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(5)

 気がつくと、おれは校舎と体育館をはさんだ場所に引きずり倒されていた。

 顔をあげると、見覚えのある不良集団の姿があった(不良集団と言うよりはあやしい宗教団体だが)。


 中央の袈裟(けさ)を着て全身を真っ黒に塗りたくったドクロフェイスが目を見開き、おれを凝視(ぎょうし)する。


「また会ったな結城新介。今宵(こよい)こそ、我らの悲願、果たさせてもらおう」

「お前らっ! まだあきらめてなかったのかよっ!?

 いいかげんおれの心臓返せよっ!」


 するとドクロのとなりで腕を組むギョロ目の全身呪文が、人差し指を立てて左右に振る。


「これは生徒会の要望でもあってな。

 邪魔者であるお前にはこの世自体から消えてもらおうという話になっている」

「なんで命まで狙うんだよっ!?

 ここを抜けだして誰かにここの話をしたところで、誰も信じてくれるわけでもないだろうに!」


 すると身体に巨大ヘビを巻いた、白いマッシュルームカットが吊り目をニヤリとさせる。


「そんなこと知ったこっちゃねえよ。

 めったに人目に出てこない連中が考えてることなんかわかったもんじゃねえしな」


 となりの目隠しをした長髪もこれ以上ないほどにゆがんだ笑みを浮かべる。


「そんなことはどうでもいいんだ。

 とにかくお前をいけにえにささげて、ぶざまに最期の断末魔をあげるところを聞きてえんだよ俺らは」

「結局お前らはおれが死ぬところを見たいだけじゃねえかよっ!

 このヘンタイ鬼畜(きちく)集団がっっ!」


 ついでに筋肉モリモリのホッケーマスクは相変わらず一言もしゃべらない。


「わかってんじゃねえか。だったらさっさと立て!

 おれはお前をここまで運んで来て疲れてるんだ!」


 すばやく動くモヒカンに腕をひねりあげられ、おれは強引に立たされた。

 もし途中で誰の目にも触れられてないとしたら、おれはこのまま……


「待て待て待てぇ~~~~~~~~~いっっ!」


 上空から声が聞こえる。

 見上げると、校舎の屋上に巨大なシルエットが浮かび上がっている。


 それが不意に下に飛び降りると、おれがいるすぐそばのアスファルトに、あきらかに常人ではないサイズの人影が叩きつけられた。

 アスファルトは大きくひび割れ、その破片がここまで飛び散っておれは思わず身を伏せた。


「おわっっ! あぶねぇぇっっ! なんだよ死ぬところだったじゃねえかっ!」


 怒って顔をあげると、すっくと立ち上がった見覚えのある風体は仁王立ちで腕を組んでいる。


「応援団番長っっ、荒木笹勝馬(あらき ささかつま)っっっ!

 ここに見参っっっ!」


 久しぶりに聞く、ものすごく野太い発声。

 前にまわりの連中とやり合った時以来、まったく見たことがない。いつもどこでなにをしてるんだコイツは?


 そんなナゾの番長は、こちらに岩のような顔を向けるなりニヤリとした。


「まったく、何て顔をしてやがるんだ。

 お前は救世主がやってきたことに感謝はねえのか?」

「あ、いえ。ありがとうございます」


 素直に頭をペコリと下げると、気のせいだろうか、岩の顔が少し赤面したかのようにも見えた。


「お前、こないだも大活躍したんだって?

 おもしろいじゃねえか、腕っぷしはかなわなくても、頭をきかせて服部に立ち向かうなんてな。

 オレ様にゃとてもマネできねえな」


 おれが赤面すると、番長も照れかくしでもするように片方のゲタをずらし大きな両拳を胸にかかげた。

 それを見たドクロ顔が不機嫌な表情になる。


「笹勝馬。またお前か。

 だがこんなところに1人で来て、我ら6人に勝てるとでも思ってるのか?」

「フン、ちょうどいいハンデだ。なんなら6人全員でかかってきてもいいんだぜ?」


 言われ、非道丸たちはいっせいに身構える。

 どちらかと言うと相手をリンチしようという意図が見え見えだ。


「ちょっと待ちなっっ! お前らの好き勝手にはさせないよっ!」


 別の声に振り返ると、夕日に背を向けて見覚えのあるシルエットが浮かび上がる。

 おれではなく非道丸のほうがおどろきの声をあげる。


「『エリザベート』っっ!?

 生徒会の顧問(こもん)であるお前が、なんで味方である我々を止めるっ!?」


 軍服姿の女性は、すでに取り出していた鋼鉄のムチを乱暴にアスファルトに叩きつける。


「誰がそいつを好き勝手料理していいと言った?

 結城新介はわたしの獲物なんだよ。お前らなんかに手柄をとられてたまるかよ」


 コツコツ靴をふみならしてやってくる服部に、番長は鼻息荒く笑いかける。


「おどろいたな。お前みたいな性悪女が、おれらの味方になるだなんてな」


 すると服部は心底不機嫌な顔で横目ににらみつけた。


「だぁれがお前みたいな不潔(ふけつ)なバカと手を組むと言った?

 カン違いするんじゃねぇ。あたしはあたしで好き勝手やるから、お前はうかつにあたしのそばに近寄ってくるんじゃないよ!」

「フッ、それで十分だぜ」


 そう言って笹勝馬は相手に立ち向かう。服部も同じようにした。


 しかし2人とも肝心なことを忘れている。おれの真後ろに、もう1人敵がいることを。

 案の定、モヒカンはおれの身体にしがみついた。


「お、うわぁっっ!」「てっ、てめえら動くんじゃねえっ!」


 とたんに番長と服部はしまったという顔で振り返る。

 しかし、おれを後ろから羽交いじめにする力はすぐに収まった。


「まったく、あなたたちはケンカのことばかりしか考えてないのね。

 ちゃんと新介君の安全を確保してからやりなさい」


 おれが後ろに振り返ると、横向きに倒れ込むモヒカンの後ろから剣をおさめる黒髪美少女の姿が現れる。


「沙耶っ!? どうしてっっ!」

「キース君とヒャッパ君がなにもしてくれないと思ってた?

 2人がすぐに知らせてくれたの。少し時間がかかったのが心配だったけど、足止めをしてくれた番長と服部に感謝ね」

「フン、おれはお前のことを認めたわけじゃねえからな。いつか必ず、おれはお前に勝つ」


 番長がつっけんどんに言い返した後、服部も吐き捨てるように告げる。


「チッ、てめえまでやって来やがったのか。

 お前が来ると調子が狂うんだよ。わたしのムチが当たらねえようにせいぜい気をつけるこったな」


 番長と服部はふたたび前に向き直る。沙耶がそっとおれの身体に手をかけた。


「新介君は早く逃げて。じきにとんでもない修羅場になるわよ」


 おれがうなずいて後ろに下がると、沙耶は番長と服部の間に立った。

 並び立つ剣を持ったセーラー服とバンカラと軍服。よく見るとすごい光景。


「おい新介っ! はやく来いっ、こっちだっっ!」


 横を見ると校舎裏からヒャッパが手招きしてくる。

 おれがそちらにかけ込もうとすると、逆にキースはおれの横を通り過ぎようとする。


「なにしてんだよっ! あぶねえぞっ!?」

「アホかっ! こんな楽しそうなケンカ、俺も参加しねえと損だぜっっ!」


 そう言ってキースは首の周りにとりつけている円輪を、首の肉をえぐって取り出していた。


「まったくっ! どいつもこいつも血の気の多い奴ばっかりだっっ!」


 おれはどなり散らしながらヒャッパとともにその場を走りぬけた。





 荒く肩を上下させていると、おれよりは呼吸の軽いヒャッパが話しかけてくる。


「さっきの理由だけどな。おれはおれなりに……」

「それはあとでいいだろ!?

 いまのケンカで被害者が出ると危ない、早くミカ先生を呼ばないと!」

「もう呼んだよ。ていうか校舎内でたまたま会ったから話はつけといた」


 おれは安心して呼吸を整え、ヒャッパに目を向けた。


「で、話の続きなんだけどな。

 おれはおれなりに、お前とうまくやっていきたいって思ってんだぜ?」

「おれをテクノ部に連れてったのもか?」

「ポリス部って呼べって何回言わせんだよ!

 まあいいや、おれがお前に見せたかったのは、ポリス部が単なる遊びじゃねえってとこだ。

 おれらはおれらで、自分の才能が将来どう生かせるか、それを真剣に考えてる」


 聞いているうちに、ヒャッパの表情がいままで見たこともないくらい真剣なものだということに気づいた。おれは思わず背筋を正した。


「もちろんやってて楽しくないわけじゃないけどな。

 おれは将来、日本政府の情報機関に入って、持てる能力のすべてを使って、世の中を変えたいと思ってる。

 いつもホラーゲームばかりやってるわけじゃないってこった」

「……ヒャッパ」


 おれが感動する目つきを向けると、相手は赤面して顔をそらした。


「なんて目で見やがる。おれはただ単に、たまにはお前を普通に楽しませてやろうと思ってただけだ。

 カン違いすんなよ? べつにお前を嫌がらせのカモだと思ってるわけじゃねえからな。

 いつもお前を不快にさせてばかりで、ちったぁ悪いと思ってるよ」


 そしてヒャッパは腕を組み、眉間にしわを寄せて目を閉じる。


「キースだって、お前のことをなんとも思ってねえわけじゃねえからな。

 だからこそ、全然興味もねえポリス部の教室に一緒についてったんだ。その辺、わかってやれよ?」


 おれはクスリと笑い、こっくりとうなずいた。


「……わかってるよ。

 教頭先生が、なんにも考えずにお前らをルームメイトにそえるはずがないって」


 ヒャッパの目が、少しだけこちらを向いた。

 おれの表情に思うところがあったのか、すぐに目をそむけた。


「お前良くそんな顔できるな。恥ずかしくねえのか」


 おれは両手を腰において、わざとらしくニヤリとして見せる。


「さあね。おれってお前らと違ってわりと素直な方なんじゃない?」


 それを聞いたヒャッパはよけい顔をしかめる。おれは「あはは」と声をあげて笑った。





「ちょっとちょっとぉ~! 聞いたよぉ~っ!?

 あんたらまた非道丸たちとケンカしたんだってぇ!?」

「お、おう。タタミちゃんおかえり。にしても何なんだよその格好」


 返ってきたタタミちゃんの趣味がゴスパンクなのは知っているが、今日は少し違和感があった。

 着ている服は真っ黒で着くずしたドレスのようにも見え、ヒラヒラのミニスカートの下にはベルトだらけのロングブーツを履いている。

 爆発した金髪と眼帯、わざとらしいまつげのアイメイクは変わらないが、今日はクチビルまで真っ黒になっている。


「にゃはは~♡

 今日はV系のライブだったからね~。それなりに気合い入れないとさぁ。にしてもすごい雰囲気(ふんいき)だったよぉ?」

「うらやましいけど、V系はさすがにねぇ」


 あさっての方向を見て腕を組むと、タタミちゃんは両手に持った山盛りの紙袋の片方を下に置いて、おれの肩をポンポン叩いた。


「それじゃ、今度連れてってあげるよ。

 こんどは新介クンも大好きなパンク系のバンドにしとくからさ!」

 その声におれは「ホントッ!?」と顔をほころばせた。

 しかしタタミちゃんは困った顔で人差し指を真っ黒なくちびるにつけた。


「あ、でもそうなると、あのゴス教頭の馬車に乗るわけか。アタシは割と平気だったけど」

「あはは。たしかに苦手だけど、タタミちゃんと一緒だったら平気かな、なんちゃって」

「うおぉ……新介クンそういうこと平気で行っちゃうタイプ?

 気をつけた方がいいよ? 相手によっちゃ口説いてるなんて思われちゃうから」

「ははは、気をつけます」


 おれは急にこっ恥ずかしくなり、顔を熱くさせて後ろ頭をなでる。

 そんなやり取りをしていると、タタミちゃんの後ろから沙耶が現れた。


「2人とも話は後にしておいたら? もうすぐ夕食だから準備して」


 夕方のケンカの影響か、黒髪や黒いセーラー服が汚れまくっている。汚れの元がなんなのかは考えないようにしておこう。

 タタミちゃんが床の紙袋を拾って振り返った。


「おっ、沙耶じゃん。ってうおぉ、あんた大丈夫なの?」

「わたしは特に。他の人はちょっと危ないみたい。いま先生に注意されてる」


 あっけらかんと言いながら、沙耶は手招きをした。

 タタミちゃんはちらりとこちらに振り返って手を振った。おれも手を振り返して、自分の部屋に戻ることにした。


 それにしても、今日はいろんなことがあった。

 最初は下手に身動きも取れないこともあり、いったいどうやって過ごそうか困っていたところだったが、気がつけば充実した1日を過ごすことができた。

 学校の中で過ごす休日も悪くない。


 新しい出会いもあった。

 学生寮のもう1人のコック、エドガーさん。タタミちゃんの先輩、遊騎奈さん。ヒャッパが所属するテクノ部の顧問の強彦さんは初対面ではないものの、じっくり話し込んでその人となりに触れることができた。

 ちょっとクセがあるけれど、みんないい人ばかりだ。人じゃないけど。


 こうやって、おれはどんどんいろんな人と知り合うんだろうなぁ。

 特におれはいまや校内1の有名人と言うこともあって、どんどん知り合いが増えていくことだろう。

 それは悪いことだとは思わない。ただ非道丸や服部みたいな連中はカンベンだが。


 そんなことを思い返しているうちに、おれは自分の部屋に近づいていた。

 そうそう、忘れてはいけない。今日のヒャッパとキースだが、2人の行動にはおどろかされた。

 イジワルなしにおれに接してきたのにもビックリしたが、特に驚かされたのは……


『カン違いすんなよ? べつにお前を嫌がらせのカモだと思ってるわけじゃねえからな』


 意外な言葉だった。いつもおれをイジるのは悪意はなくても照れ隠しなんじゃないかとは思っていたが、まさか本人からあんなふうに言ってくるだなんて。

 きっと勇気も必要だったはずだ。顔を見せたら、なんか声でもかけてあげなくちゃ。


 廊下を行きかう生徒が、おれに好奇の視線を向ける。

 無視できないことはないが、慣れるにはもう少し時間がかかるだろう。

 そんなことを思いながら、おれは自分の部屋のドアを開けた。おそらくキースは夕方のケンカの影響でもう少し遅くなるだろう。


 案の定、デスクにはヒャッパとタコゾウが座っていた。2人ともそれぞれパソコンと音楽と言う、自分の趣味に没頭している。

 思わずキースのデスクに目を移した。無造作に置かれた凶器の数々と、血まみれの周辺。やっぱりこの光景慣れねぇ……


「おい、どこ見てんだよ。こっち来い」


 不意にヒャッパに声をかけられ、おれは現実に戻った。

 横長の顔はこちらに手招きしてくる。なんともなしに近づくと、相手はなぜか顔を赤らめた。


「お、おい。ひ、昼間のことだけどな。あれは……」

「別に気にしてねえよ。すぐに忘れる」


 心にもないことを言ってみると、相手は「あ、あっそう」と言ってデスクの上に目を戻した。


「そうだ。1つ言っておきたいことがあるんだけど、お前にホラーゲームばかりやらせるのはさすがにアホだって気づいた。

 ほとんどは1人ゲーだし、対戦できるゲームも1つや2つ用意しとかないと思ってな。新介は格ゲー好きか?」

「やったことはある。コマンド覚えるのが難しくて苦手だけど」


 言っている間に、顔が思わずほころんでいた。少し相手を見直した。

 ヒャッパはヒャッパなりに、おれとうまくやっていきたいと真剣に考えてるみたいだ。


「悪いけど、こういうのしか持ってない」


 そう言って機材の間からパッケージを取り出した。差し出してきたそれを手に取ると、

 ジャケットには黄色と青の服を着た覆面の男たちが構えをとっている。


 イヤな予感がした。パッケージ裏を確認した。後悔した。


「これ……なんなん……?」


 パッケージを指差しながら問いただすと、ヒャッパはモニターを見ながら答えた。


「それ? 『○ータル○ンバット』」

「……これちまたでウワサの超絶グロゲーじゃねえかっ!

 お前何おれにやらせようとしてんだよっっ!」

「しょうがねえじゃねえか。おれ対戦格闘って基本それしかやんないし」

「病んでるよっ! このゲー病んでるよっ! これってあれだろっ!?

 悪党だけでなくヒーローまで相手の肉体を徹底的に破壊する超不謹慎(ふきんしん)ゲーだろっ!?

 これ作ったアメリカ人は頭どうかしてるよっ!」

「あーうるさいうるさい。それじゃなんだ?

 他の格ゲーでもやるのか? 間違っても『○マブラ』やろうだなんて言うんじゃねえぞ?」

「そこまで言わないけど、もう少しましなやつねえのかよっ!?」

「つべこべ言うんじゃねえっっ!

 ウダウダ言ってないでお前もフェイタれよっっ!」

「なんだよそのフェイタれってっっ! お前何でもかんでも新語作ってんじゃねえよっ!」

「ポリス部は新語じゃねえよっ! ったくなんだよお前は!

 せっかく人が好意でこういうのやろうぜって言ってんのに、なんなんだよっ!

 別にいいじゃねえかグロゲー、こんなマガイもんどころか、お前モノホンの人体引きちぎり目撃してんじゃねえか!」

「だからこそイヤなんだよっ!

 実物いやと言うほど見せつけられてるのに、何が悲しくてこれ以上グロ映像見せつけられなくちゃいけないんだよ!」

「いいから早くコマンド覚えろよっ!

 お前には9だけじゃなくていずれXもプレイしてもらわなきゃいけないんだからよ!」

「イヤだぞっ!? イヤだっ!

 そんなグロゲー2作もプレイしなきゃいけないなんて耐えられ……」


 バァンッッ!

 突然机をたたきつけた音がひびく。

 2人して恐る恐る振り返ると、ベッドをはさんだ斜め向かいの机に座るずんぐりむっくり体型が、少しだけこちらに振り返っている。完全に振り返らないのがよけい怖い。

 おれとヒャッパは同時に誠意を見せた。


「「……すみませんでした」」





 翌日は午前中エドガー先生の手伝い(メニューはフライパンお好み焼き)、午後はクラスメイト達と過ごした。タタミちゃんも合流し、おれはヒャッパやキースの嫌がらせを気にすることなく楽しむことができた。

 城の談話室にテレビとW○iが置いてあったので、それこそみんなで盛り上がることもできた。

 それはそれは、楽しい1日を過ごすことができた。


 1つ残念だったのが、前日に続いて風呂の時間は1人になってしまったことだ。

 気兼ねすることなく湯につかることができるのは気楽な一方、誰も入ってこなくなってしまったのは少しさみしいような気もした。





 さらに翌日、いよいよおれは高校生活2週目を迎える。

 朝食を済ませ(パンとサラダはすぐあきる。それなりにバリエーションはあっても)、いつもの仲間たちとともに城を出る。


 たった1週間だというのに、おれにとっては早くも日常と化していることに少々びっくりさせられた。

 怒涛(どとう)の出来事の数々が、はやくも8人のきずなを深めていたことが大きいんだろう。


 みんなが楽しそうに話すなか、おれは少しひかえめに受け答えしていた。

 タタミちゃんは少し不服そうだったが、おれが口に人差し指を立てるしぐさをしていると、相手もそれを察したように他のみんなに話を振った。


「……なんだか幸せそうね。早くもこの学校に慣れたのかしら」


 別の方向から話しかけられる。

 一瞬うっとうしいとも思ったのだが、相手が相手だけにおれはさりげなくうなずいた。


「慣れるにはまだはえーよ。

 だってまだ1週間だぞ? 普通の高校だったとしてもまだ緊張してる頃だ」

「あ、そうね。

 わたしたちはもう3週目だけど、あなたはまだそれほど日にちが経っていないものね」


 おれは相手の風貌(ふうぼう)をしっかりと目に焼き付ける。

 朝日に照らされた黒髪の美少女は、おれににこやかな笑みを浮かべていた。


「でも、いまはすっげえ楽しいよ。最初はみんなのことがよくわからなくて、とにかく不安だったけど。

 いまはみんなの人となりが多少なりとも理解できたから、そのことに関しては何の不安もねえよ」

「ふふっ、よかった。

 あなたの死霊族に対する偏見(へんけん)がなくなったことは喜ばしいことだわ」


 あれ? 沙耶ちゃんって、こんなにニコニコしてるような子だっけ?


「おい、なにお前らベチャクチャしゃべってんだよ。2人だけでイチャイチャしてんじゃねえよ」


 そう言ってヒャッパがおれの片腕を軽く押しだした。

 しかしいかんせん死霊族なのでおれの身体は予想以上に横にはじかれ、思わずとなりの沙耶とぶつかってしまう。


「ぬおぉぉっ! あっ、ごめんっ!

 ヒャッパッ、おれはただの人間なんだからもうちょっと手加減しろっ!」

「そうだよっ! おかげで新介クンと沙耶が軽くスキンシップしちゃったじゃんか!」

「沙耶ちゃんはまだみんなのアイドルなんだから、これ以上2人を仲良くさせないで!」


 タタミちゃんと弥子ちゃんの援護(えんご)射撃に、さらにキースが加わる。


「まあお前にはうるわしのエリザベート様がいるからな。気にしねえんだろ」

「なんだとっ!? エリザベート様はオレにとっては高嶺(たかね)の花っ!

 決して手の届く相手ではないっ!」


 拳を強く握るヒャッパをキースはバカにするように笑う。

 それに比べミノンちゃんは少し不機嫌な顔を見せる。


「あんた、いまの口ぶりだと沙耶ちゃんはイケるみたいな言い方ね。

 沙耶ちゃんがあんたみたいなダサいオタクを相手になんかするもんかっての」

「なっ! なんだとっ!? お前オレをバカにするのかっ!

 お前だって運動好きの細マッチョ女のくせにっ!」


 すると怒り心頭になったミノンちゃん「なんだとぉっ!」と言ってヒャッパの首を締め始めた。

 タップするヒャッパだがミノンちゃんは手を止めない。

 横では弥子ちゃんが「やめてよぉ~」とオロオロしている。

 タタミちゃんとキースはそれを見てゲラゲラ笑っている。

 タコゾウはと言えば、そんなことにはお構いなしにさっきからずっとヘッドホンに集中するばかりだ。


 おれはそんなみんなを見ながら、最後に反対側の沙耶を見た。

 彼女もまたみんなのくだらないやり取りに笑いながら、こちらを見て輝くような笑みを見せた。


 胸のあたりがドキリとした。ああ、おれってこれからもずっとこの子と一緒に過ごせるんだな。

 沙耶だけじゃなくて、みんなとずっと一緒に。


 おれは笑みを返し、前に向き直った。黒ずんだ校舎はすぐ目の前に迫っている。

 最初はものすごく不気味に思った。いまでも少々怖い。

 それでも、みんなと一緒にいられるのなら、ここも決して悪い場所ではないと思った。


 おれは心の中でみんなに呼び掛けた。

 大丈夫。おれはもうここを逃げようとは思わないから。


 そんなことを思いつつ、おれはみんなに振り返りながら、薄暗い入り口の中に自ら足を踏み入れていった。

1作目の投稿に戻りますので、しばらくお休みします。

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