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宿屋を兼ねる一階の食堂で四郎達は依頼人に会っていた。
「実は……ある少女を探してまして」
『ストーカー!? 兵士を呼んできます』
「いきなり依頼人の第一声に反応して遊ぶの止めろ!」
走り出そうとしたアルッテの腕を掴み止める。
『イヤーー! 襲われるーー!』
『アルッテ、止めなさい』
『仰せのままに、お姉さま』
「ったく。……首輪でもつけてカーリンが捕まえておけば……」
『お姉さまに首輪を付けられて……ハアハア……』
「興奮するから止めとこう」
『……うん、そうしてくれ』
妄想状態で悶えているアルッテを捨て置いて、依頼人の方に向き直る。藍色の服を着たハンサムでアゴが割れていないのがおかしい。そして手に黒い表紙の本を持っている。
「えーと、それでですね。ある少女を探してほしいのですが……」
「その子は何をしたのですか?」
「神から貰ったメダルをそのまま持ち去ったのです。その為に村が大変なことになりまして……その為に神の力……そのメダルを取り戻したいのです」
メダルは神から貰える力の一部である。それは個人に与えられる物であり、死亡した場合は神に還る。だが、一部では代々受け継ぐ力として固定されてしまった力もある。それを神殿に祀り有事の時に使用する彼の村ではそうして使われてきたのだろう。
『でも、それならメダルを消せばすむ事でしょ?』
「そうですが、それは取り返して来るので待ってもらっているのです」
メダルを消すともう一度同じ力を持つまでに長い時間がかかる。その為に自分が取り戻しに来たと言う。
「あれがなければ村が経ち行かなくなるのです! どうかお願いします!」
テーブルに頭突きする勢いで頭を下げた依頼人を見て頷く。
「受けましょう。それでその少女の容姿は?」
「それはここに絵に書いてきました」
懐から出された紙に子供の落書きが描かれている。
「腕が3本に足がねじ曲がってる?」
「何を言ってるんですか? 腕は2本で棒を持ってるんですよ。足もねじ曲がってませんそこは膝です」
「……少々お待ちください」
四郎は紙を持って少し離れた席でみんなと話している。時折、ないわ~。とか、顔パンパンやん。という声が聞こえる。
「話し合いの結果、画伯の称号を与えます」
戻ってきた四郎が厳かに告げ、それに会わせて回りの仲間が心のこもらない拍手を贈る。
「なんだよ! それは!」
「それじゃ、少女の容姿を口頭で教えてください」
「絵は無視かよ!」
「いやー、画伯の絵は難解で……」
『素直にドヘタだって言えよ』
「こら! アルッテ」
今度は別の意味でテーブルに頭突きしている依頼人。そのままで小声で何か呟いている。
『さて、チャッチャと話してもらおうか』
「落ち込んでんだよ! ちったー考えろ!」
アルッテを退かして落ち着くまで待つ。
「お待たせしました……」
立ち直った依頼人が見たのは積み重ねられた皿の山だった。その上には、『とりあえず、絵で探してみます』紙が置かれていた。
「あの、ここにいた人達は?」
「帰りましたよ」
「そうですか……なら、帰ります」
「ちょっと待ちな!」
立ち上がった肩を掴んだのは厳ついエプロンつけた親父だった。
「食っていった分の金を払えや」
この日から3日、依頼人は奥で皿洗いをすることになった。
……依頼人、不敏だ。(笑)