3.嘘だろ?
「お前さんらはここら辺で降りな。領地の首都まで行っちまうと、普通に初見の人間は襲われるからな」
「あの……でもこの辺りも魔物が多く出るって聞いてるんですけど」
「人間に襲われるか、魔物に襲われるかの違いだ。どっちにしろ死ぬ可能性はあるが、まあ魔物の方が安全だろう。見たところ、お前さんは魔族を連れているようだしな」
「それは……」
この子たちが戦えるか、と言われると俺には分からない。
戦う機会がなかったから当然と言えば当然。
まあ……魔族だからある程度戦闘能力はあるだろう。
魔物に勝てる見込みは全くもって不明としか言えないけれど。
「それじゃあな。ま、死にはしないでくれよ。俺も気分が悪いからな」
「あ、ありがとうございました」
去っていく馬車に頭を下げて、俺は嘆息しながら額を抑える。
これからどうしたものか。
逃げてきたはいいものの、何も考えていなかった。
まず住処がない。
こんな森の中なんだ。宿もないだろうし、というかあったとしても金もないし。
「にしても……不味いな」
外がだんだんと暗くなってきた。
これ以上日が沈むと全く動けなくなってしまう。
行動できるうちに動かないと、最悪な事態は避けられない。
「スレイ。もしかして住処とか探してるの?」
「ああ。どっか空き家でもあればいいんだけど」
困り果てていると、イブが肩を突いてきた。
長い間一緒に暮らしてきたからか、俺の気持ちもなんとなく察してくれるようになったようだ。
「ふーん。分かった」
そう言うと、イヴの目が赤く光る。
暗闇の中、線を描きながら光がちらつく。
「あー! イヴって吸血鬼だもんね! スレイ知ってる? 吸血鬼の目ってすっごいんだよ!」
「ですです! どんなものでも見透すんですよ!」
「マジか……イヴ。なんか見えた?」
尋ねてみると、イヴがこくりと頷く。
「小屋みたいなのを見つけた。多分、こんな場所だから空き家だと思う」
「おお! 本当か!」
すごいな。
吸血鬼の目って優秀だ……!
「でも魔物も見つけた。多分、空き家を住処にしてるんだと思う」
「ま、魔物!? それは普通に不味いな……やっぱり無しにするか。いや、でもな……」
悩んでいると、ミーアが目の前までやってきて遠くの方を見据えた。
ぐっと足を引いて、ちらりと俺の方を見る。
ピコピコと動く耳は、魔物がいたと言う方向を向けていた。
「私、戦えるよ!」
そう言うと、イヴとレイレイがミーアの隣に並ぶ。
「あたしも戦える」
「わ、わたしもです!」
「いやいや……絶対無理だって。もちろん君たちを信用していないってわけじゃないけど、相手は敵だよ? 平気で殺しにくるよ?」
正直、三人が心配だ。
俺のことを気にかけてくれるのは嬉しいけど、やっぱり無理をしてほしくない。
もしこれで彼女たちに何かあったら、俺は一生後悔することになると思う。
「でも、選択肢はないよ。それはスレイも分かっているよね?」
「イヴ……それは分かってるけどさ」
「わ、わたしもイヴさんと同じです。選択肢はもうありません」
「私もそう思うな!」
選択肢は、確かにない。
俺たちが今、できることは戦うか逃げるかの二択。
どちらにしても、死ぬ可能性は否めない。
「分かった。それじゃあ、俺も頑張る」
俺は腰に下げていたナイフを手に取り、すうと息を吸い込んだ。
「一緒に、戦おう」
「おう! いいねいいね!」
「良い判断ね」
「です!」
やるっきゃない。
覚悟決めろ、俺!
「んじゃ、魔物狩りと行こうじゃないか! 準備オーケー! 行くぞ!」
瞬間、両隣にいた三人の目が光る。
俺が一歩踏み込んだ瞬間には、三人は俺の何十歩先を進んでいた。
「ええ!? あんなに走れるのか!?」
思わず動揺してしまう。
こんなに速く走れるって……魔族のことを勘違いしていた。
というか、俺が知らなすぎるってのもあるのか。
彼女たちには限りなく、人間と同じ生活をしてもらっていたからな。
「ってか!! もう見えなくなったって!」
ぜえぜえと息を切らしながら、必死で走る。
しばらく走っていると、やっと空き家らしき影が見えてきた。
「遅すぎる! もう終わったよ?」
「全く、ダメダメだね」
「あはは……先、やっちゃいました」
そこには、倒れた数多くのゴブリン。
そして嬉々とした様子でいるミーアと、呆れているイヴ。苦笑しているレイレイの姿があった。
「ええ……? 嘘だろ?」
あの一瞬で、魔物を倒したってのか?
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