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桃から始まる!
「おおー、どしゃ降りになったな。こっちに入ってこないよな?」
あれからアマテーラス神殿を後にした十湯田四郎は各地の神殿を回るべく歩きで街道沿いを歩いていた。だが、突然の雨に雨宿りの場所を探し街道からそれていつの間にか森の中にいた。
「こんな所に洞窟があって助かった」
ずぶ濡れになった服を絞り、火で乾かしながら外を見る。パンツだけは履いているが、見る人がいたら露出狂と思われるかもしれない。
「久しぶりの解放かーん!」
十湯田四郎は変態だった。パンツにてをかけるが少し考えて脱いだ。考える意味がなかった。
この洞窟は奥が暗く見えないほど深い。その為、奥に動物でもいるのかと思い松明を片手に慎重に歩いていく。マッパなので慎重も何もないが。
「おかしいな。動物も何もいない」
奥に進むが何も出てこない。しかし洞窟の壁とか床に赤黒いものが散っている。血の跡のようだ。
「やっぱり、何かいるのか? ……しまった! 武器でも持ってくるんだった」
腰に下げていたショートソードを思い出して呟いた。それよりも服の事を思い出して欲しい。
そして、何もでないまま終点に着いた。そこには小さな祠の様なものがあった。来る人もいないため、埃をかぶっていて数十年ほっとかれたみたいだ。
「……なんか、可哀想だな」
四郎は入り口に戻ると布切れを持ってきて祠を拭いてやる。そして持っていた保存食を少しお供えして手を合わせる。
「明日には出て行きますんで、泊めてください」
そうして入り口に戻り火の側でやることもないので眠りについた。
『おい、起きろ』
眠っていた四郎は、肩を揺さぶられて目を覚ました。
「オームスさん、朝飯の用意ですか? そんじゃ、水汲んできますね」
『おい、寝ぼけてないで起きろ! アタシはオームスとか言う奴じゃないぞ!』
「……えっ?」
目を覚ました四郎が見たものは桃だった。
「へへー!」
四郎は水戸黄門の印籠を見た悪人のように土下座した。
『ちょっと、何してんの……ねえ、やめてよ』
土下座したまま動かない四郎を慌てて起こす声の主。その困った声に反応して頭を起こす。その前には褐色の肌を持つ少女が立っていた。
腰まで届く黒髪を頭のてっぺんで赤い紐で縛り後ろに纏めて落としていて、おでこを全開にしている。キリッとした太眉の下に赤い目、スッキリと通った鼻筋に厚めの赤い唇。服は胸元を獣の皮で巻いただけで後は腰巻きに鉈のような物を下げている。
「あなたは何者ですか?」
獣の皮に包まれた大きな桃を見ながら四郎は聞いた。その威圧感でただの人ではないとわかったからだ。
『アタシはーー』
「いや! 言わなくても結構です」
『はい?』
「神様でしょう? おいらにあなた様の写し身のメダルを与えて下さい!」
『えっ? いや、ちょっと待って、そういうのは普通何の神か聞いてから』
「そんなものは必要ないです! おいらに必要なのは目の前の貴女なのです!」
『えっ、うぇっ? あの……本気?』
彼女は神として崇められることもないまま80年近くほっとかれた神であった。その為、四郎の熱烈なアプローチに赤くなり困ったように上目遣いで四郎を見る。
「本気です! 貴女が欲しいんです!」
真っ直ぐに見る四郎の目に(目線は少し下だが)ときめいた彼女はしかし目をそらしながら、
『嬉しいんだけど、アタシは写し身のメダルを作れるほどの神力も無いんだ。だからアタシは行けない』
写し身のメダルは人々の信仰心によって得た神力を元にして作り出す物である。そしてそのメダルを通して人々と繋がり、それによって更なる神力を得る。彼女は長く人の信仰心を得ることはおろか、人々に忘れ去られた神であった為にそんな力さえ失っていた。しかし、
「写し身のメダルはここにあります」
『そうだから、アタシの事は諦めて……えっ?』
四郎が恭しく差し出した銅色のメダルを見て目を丸くした。一番ランクの低い写し身のメダルが目の前に差し出されたのだ。しかも何の神も写し身を入れていないまっさらなメダルが。
『何で?』
「さあ、お願いします! 貴女の為にアマテーラス様にメダルだけを貰ったんです」
『ア、アマテーラス様のメダル?』
(なぜ? 今の最高神の……。)
アマテーラス神は今現在人々の信仰を一手に集めている。そう! 偉いのである。その最高神からグーパン貰った四郎はある意味、特別なのだ。本人は気づいていないが……。
「お願いします! お願いしますぅ!」
(でも、この人はアタシの為にって……)
土下座してメダルを差し出す四郎に神にしては人に抱くことのほとんどない感情を沸き上がらせながら、メダルに写し身を入れる。彼女が消えてメダルは宙に浮き光輝くとメダルがそ彼女に変わった。
『それじゃ、ちゃんと自己紹介するわね。アタシは“血と解体の神”カーリンよ』
「あれ? おっぱいの神じゃないの?」
『………………おっぱいの神?』
「…………………………違うんですか?」
どうにも噛み合ってない一人と一神であった。