GWは本当はウィークではないんじゃないだろうか(1)
陰鬱な校外学習(一部は大変エンジョイしていた)が終わり、安国学園はいよいよゴールデンウィークに入る。
この学園では通常の5月3日から5日の3連休に加え、間をおいた土日をはさんでの6日間。
やや1週間の休みが与えられる。
おれのまわりでは連休中どうやって過ごすかの相談があちらこちらで行われている。
その大半は死霊族の里にある実家に帰る予定のようだ。
「あっっ! ちきしょう!
こないだの校外学習の印象があまりに強すぎて、連休中何をして過ごすかまったく考えてなかった!」
突然ヒャッパが叫びをあげる。おれはしらけぎみに奴を見た。
「どうせ実家に帰ってパソコンやゲーム三昧なんだろ?」
「ははは、そういえばそうだった。新介、よくわかったな」
「お前のキャラからすればそれしか考えられねえよ……」
ため息まじりに言うと、横から女子に話しかけられる。
「そう言えば新介くん、あんたはいったいどうするの?」
話しかけたのは、色白が多い死霊族の中では異例な、小麦色の肌をした海宮実呑ちゃん。沙耶とタタミちゃんのルームメイトだ。
「あ、おれ? 実は考えてることがあって、一度実家に戻ってみようと思ってんだよね。
うちの家族が、あんまし音沙汰のないことをひどく心配しててさ。
いっぺん無事な姿をみんなに見せておかないと」
言いつつ、おれは胸に手を当てて「無事じゃないけど……」と気落ちしながらつぶやく。
校内随一のヤンキーに引き抜かれた心臓はまだ返ってこない。
「まあ、無理もないね。
安否を確かめようにもこんな山奥、しかも場所を知らされてないんじゃ行きようにも行けないしね」
苦笑するミノンちゃんに、今度はおれがたずねた。
「ミノンちゃんと弥子ちゃんはどうするの?」
すると彼女はとなりにいる、相棒同然(というより保護者)の垣冴弥子ちゃんと顔を見合わせる。おかっぱ頭で少し小柄な彼女は若干幼げな印象。
「わたし? 残念だけど、実家に帰ったら家のお手伝い。
ほら、わたしのおうち、神社だから」
「お兄ちゃんの手伝いしなくてもいいの?」
ミノンちゃんのいうお兄ちゃんとは、校内にある魔界とのゲートを兼ねる神社の神主をさす。
「お兄ちゃんは、もともと1人だから自分よりは実家のほうを手伝えだって。
なんならテニス部の人たちにお手伝いしてもらえばいいし」
「なにげに便利だな兼テニス部顧問!」
「あら残念。あたし学校に残ってずっと部活漬けだわ。
なんつったって3つかけ持ちだからね」
「部活を3つかけ持ちって……」
いくら彼女の特殊能力が「相手の技能を完コピする」と言っても、いくらなんでも3つの部活を並行してやらなくてもいいのでは……まあいいけど。
「その間弥子とも離れ離れかぁ~。
なんだかさみしいゴールデンウィークになりそうだわ」
「だったら、すぐに帰ってくるから。
そしたら部活、見にいってもいい?」
「さっすが! 持つべきは心の友よぉ~っ!」
そう言ってうれしそうに弥子ちゃんのやや小さな身体をギュウ~ッとするミノンちゃん。
とまどう相手を見て、どちらかと言うとそれが目的なのではないかと勘ぐったりする。
そんなことはさておき、おれは他のメンバーに目を向けた。
「それじゃ、あとのみんなはどうするんだ?」
「俺か? ぶっちゃけ、まだ白紙。
ヒャッパと同じで予定は全く考えてない」
最初に返答したキースに目を向ける。「実家に帰るってのは?」と問いかけると、なぜか思い切りバカにするかのような顔になった。
「カンベンしてくれよ。せっかく親元を離れたっていうのに、実家に帰れだと?
俺がホームシックになるタイプに見えるか?」
「はいそうでした。
ヤンキーにその手の質問をするのはご法度でしたね、ハイハイ」
「おれは実家に帰るつもりだ。
新介、お前のおかげでこの左手が少しはまともになった。
その報告とともに、こいつを見せて少しでも両親を安心させてやりたい」
そう言ってかかげた包帯だらけの左腕を悠然とながめる影乃。
「影乃、お前って意外と親思いだな……」
感心して言うと、影乃は不敵な笑みを浮かべ「まあ、いろいろ迷惑をかけたからな」とつぶやく。
それを見てなんだか妙な安心感を覚える。
ここで感心して腕を組む女子がいた。
「そっか~。みんな結構しっかり予定立ててんだね~。
アタシなんか、けっこう迷ってるんだけど」
そういうのは相変わらずのゴスパンク姿のタタミちゃん。
おれは思わず「迷ってるって?」と問いかけた。
「実家に帰るのもいいけど、どうせだから人間界に泊まり込みしたいんだよね。
1日2日じゃじっくり都会見物もできないから」
「実家の方は大丈夫なの? ご両親は心配してない?」
するとタタミちゃんは照れくさそうに笑って金髪の後ろをなでた。
「にゃははは、実はうち、親と壮絶なケンカ中なんだよね。
くのいちとして育て上げたつもりなのに、人間界の文化に毒されるなだって。
まったくやんなっちゃうよね。前言撤回、実家に帰るのナシだわ」
「泊まるツテはあるのかよ?
向こうの友達はお前の正体知ってんの?」
「そこなんだよね~。
人間でアタシの正体を知ってる友達はあんただけだわ。
新介クン、よかったら泊めてくんない?」
「はぁ? 待てよ。
おれの兄弟兄しかいねーんだぜ? 急に女友達連れてきたら怪しまれるって。
いやそうじゃなくても知らない女の子を家に上がらせるのはまずいって。彼女だと思われるだろ?」
「ふ~ん? アタシはそれでもいいんだけどなー」
そう言って意味ありげな笑みを浮かべ、彼女はアゴに人差し指を当てる。少しどぎまぎした。
「タタミ、誤解されるような発言はひかえておいたら?
ほら、新介君少しとまどってるみたいじゃない」
横から沙耶に口を挟まれ、タタミちゃんはいぶかしげにジト目を向ける。
「それじゃあんたはどうすんの?
名家のお嬢様なら、どうせ実家に戻れとか言われてんでしょ?」
「いいえ?
それはあるとしても、わたしには別の予定があるわ」
あっけらかんと言う沙耶に、おれは思わず「別の予定?」とオウム返しした。
「会いたい人がいるの。
だからわたしは、一度都会のほうに出ていかなきゃ」
一瞬ドキッ、とした。
沙耶の口から、会いたい人?
顔色を悟られてしまったらしい。
タタミがあわてて沙耶の両肩をつかんで激しくゆさぶる。
「ちょっとぉ!
会いたい人って誰よっ!? 説明できない相手っ!?」
「やめてよ。
別に隠すような相手ではないわ。説明が少し面倒だっただけ」
そう言って沙耶はまっすぐおれの方を見た。まるで誤解を解きたいと言わんばかりに。
「こちらの世界に、兄がいるの。
いまは政府関連の医療施設にいるわ」
「なんだ、お兄さんか。って、なんで医療施設?」
「聞いてなかったかしら。
死霊族がこちらの世界で職に着こうとすれば、たいてい政府関連の施設になるわ。
身体能力や特殊能力を生かして極秘のエージェントになるか、たぐいまれな生命力を活かして不死身のモルモットになるか。
それ以外の選択をするのはまれよ」
「っていうより、需要がないんだよね~」
そう言ってタタミちゃんが皮肉まじりに笑みを浮かべて、腕を組む。
「死霊族ってなにげに警戒されてるから、絶対政府の監視対象にされるし。
どうせ目をつけられるくらいなら、政府の下で働いた方がましって思うのが普通だよね。
アタシも将来は政府の極秘エージェントかな~」
「兄は後者を選んだわ。
臨床実験の対象として、病原菌やウィルスを身体にとりこんで反応を見たり、検討対象の新薬を飲んで異常がないか確かめたりしてるわ」
「なんでお兄さんはそっちの方を選んだの?」
「理由は2つね。
政府のエージェントになれば、どういう依頼が来るかわからない。
表ざたにできない裏の仕事を任されることになるんでしょうけど、それがわたしたちのモラルにかなうものになるかどうかは微妙だわ。
兄はそれを警戒したんでしょうね」
「そっか。
死霊族の中には汚れ仕事をいやがる人もいるだろうなぁ」
おれがぼう然と上を見上げると、タタミちゃんが「そんな仕事来たらアタシすぐにやめるわ」とこぼした。
そううまくいくだろうか、という言葉をおれは飲み込んだ。
「もう1つ理由が。兄はわたしや親族と違って、剣の素養がなかったの。
もし気概があってもそちらのほうで採用はムリね」
「はははは、聞いてるぜ?
先祖代々妖怪ハンターとして名をはせる狛田村家ってのは、男の剣客が育ちにくい家柄なんだろ?
お前の兄も例外じゃなかったわけだ」
バカにしたように笑うキース。とたんに沙耶が動いた。
次の瞬間には、キースの目の前まで押し迫った沙耶が引き抜きかけている刃を相手ののど元に押し当てる。
「兄をバカにしたら、痛い目にあわせるわよ?」
沙耶の目つきが、いつになく険しい。
おれを含め、その場にいる全員の顔が青ざめる。
対するキースはと言えば、まるで余裕しゃくしゃくと言った表情で彼女を見すえる。
「おお怖い。お嬢様は案外気が短いんだな」
「キース君こそ、どうしてそんないつもふざけた態度ばかり取っているのかしら。
本当に心から楽しんでる? たまにはまじめに武術に取り組んだら?
あなたにだって素質があるのに、腕が泣いてるわよ?」
「なにぃ?」
キースの表情も険しくなった。
「だったら実戦で鍛えてやろうか?
女を傷つけるのは趣味じゃないが、お前は別だぜ? 狛田村のお嬢様」
両者、にらみあう。
頼むから談話室でケンカしないでくれよ?
「ああそうだぁっっ!」
険悪な雰囲気に、タタミちゃんが割って入るように2人の身体を無理やり引きはがした。
「新介クンッ! アタシだけじゃなくて、沙耶も一緒に泊めてくんないっ!?
そしたら彼女ってうたがわれるのはなくなるから!」
キースが「なにすんだ!」と抗議の声をあげるが、無視される。
沙耶があきれぎみに髪をかきあげる。
「どうしてそうなるのかしら?
わたし、男の人の家に泊まるのは抵抗あるんだけれど?」
「アタシが一緒だから大丈夫だって!
沙耶、どうせ泊まるところ決まってないでしょ!?」
「そんなことないわ。政府の人が部屋を用意してくれるから」
「それじゃダメだよ! どうせ変なところしか用意してくれないんだから!
新介クンちなら絶対大丈夫だって!」
「それはどうかしら?
新介君、女の子を家に泊めたことないんでしょ?」
「ああそれなら大丈夫。
おれの幼なじみに同年代の女の子がいるから、そいつけっこううちに遊びに来て、しょっちゅう泊まったりとかしてる……」
「「おんなの、こ……?」」
2人が同時にこちらを見た。なぜか殺気のこもった視線……
「……いや、いやいや違うぞっっ!?
そいつはあくまでもくされ縁で、決して怪しい関係と言うわけではない!
え? いやいや、あいつとはそんな関係になるなんてあり得ないっ! そんなまさかっ! むしろ吐き気とかするっ! うぇぇぇぇっ!」
あわてたおれの反応を見てキースは楽しそうな声をあげた。
「よかったな2人とも。どうやら新介はすでに経験済みみたいだぞ」
「ちっっっっが~~~~~~~~~~~~~~~~~うっっっ!」
そんなことはさておき、おれは実家に沙耶とタタミちゃんを連れていくことになった。
女子を泊めるのは初めてではないものの、なんせ家族の知らない子たちである。
しかも死霊族ときた。さて、どうなることやら。
気になる異性を2人も家に泊めるという、うらやましすぎる状況にヒャッパがひたすら恨み事を言い続けていたが、それを気にする余裕などなかった。




