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虹香の前で植物が急成長し、その花から人型の物が落っこちてきた頃。
「…………」
『餌をぶら下げてやると速度が違いますね! お姉さま』
『餌をガン見して一言もしゃべらないけどな……』
こうして荷馬車の音だけが道に響いていた。
「ガン見はダメだよ!」
「すいません! 出来心です!」
虹香は何かを感じとると、そう叫んでいた。そしてその声に目の前で土下座するハークは顔をあげない。
「女の子だよ! 男の人がむやみにさわっちゃダメだから!」
「おっしゃる通りです!」
ごまかすように言った言葉にハークの顔は地面にめり込みそうになっている。顔をあげないハークから目を外し、腕の中にいる少女を撫でた。
虹香に抱かれた少女は深緑色の髪が肩まで伸びている肌の白さが目立つ少女だ。生まれたての姿の為にハークから引き離して保護している。
「服ぐらい持ってきなさいよ!」
「……はい」
「……ありがとう」
無口になったハークに付き従う男が上着を脱いで虹香に差し出した。それを素早く少女に着せて抱き直す。
そこで顔をあげたハークが近づいて来て少女の顔をのぞきこむ。
「やはり、夢で見た“全ての地に生える食虫花の神”」
「食虫花ってイヤな感じするんだけど?」
「何を言っている? この方の素晴らしさがわからないのか?」
「わかるわけないじゃない」
「……ふっ、これだから無知な奴は」
バカを見るような目で見るハークを虹香は睨む。
『ハークよ、そう言うな。わらわの事を知らんのも無理はないからな』
虹香の腕の中でいつの間にか目を覚ました少女は口元に形だけの笑みを浮かべて虹香を見ていた。そしてその腕の中から少女が抜け出たときに気づいた。
「……体が動かない?」
呟く虹香を無視してハーマドゥはハークに近づく。
『わらわの復活に尽力してくれた者か』
「はい! 夢枕に立たれたハーマドゥ様の為に身を粉にして頑張りました!」
『そうか、ならば褒美をやろう』
ハーマドゥは掌をハークの額に触れると力を流し込んだ。ハークに流れ込んだ力はその細胞一つ一つを破壊、再生させ違うものに生まれ変わらせる。
「力が……! これが神の眷属……」
ハークの体は薄い緑色になり、髪は細い葉に変わっていた。そして一番の変わった所は……。
「何で股間に葉っぱつけてるのよ!」
「葉っぱ一枚あればいい~♪」
「なんか歌ってる!」
真っ裸になったハークは躍り狂っている。その目は理性とか人としての意志が失われて別の物が顔を覗かせている。その目を見てしまった虹香は背中に氷を入れられたような寒気を感じた。
『そやつは今後、気に入った場所に根をはり立派な食虫花に育つだろう』
ハーマドゥはニヤリと笑う。
『そうして近く付く動物を喰らい同じ人間に種を植え付けて仲間を増やす』
「仲間を増やすって……」
『ここを拠点にして世界各地に広げるの。最終的には植物だけの世界にしてこの世界をわらわの物にする』
「そんなことできるわけないわ!」
『できる! この世界の信仰を全てわらわに集めれば、この世の理をも変えることができる! その手始めにお前もわらわの眷属にしてやろう』
ハーマドゥは笑いながらその手を動けない虹香にのばす。その手を横からのびた手がつかみ止める。
「……何故、こんなことしてるんでしょう?」
手はハークに連れられていた青年のものだった。ハーマドゥをつかんだまま首をかしげている。
『何をしている! 放せ!』
「……はい」
『操り人形がこうなってはもう必要ないな。頭を出せ!』
ハーマドゥの前に頭を出す青年に、ハークと同じく眷属化の力を流し込もうとしたその時、
『シルバーが暴走してますお姉さま!』
『餌を投げ捨てなさい!』
その声に村の入り口を向くと土煙を上げて爆走してくる荷馬車が迫ってきていた。
『なんじゃ!』
『お姉さま、捨てますよ。1、2、3っ!』
荷馬車から何かが放り出される。荷馬車を引く者はそれを見るとその場でドリフトして反転する。荷馬車はその時、ハーマドゥの目の前にあり、振り回された荷馬車にはね飛ばされてしまう。ついでに青年も。
『やっとついたね!』
荷馬車から降りてきた少女はキョロキョロと辺りを見渡して、虹香に目を止めるとにっこりと笑った。
「ディーニュちゃんと……」
荷馬車を引いていた人物に目を向ける。そこには布団ごと簀巻きにされているが胸元だけはだけられたヒピュスの胸元をガン見はしながら飯をかきこんでいる四郎がいた。
「うむ、これだけでご飯3杯はいける!」
「何で着いた早々おっぱい見て飯くってんのよ!!」
助けが来たことを喜ぶよりもツッコミ入れる方が早かった。




