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「ディーニュちゃんのお陰で助かったよ」

『えへへ……』


 宿屋の食事を取りながら四郎は隣に座るディーニュの頭を撫でる。ディーニュも嬉しそうだ。


 鹿を仕止めた四郎達は鹿を運ぶ方法を失念していてどうするか相談をしていた。


『だったら、私のポケットに入るよ』


 ディーニュのエプロンドレスに付いているポケットは様々な調理器具や材料を入れられるマジックポケットになっていて鹿位ならいくらでも入る。魔物化した鹿もすでに捌いてポケットに入れている。そして交換条件として四郎にディーニュを村までおぶって帰える事が提案され了承した。鹿を運ぶ事を考えるともむちゃくちゃ楽だ。四郎はそう思った。


『……アタシだけ役にたってない』


 モグモグとパンを口にいれながらカーリンが呟く。鹿を倒すのはやっていたのだが、自分では最後でディーニュに持ってかれた感があってそう思っていた。


「大丈夫だ。十分に役に立っている」


 キリッとした表情でカーリンを見る四郎。その目線は若干したに向いているが……。


『そ、そう?』


 人に認められるということは嬉しいことだ。それが若干、勘違いからきているとしても。それゆえに、顔を赤らめてクネクネするのも仕方がない。しかし、それを苦々しい表情で見ているのが一人いた。ディーニュだ。なぜなら四郎は彼女が長い間待ち望んでいた人間だ。四郎から離れることになるとまた天界でつまらない時を過ごさなければならない。だから自分にできることを考えた。材料はすでにある。


『それじゃ、私、料理作るね! そしたらお兄ちゃんもっと誉めてくれるよね!』


 ニコニコして四郎を見上げるディーニュに、


「ディーニュちゃんは料理できるのか!」

『うん!』

「作ってくれたらもっとほめちゃうぞー」

『ほんとー』


 その二人の会話を聞いてカーリンはパンを落とした。ディーニュの料理を食べる? 正気か? 四郎は正気だった。ただ、ディーニュが“ゲテモノ料理”の神であることを忘れていただけだ。そして可愛い子が作るものに不味いものは無いだろうというお約束を忘れた思考をしてしまったからだ。……神が相手なのであてにならないが。


 そして、一人と二神は宿の裏手の広場に来ていた。そこでディーニュが調理器具をポケットから次々と出していく。


『よくわからん物が多いな』

「いや、どっかで見たことのある物があるんだが……」


 レンジにミキサー等、普通に家庭にある調理器具だがそれ以外に用途不明の物も多い。科学実験の装置と言われても納得するだろう。


 そして取り出した鹿の頭。胴体。内臓。それと血の入ったバケツ。鹿の頭を鍋にいれて火にかける。その横で内臓を臓器別に分けていくつかをミキサーに入れた。ぐちゃぐちゃになって気色の悪いものになった内臓を胴から切り出した肉に塗りたくり、ラップをして冷蔵庫の中へ。その間に煮たった鹿の頭の入った鍋に危険な色した葉っぱやら茸を入れてさらに鹿の角を削って入れる。その鍋から異臭が漂ってきた。


「今入れたの何?」

『コキュラム草とマダラン茸だと思うが……』

「食えるんだよな?」

『さあ? でも昔、マダラン茸はネズミが食って死んだな』

「……おいら、何食わされんの?」


 カーリンと四郎がこそこそとそんな話をしているとそこに人が集まってきた。異臭が広がり、それに気がついた者達がやって来たのだ。この異臭に顔をしかめながらやって来た人達も幼女が一生懸命料理を作っているのを見て止めようか止めまいか迷っている。四郎とカーリンはそんな人達に説明をしてできるまでの間待ってもらう。


「“美食”の神アングーラ様とは違う料理の神か」

「いったいどんなうまいもの食わせてくれるんだ?」


 “ゲテモノ料理”の神と知らない人達はこの異臭も気にせずに目の前で作られていく料理に興味を持ったようだ。“食の神”アングーラは総合的な料理の神として知られている。その下に細分化されてそれぞれの料理の神がいるのでその一神だと思われたようだ。だが、ディーニュはその王道と言うべき料理から外れた存在。そしてその効果も……。


 冷蔵庫に入れた肉を出してほどよい大きさに切ると鉄板で焼く。それに塩コショウと後、よくわからない粉状の物をかける。それと一緒に鹿の頭が入った鍋から出ただし汁を皿に入れて変わった形の葉っぱをちぎり入れてテーブルにのせる。その時には見ていた人達の間で、なぜか異臭が気にならないほどその料理を食べたいという気持ちが心の中で高まっていた。


「一口もらっていいか?」


 見ていた人の中にいた小太りのおっさんが四郎に声をかける。四郎は食うことに少し戸惑っていたために、おっさんにうなずいた。おっさんは肉をナイフで切り一口食った。


「ウグッ!」


 次の瞬間、胸に7つの傷を持つ世紀末救世主のごとく服が破れ、その下の体は見事にライザップされていた。おっさんはそのまま鍬をひっつかむと畑に行き3日がかりでやる畑仕事を1日で終わらせた。……わしは世界最強の農民になった。ーーという夢を見た。実際は味わったことのない味に脳の処理が追い付かずにぶっ倒れただけだったが。


「もー、せっかくお兄ちゃんの為に作ったのに! 何で食べるかな?」


 頬を膨らませて怒るディーニュを見て四郎はひきつった笑みを浮かべた。


(おいら、死なないよな?)


 目の前でぶっ倒れたおっさんを見てそう思うのも意味はない。が、お兄ちゃんと呼んでくれるディーニュの前で食わないという選択肢は選べない。


「カーリン、最後に言っておきたいことがある」

『な、なんだ?』

「ーーいや、何でもない」


 この場に来てもおっぱい揉ませてとは言えないヘタレ四郎であった。


『はい、あーん』


 そんな四郎の口に苛立ったように肉を突っ込むディーニュ。いきなりで驚いたがモゴモゴと口に入った肉を食っている四郎は、


「うまい! うますぎる!」


 そう言って残りをむさぼり食った。肉をスープを食いつくし、最後に出されたのは鹿の頭だった。


「ディーニュちゃん、これ食うの?」

『そうだよ。食べるのは脳と目玉だけど』


 鹿の頭が輪切りにされて、ピンク色した脳が見えた。それにスプーンを差し込み目の前に出される。四郎はスプーンを握るがそれを口に持っていけなかった。


「本当に食べなきゃダメ?」

『無理に食べなくても……』

『全部食べてね』


 カーリンは止めるがディーニュは食べてもらいたいようだ。食べてくれないの? と少し不安そうな顔してる。四郎は覚悟を決めてスプーンを口に運んだ。口の中に入れた物は旨味の爆弾だった。ただ鹿の頭を煮ていただけに見えても神の料理。その美味しさに鹿の頭が空っぽになった。そして最後に目玉は口に含んで噛み潰すとドロッとした強い酸味が口に広がりさっきの強すぎて口に残った旨味を洗い流してしまった。こうして四郎は全て食べきったのであった。


(フフフ……明日がどうなってるか楽しみだな)


 笑顔の裏でそんなことを考えるディーニュであった。

“ゲテモノ料理”の効果は…………。

 大体テンプレであってます。

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