4.ごめんね
蹂躙という言葉が一番似合うだろう。
正直信じることはできないが、倒れているゴブリンたちを見て納得しないという選択は残されていなかった。
「君たちって……そんなに強かったのか?」
俺は愕然としながら彼女たちに尋ねる。
「別に強くないよ! だってゴブリンだもん! ね、イヴにレイレイ!」
「そうね。ゴブリン程度、あたしたちの敵じゃないわ。雑魚よ雑魚」
「わたしの場合……あまり自分に自信を持っているわけではないですが、弱い方だと思います」
ゴブリン程度敵ではない?
うーん、全く分からない。
冒険者業なんて興味がなかったから、魔物については詳しく知らないし。
冒険者ではない一般市民としての目は、魔物=全部強くて怖いってイメージだ。
ともなれば、ゴブリンってのはそこまで危惧するほど強い存在じゃなかったってことか。
自分の中でとりあえず納得がいき、こくりと頷く。
「でもお前らすごいな! さすがは俺が誇る奴隷……いや、もう違うな。これからは家族だ」
もう俺は奴隷商からは足を洗おうと思っている。
そもそも、奴隷業なんて嫌いだったし、彼女たちを売りたいとも思っていなかった。
そりゃ仕事だからある程度やっていたが、客に提示していた最低限の条件も彼女たちを愛するばかりに高いものになっていたし。
借金取りからも逃げたし、もう家族ってことでいいだろう。
「家族!? 初めて言ってくれた! いいねそれ! 家族家族!」
「家族……」
「そう、家族だ! 俺たちはもう、自由に暮らしていこうじゃないか!」
ミーアは耳を嬉しそうに動かし、イヴは目が赤く光っている。
ふふふ、喜んでくれているようだ。
「わ、わたしたちが家族でいいんですか?」
そんな中、レイレイだけが不安そうに聞いてきた。
まあ、彼女は自分に対して自信が持てていない。
俺は昔から大丈夫だって言っているのだが、なかなか前には向けないらしい。
「大丈夫だよ。別に気にすんなって。俺は奴隷とかそんなの、気にしてないからさ」
もう関係なんてない。
奴隷業から足を洗うと決めたんだ。
「これからはスローライフでもしようぜ。ああ……こんな土地だけど。それと逃げたから借金取りに怯えるのは変わらないけど」
そう言葉に並べてみると、一切スローライフを楽しめる要素がない。
我ながら、これでよくスローライフをしようだなんて言えたな。
けれど、三人は目を輝かせながら頷く。
「いいねいいね! スローライフしようよ!」
「まあ、楽しみじゃないってわけじゃないかも」
「わたしでよければ……してみたいです!」
喜んでくれているのを見て、俺は少し嬉しくなる。
というか、ほっとした。
心のどこかで、拒絶されるかもしれないと思っていたからだ。
こんなことを言っているが、俺は彼女たちを奴隷と言っていたから。
もちろん、名目上だけれど。
「よし! そうと決まればお前たちに聞きたいことがある!」
腰に手を当てて、下をちらりと見る。
「ゴブリンって美味しいと思う……?」
問題点第一。
食料がない。
問題点第一から致命的であった。
「食べられるよ! というか、基本的に何でも!」
「まあ……ミーアだしな……」
「なにそれ!? 何か変なこと言った!?」
彼女は獣人。
自然界で生きている獣人種は基本的に狩りを生業としていて、何でも食べると聞いている。
でも、あれか。獣人種と人間って見た目同じだし、わりと食えるものかもしれない。
「あ、あなた……もしかして本当に食べようとしてるの?」
「イヴ、俺は覚悟できた」
「ねえレイレイ? あなたは違うわよね? ゴブリンを食べようだなんて、考えてないわよね?」
イヴが震えながらレイレイに助けを求める。
「エルフの国では珍味として食べられてましたし……わたしは大丈夫です」
「嘘でしょ!? ……ねえ、スレイ?」
普段はクールなイヴが珍しく涙目を浮かべている。
俺は微笑を浮かべ、そんな彼女を励ますように肩を叩いてあげた。
「ごめんね」
「スレイ!?」
「ああ……静かにした方がいいぞ。魔物が近づいてくるかもしれないし」
「どうして冷静なのよ……本当。いつもはダメダメなのに、こんな時に限って覚悟決めちゃって……」
すまないイヴ。俺はもう生きるために覚悟はできているんだ。
「また明日、まともなご飯を探そうな」
「うっうっ……高貴な純血であるあたしが……」
「しゃーないって。許してくれ……?」
今、イブなんて言った?
高貴な……なんとかって言ったよな。
聞き取れなかったのだが……まあ別に大したことでもないか。
「よし。それじゃあ調理でもするか」
「はーい!」
「う、うん!」
「うっうっ……」
ミーアとレイレイの元気な声と、悲しげなイヴの声が夜に響いた。
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