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 村を出て2日、四郎達は馬車の荷台でくつろいでいた。


「よかったよ。となり村まで行く人がいてさ」

『その代わりに雑用してるけど?』

『私は話し相手?』

「幼女を働かせろって言っていたら乗らなかったわ」


 行商人夫婦に村を出た1日後に声をかけられて、金が無いので歩いていくと言うと乗せていってやろうと言った。そしていざというときの見張りに四郎とカーリンが、ディーニュは行商人夫婦にはさまれて前に乗っている。今は荷台の方に来て四郎の膝の上に乗っているが。


「ディーニュちゃんの料理食べてから体の調子がいいな」


 ディーニュの頭を撫でながら呟く。さっき出てきたウサギを蹴り飛ばして退散させた四郎はその時にウサギがサッカーボールのように飛んでったのを思い出した。


(でも、あんなに力あったかな?)


 自分の力に疑問を持ったが、カーリンがブツブツ怖いこと言っているのでそのまま忘れてしまった。


『あーあ、首切って血をドバドバ……』


 四郎はディーニュを抱えたまま少し離れた。

 

「四郎君、今日はこの辺で野営をしようか」


 あの後、ウサギが飛び出て来るくらいで他に動物も出てこなかった。そのウサギは見つけ次第、四郎が蹴り戻していたのでカーリンが拗ねてゴロゴロしていたくらいだ。


 荷馬車ごと見えにくい脇道に入るとそこには円形の広場があった。荷馬車を止め、夫の方が馬を外し楽にさせている間に奥さんが食事の用意をする。四郎達は小枝を拾って集めておく。


「鍋に水入れますね」


 奥さんが持ってきた鍋に四郎は魔法で水を入れる。


「そんなに入れて大丈夫なの?」


 鍋に並々と入れられた水を見て驚く。普通の人が水をw出すと言ったらコップ1杯分がせいぜいだからだ。


「おいら、魔力だけはあるみたいでこのくらいはへっちゃらです」

「それなら助かるわ」


 鍋を火にかけ、干し肉をナイフで切り取り入れていく。煮込んでいくとほどよく溶けた肉の脂と塩が効いたスープになる。それにウサギの肉の串焼きを付けて食べる。こんな所で食べるには良い方だろう。


「すいません。本当に先に寝ちゃって良いんですか?」

「良いんですよ。この後の商売の事で夫婦で話さなきゃならないので」

「夜中過ぎたら変わってくれればいい。それまでゆっくり眠ってくれ」


 しばらく話してから先に寝るように言われて申し訳なさそうに荷台へ行く四郎達を見送り、火の番をしながら夫婦は今後の事を話す。


 月が頂点を過ぎ、虫の声も聞こえなくなった頃に広場の奥から人影が現れた。


「旦那、いいのいましたか?」


 火の番をしている夫婦に話しかけた人影は腰に剣をさげた薄汚れた男達だった。夫婦はこの男達の仲間で人さらいが目的で四郎達に近づいたのだ。


「男が1人に女と後はガキだ。女は高く売れるだろう。ガキも貴族の変態野郎なら喜んで買うだろう。男はどっかの鉱山でもうっぱらえばいい」

「でも、あなた、結構強そうだし迷宮冒険者に売った方がいいんじゃないかい?」

「モグラ野郎達にはやらない。あっちは色々とチェックが入るからな。足がつく」


 冒険者ギルドは昔は1つであったが今は2つに別れている。町にあり、害獣の処理や荷運び等の雑用、商人等の護衛を請け負う冒険者ギルドと迷宮と呼ばれる異界に入り戦利品を持ってくる迷宮ギルドだ。そして迷宮ギルドに登録している冒険者を穴に潜る様を揶揄してモグラと呼ぶ。


「旦那、アジトに連れていきますぜ」


 気の早い男が荷台へ乗り込む。商人が頷き他の男達も向かおうとすると男が飛び出してきた。


「旦那! 女が起きてますぜ」

「嘘だろ? “眠り”の神の薬師が作った薬だぞ? 熊でも1日は効くはずなのに……」

『不良品じゃない?』

『あくまで人間用だろ? 効くわけないし』


 荷台から降りてきたカーリンとディーニュ。驚く男達と商人夫婦の取り囲む中に悠然と降りてくる。


「四郎って男はどうした」

『お前らが盛った薬で寝ているよ。寝てた方がこっちとしては楽だからね』


 その言葉の意味をわからない男達はにやける。


「たかが女とガキだけだ。捕まえろ」

「「おう!」」


 男達が手に武器を持ち近づいていく。その中でカーリンは腰の鉈を引き抜き笑った。


『存分に殺らせて貰おう』

「うるせえ! おとなしく捕まれ」


 剣を振り回しカーリンに迫る。その男をすり抜けるように交わす。振り返った男は足元に何かが落ちたのに気がついた。


「!! 手? 剣が……」


 すれ違い様カーリンの鉈が男の手首を切り付けていたのだ。男が気がつくと思い出したように血が吹き出す。吹き出した血はそのまま飛び散らず一塊になり男の顔に張り付き気管を塞ぐ。


「なんだ……それは」


 手首から先がない手と残った手で喉をかきむしる男を見て背筋に走る寒気が走る。残りの男達も不気味なカーリンの力に距離をおく。


『こっちもいるからね!』


 カーリンの後ろにいたはずのディーニュがいつの間にか端の方にいる男の背後にいた。ディーニュは手に持った何かを投げつける。男の頭に当たったそれは割れて中身の粉が頭を粉まみれにする。


「このガキー!」


 怒った男がおちょくった調子で逃げるディーニュを追いかける。だが、顔と頭に猛烈な痒みを覚え、かきむしる。かきむしった手には髪の毛が着いた皮膚が付いてきた。


「俺の髪が! 痒い! 痒みが止まらない!」


 頭から血を流し、それでも肉を削るようにかきむしる男はそのまま絶命した。その男の頭に赤紫の色をした茸が生えてくる。


『おおー。人邪月茸はやっぱり人を苗床にすると生えるの早いねー』

 

 そう言いながら茸を死体から採りエプロンドレスのポケットに入れていく。後には干からびた死体だけが残っていた。


 異常な殺され方をした仲間を見て男達は逃げ腰になっている。


「どけ! “捕縛する蛇”の神よ」


 商人がメダルを弾く。それは細長い鎖に変わり商人の手から延びてカーリンを捕まえる。


「この鎖で捕まえられたらマイナーな神の力も使えないだろ?」


 “捕縛する蛇”の神の鎖は文字通り全ての行動を封じてしまう。捕まったのならば神でさえも一時的にせよ動けない。


『捕まっていたならばな』


 カーリンが体を揺すると鎖がバラバラに崩れ落ちる。カーリンの鉈が一瞬にして鎖の元となる輪を全て絶ちきっていたのだ。


 驚き動きの止まった商人の横から商人の妻がボールを投げる。カーリンと商人の中間あたりに落ちて煙を吹き出した。


「“逃げる影”の神よ」


 煙が晴れるとそこには商人と男達の姿はなかった。


『逃げられちゃったね』

『しょうがない。そこまでして殺す気もないしな』


 商人と男達の事はどうでもいいと考えて荷台へ戻った二人は中が空っぽになっているのに気がついた。


『四郎?』

『お兄ちゃん?』


 荷台の上、車輪のした、慌てて探し回るが影さえもない。


『……もしかして、拐われちゃった?』

『エエエエェェェェーーーッ!』


 

四郎が拐われました。そこはヒロインだろ!

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