えば、自分が生きている現実は、よく考えれば到底ありえないものだと気づく。
身体のどこを切っても死なないゾンビ(と言ったら失礼か)と生活を共にして、空中に穴を開けたゲートをくぐって地獄まで行く。
つい2か月前までは退屈とすら思える日常の世界を生きてきたというのに、それが今は不可思議な世界に順応し、その上そちら側の住民を2人も連れて、おれはいま実家に帰ろうとしている。
横を見た。さらに信じがたいことは、連れていこうとしている2人が、はたから見ればどちらもこれ以上ないくらいの美少女だということだ。
非現実的要素に比べればいくぶんグレードは落ちるが、それでもおれの中では重大事件ということには間違いない。
信じがたい面持ちで2人をじっと眺めていると、タタミちゃんの目がすぐこちらを向いて、「見とれんな~」といたずらげに笑う。
沙耶もこちらに視線を送るが、こちらの方は興味がないと言わんばかりにすぐに前方に目を戻してしまう。いや、ちょっと赤いか。
埼玉県の県庁所在地、その名もさいたま市(なぜひらがな表記なのかは不明)の南側には、いくつか市が存在する。
その中の1つ、閑静な住宅街の中に、おれの実家は存在する。
「さすが首都圏、どの家も庭がちっちゃいね~」
やたらと周囲をキョロキョロするタタミちゃんにおれはあきれぎみに返す。
「そうやって見まわさない。見てる人がいたらどうすんだよ?
それに死霊族の街ってそんなに庭大きいのか?」
「中心地だとそうでもないけど、郊外に建ってる家はどこも庭が広いよ。
ざっと家の規模とおんなじくらい。アタシの実家もそうだよ~」
「人口が数十万人しかいないのによくそんな家に住めるんだな」
「土地範囲は広いからね~。
みんな死霊族だから結構広い範囲のテリトリー守れんのよ」
「タタミちゃんちで庭が広いんなら、沙耶の実家はどれくらい広いんだ……?」
おそるおそる聞いてみると、沙耶本人が口を開いた。
「広いどころか、死霊族の里の一角を占めるわね。
わたしの祖先はもともと対妖怪退治の専門家を集めた組織の頭領だったから、魔界に移り住んだ後も里の首領の1人として君臨し、代々死霊族をまとめてきた家柄ね」
「て、てことは……まさか……」
おれは一瞬タタミちゃんのほうに顔を向け、がく然とした顔でつぶやいた。
「お嬢様どころか、時代がちがえばお姫様じゃねえか!」
「もう過去のことよ?
もっともこちらの世界にあわせて民主政に移行してからも、わたしの家は死霊族のテリトリーを守る将軍としての役目を引き継いで、国境とも言える場所に大きな砦を構えているわね」
「と、とりで……
歴史かファンタジーでしか聞いたことがないような場所が、沙耶ちゃんの実家ですか……」
「まあ、いっぺん見てみたら?
新介クン、あまりのすごさにビビるから」
のんきに言うタタミちゃんにおれは若干引きぎみになる。
「それって魔界に行く前提のことですよね?」
「そんなこと言わない!
うちの学校に慣れたくらいなんだから、あたしたちの街だってそんなに悪いとこじゃないよ!?」
「わーった、わーったから、そんな目でおれを見ないでくれよ」
視線から逃れるように前を向いたおれだが、ふと気になり沙耶のほうを向いた。
「あれ?
てことは、まだ妖怪が死霊族の里におそいかかったりすることがあんの?」
「めったにないことだけど。
わたしの記憶では、少なくとも2,3回は襲われたことがあるわね。
相手が妖怪ともなれば、いくら死霊族と言えども危険であることに変わりないわ。
以前の襲撃の際にも、少なからず被害者が出たわ」
それを聞いて、おれの心にすき間風が吹いた。
くもる顔色を隠せない。
「そうか……
それじゃいざとなったら、沙耶も妖怪を相手に命がけで戦うことになるんだな」
言いつつ、おれははっとして質問を切り替えた。
「って、いまは人間界に順応するためにこっちに来てんだよな? いいの?
実家守らずに、こんなことしてて?」
すると、沙耶はほほえみを浮かべてこちらに視線を送った。
「大丈夫よ。
わたしの父と母はまだ健在だし、当主はすでにわたしの親戚が継ぐことになってるの。
優秀な部下も大勢抱えているし、いまのところはわたしの力が必要になることはないわ」
「場合によっては、でしょ?」
そう言うタタミちゃんは、なぜか不機嫌な顔になっている。
「ところで、新介クン。
さっきから話聞いてると、ちょくちょく沙耶のこと呼び捨てにしてない……?」
おれははっとした。妙に声が怖い。
息つくヒマもなく、タタミちゃんはいきなりおれの首に腕をまわして、反対の拳で軽く頭をグリグリしてくる。
「やっ! やめろっ!
死霊族の力でそんなことすればおれの頭をグリグリすれば穴が開くってっっ!」
「うるさいっっ! 対してアタシはまだ『ちゃん』づけかっ!
沙耶を呼び捨てにするんならアタシもそうしなさいっ!」
「わあぁぁぁぁっっ!
それはただ単にタタミちゃんを呼び捨てにしたらなんか違う気がするだけなんんだよぉ~!
カンベンしてくれぇ~~っ!」
となりでは、沙耶がクスクス笑っている。
いつもはそっけない態度ながら、こうやって人間らしい反応を見せるものだから、受難の際にも内心浮ついてしまうのであった。
「ただいまぁ~」
それほど広くない庭を抜けて、おれは玄関の扉を開けた。
今日は帰ってくることを事前に伝えてあったはずなのだが……
一瞬不安に思ったが、いまの向こうからひょっこり出した顔にホッとする。
「おう、おかえり。あれ? お友達は?」
顔を出したのは、大学生になるおれの兄。
いつも弟を小バカにしてからんでくるうっとうしい奴だ。
「玄関先で待ってるよ。
きちんとあいさつさせたいから、親父とお袋も呼んで来て」
「ったくメンドくせーな。
なんでお前はそういっつもいっつも律義なんだ? 弟のくせに」
「弟は関係ないだろ? いいから早く連れて来いって」
兄は「うるせーな」と言いつつ、奥に消えた。
「ビックリさせたいのはわかるけど、あまり長くなるのは困るわよ?」
玄関の向こうで待つ沙耶に小さく「しっ!」と言っている間に、居間で動きがあった。
「ハイハイちょっと待ってねー!
新介が新しいお友達連れてくるなんて久しぶりだから、ちょっと楽しみだわー」
そう言って兄と一緒に現れたのは、歳のわりに美人な母と、今時珍しいくらい口数が少ない(毛髪も少ない)父。
そっけない親父に比べ、お袋はやや上機嫌で玄関に現れる。
「おう。親父、お袋、ただいま」
「お帰り」
「お帰り。
寮生活だからってなにげに心配してたけど、元気そうじゃない。学校楽しい?」
「寮生活だからな。
なにげに苦労することも多いけど、バリバリだ」
おれは笑顔でうなずく。
一緒に住んでた時はウザいとすら思う家族も、こうやって久々に顔を合わせると安心感があるものだ。
「出会った友達を連れて来たっていうんだから、大丈夫だろ。
それより早くその2人に会わせろよ」
「待ってました兄貴。じゃ、学校で出会った友達を紹介しま~す。
そいじゃ2人とも、入ってきて」
「おじゃまします」「おっじゃまっしまぁ~す!」
2人が連れそって玄関に入ってきたとたん、目の前の家族が一瞬固まる。
次の瞬間、ギョッとしてそろって後ろの壁にもたれかかった。
「お、女の子……!
新介が知らない女の子を連れてきたわ! どうしましょっっ!」
「な、なんなんだその格好はっ!」
「しかも2人ともどえらいベッピンじゃないかおいっっ!」
お袋、兄、そして親父が口々に叫ぶ。特に親父の動揺っぷりがすごい(なぜ「べっぴん」?)。
チラリと後ろを見ると、2人はお互い顔を見合わせてクスクス笑う。
「お、オヤジ。
右の黒髪はその通りでも、左の金髪はただメイクがやたら濃いだけで、まだ美人と決まったわけじゃないと思うぞ?」
兄のあまりの発言に、当然タタミちゃんはここぞとばかりに顔をしかめる。
「な、なんなのこのオッサン! 初対面の人に向かってそれはないでしょっ!?
ていうかこれはファッションでやってるだけで容姿に自信がないわけじゃありません!
すっぴんでもすごいんだからアタシ!」
「でもわたしにはかなわないタタミ」
「沙耶はいきなり何言ってんのっ!
ていうかなにげに的を得てていまいち反論できないしっ! くやし~~~~っ!」
「まあまあ、玄関先で話をしててもしょうがないから、2人ともおあがんなさい。
晩ごはんはもう作ってあるから……」
そう言って振り返った時、お袋はなぜか額に手を当てた。
「昔のあたしより美人がいただなんて……」
「お袋そうやっていつも自慢してるけど、いまいち遺伝しなかった次男のことも考えてやってください」
晩メシはなにげに豪勢である。
おれの大好物に加え、テーブルの上には色とりどりのおかずが所狭しと並んでくる。
「なんだこの宴会仕様は?
いくらおれの里帰りだからって、ここまでする必要あるか?」
「そんなこと言うんじゃねえよ。
いったんはあきらめた高校入学ができたばかりか、こうやって友達まで連れてきて帰って来たんだから、おふくろの喜びようもハンパなかったんだよ」
兄貴に言われ、おれはしぶしぶ納得してうなずいた。
あわや高校浪人かと思った時はおふくろも相当元気をなくしていたが、こうやっていつもどおりに戻っているところを見るとおれも心底ほっとする。
「ささ、お友達も遠慮なくいただいてね。
それにしてもびっくりしたわ~。まさか新介の連れてきた子がこんなかわいい子たちだとは思わなかったもん」
「ありがとうございます」
「いえいえ、そんな~。
カワイイってことに関してはありがたく受け止めときますけど」
「2人とも容姿をほめられて謙遜は全くしないんだな!」
おれがツッコミを入れると家族は小首をかしげる。もともとそういうタイプじゃないからだろう。
アンガクのせいでこうなってしまったに違いない。兄貴がなんともなしにつぶやく。
「それにしても、思ったよりは普通の子だな。
高校スベった奴を受け入れてくれるくらいなんだから、
どんな“チミモウリョウ”が通ってる学校なのかと思ったが、ちょっと安心したな。一見原宿スタイルなのにはちょっとビビったが」
内心、ギクッとした。
「あはは、やだなぁ~お兄さん。
魑魅魍魎って人聞きの悪い……」
「そ、そうよね。
わたしたちの通ってる高校のこと、そうやって言われちゃうとちょっと心外ですよ……」
2人とも声をふるわさないで! 見た目は普通でもまさしくおっしゃる通りなのはわかるけども!
「どうしたのお2人さん? なんかあせってるようだけど」
おふくろが思いのほかするどい反応を見せて、肝を冷やした。
うちの母こう見えて結構カンが鋭いところがあるから……
「そんなことより、自己紹介するのが先だろ。
勝手な話で盛り上がるな」
親父がそっけない態度をよそおって言う。
いや2人にチラチラ視線を送りまくってはいるが。何にしても助かった。
「そうだよ。
2人ともちゃんとしたあいさつがまだだろ? ちゃんとしろよ」
出来るだけ平静をよそおった。
うまくいったようで、2人ともピシッと姿勢を正した。
「ええ、ごめんなさい。
わたし、新介君のクラスメイトで、狛田村沙耶と言います。
クラスでは学級委員を務めていて、なにかと世話になっています」
「巌谷蛇々美です。
こんなナリですけど、学校じゃマジメでやってるつもりっス。
けっこう変わった校風なんでおかしな奴が多い学校なんですけど、アタシがフォローしてなんとか新介クンを支えてます!」
「そう。わたしも新介がどんな学校に通っているのかちょっと心配だったんだけど、お2人みたいなクラスメイトが一緒なら安心ね。よかったわ」
よかった、上機嫌だ。
おれは少しほっとした顔の美少女2人と目線を合わせ、「いただきます」と言ってようやくはしを手に取った。
沙耶は行儀よく手を合わせ「いただきます」、タタミちゃんはさっそくハチと白いご飯が盛られた茶碗を持って「いっただっきまぁ~す」と勢いよくおかずをとり上げた。
「で、どんな学校なんだよ?
そのおかしな連中ばっかりっていう学校」
口をもぐもぐさせながら言う兄貴の声に、そんな2人のはしの動きが止まった。
だからもっと落ち着けって!
「ああ、それなら。案外普通の学校だよ。
ただおれみたいに事情のある生徒を引き受けてるってだけで。
となりの2人みたいに特に事情もない子もいるから、大丈夫だって」
おれが事前に考えていたシナリオをつぶやくと、2人ははっとして無理やり平静をよそおい、狙ったおかずを皿に盛り始める。
「そぉか? 俺てっきり、不登校とか問題児とか、そんな奴らばっかり集まるところとだと思ってたぞ?
新介、さっそくいじめられんじゃねえかと内心心配してたんだがな」
こんどはおれの顔色がくもった。若干その傾向あります……。
「大丈夫だ。
沙耶やタタミちゃんもいるし、そんなにひどい嫌がらせまでは受けてねえよ」
なぜかエリザベート服部の顔が思い浮かんだ。
非道丸みたいな先輩ヤンキーどころか、学校にとんでもない体罰教師がいるとは口が裂けても言えない。
「へえ、新介の学校では異性も下の名前で呼ぶの。
そういうところは変わってるわね」
背筋が凍りついた。
しまった、2人を名字で呼ぶ訓練はまったくやってなかった!
「そ、そうなんだよ! 変わってるだろ!?
でもおかげで早く仲が良くなれるから、その辺は興味深いところだけどな」
「は、ははは、そのおかげでアタシたち女子とも早く仲良くなれたんだから、いいじゃないですか!」
タタミちゃんが若干よけいなフォローをするが、お袋は「そう、よかったわ」と言ってふたたびおかずにハシを向ける。
た、助かった。急ごしらえの言い分だったがうまく言いつくろえたようだ。
ただ兄貴は妙な視線を送ってくるが、無視して好きなおかずに手をつけ、勢いよくほおばることで事なきを得た。




