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宝彩  作者: ぜろすけ
一年生・前期
1/4

街について

街は、大きく二つの種類に分けることができる。


 一つ目は、「住むための街」だ。スーパーやコンビニがそこそこ整っていて、生活に必要なものはすぐに手に入れることができる。交通の便もそこそこよくて、治安もそこそこいい。生活のストレスを減らすために設計された、円滑で摩擦の無い街。でも、特別にその街を選んだ理由は無い。


 二つ目は、「生きるための街」だ。密接な人間関係、或いは激しい競争社会がそこにはあって、多少の不幸はあれど、そこに住むこと自体に価値があるような街。人々はそこに住むために目的を持ってやってくる。あるいは住み続ける。代替不可能な街ともいえる。


 オレがこれから住むことになる街は、前者に当てはまるのだろう。

 宝彩(ほうさい)市は、北陸地方の中央部に位置する、人口約四十五万の地方都市である。北は日本海に面する宝彩湾、南は標高約二千メートル級の山々が連なる白山(しらやま)連峰に挟まれ、その豊かな自然を背景に、古くから海陸交通の要衝として栄えてきた。


 オレが乗っている北陸新幹線はトンネルに入り減速を始める。宝彩駅への接近を知らせるアナウンスが入り、周りの乗客たちは、出していたパソコンやら、ヘッドホンやらをおずおずと片付け始める。オレは出していた文庫本に栞を挟んで閉じ、ショルダーバッグへしまう。


 一通り準備を終えてから、俺はこの後の段取りを思い返す。駅で降りたら、路面電車に乗り換えて、四駅目の鳥飼駅で降りる。そこから歩いて五分もすれば、俺のアパートに着く。鍵は既に受け取ってあるから、そのまま中へ入る。十七時ごろに引っ越し業者が来ることになっているから、その応対と荷解きをして、今日のタスクは終了だ。


 トンネルを抜けると、外はにわかに明るくなり、宝彩市が姿を見せる。

 住宅地が立ち並び、ところどころ背の高いマンションが見える、主要道路にはチェーン店の看板が立ち並び、現地の人々が往来している。道中でさんざん見てきた街と変わらない、普通の街だった。ただ一つだけ違うのは、この街の遥か後方に聳え立つ、雄大な白山連峰があることだった。春が近づく四月でも深い雪を被り、西日を浴びて橙色に輝いている。照り返した光が街を包み込み染め上げている。「宝彩」の名前の由来はここにあるのかもしれないと思った。


 *


 引っ越し業者が帰っていったときには、もう十八時半を迎えていた。日はとうに暮れてしまい、人々が一日の活動を終え休息につく時間。山積みになった段ボールを眺めていると、荷解きをする気にはなれなかった。


 ベランダに出ると、日本海から吹いてきたであろう冷たい風が肌を撫でる。周囲には同じくらいの高さのアパートが立ち並んでいるため、三階のこの部屋からはなにも目ぼしいものは見えない。唯一あるとすれば、目の前の生活用道路を挟んで反対側のアパートの一階部分にある、小汚い理髪店と小さな喫茶店くらいのものだった。

 少し歩けばスーパーやドラッグストアがあるから生活には困らない。路面電車に乗って街へ出れば、商店街やデパートに行ける。この立地で八畳の部屋が月々五万円で借りられるのだから、やはりここは「住むための街」だといえる。


 部屋に入ってからフローリングに横になり、明日の段取りを考える。

 明日は高校の入学式。午前中には終わるだろうから、荷解きや買い出しはその後にやればいいだろう。ただ、制服とリュックが入っている段ボールは今日のうちに空けておく必要がある。

 オレは立ち上がって、少しだけ荷解きを進めることにした。


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