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2.終わった

 奴隷商人ってのは、やっていてやり甲斐なんて感じることはない。


 可能なら、こんな仕事なんてしたくないが……仕方がない。



「ご飯できたぞー」



 三人がお風呂から上がった頃合いに、ちょうど俺が作っていた料理も完成した。


 声をかけてやると、お風呂場から三人がバタバタと走ってくる。



「ご飯!?」



「……今日も美味しそうね」



「美味しそうです!」



「お前ら……せめて服は着てくれ。目、開けれないんだけど」



 ご飯になると、毎回三人は裸で走ってくる。


 タイミングがタイミングだから仕方ないのかもだけど、自分たちが女の子だって自覚は持ってほしい。


 というか、俺が男だって見られてないのかな?


 それはそれで悲しいんだけど。


 そんなこんなで、どうにか服を着てもらった三人は嬉々とした様子で椅子に座る。


 目の前には俺特製、超絶美味しいカレーが並べられていた。


 スパイスや具材にこだわりまくった……って、これはまあいいか。



「すごく美味しいよ! やっぱりスレイのご飯は最高だね!」



「だろ? ミーアは素直に言ってくれるから俺も嬉しいよ」



 ピコピコと動く耳を見ながら、俺はくすりと笑う。


 彼女が耳を動かしている時は、相当喜んでいる時だ。



「美味しいです! スレイさんの作るご飯は心がぽかぽかします!」



「レイレイ……泣けてくるぜ」



「美味しいわ。今回は、ぼちぼちってところかしら」



「イヴはイヴで色々と泣ける」



 イブに関して言えばもっと素直になってくれてもいいと思うんだけどな。


 ま、吸血鬼ってのは興奮したら目が赤くなる特性がある。


 今見てみると、イヴの目は赤く輝いているから興奮しているってことだ。


 とどのつまり、超喜んでいると。


 全く、素直になればいいのに。



「にしても、今日は大丈夫だったの?」



「え? 別にいつも通りじゃないのか?」



 イヴがふと、俺にそんなことを言ってきたので首を傾げてしまう。


 そりゃ、大丈夫かって言われると大丈夫じゃないけど。


 いつものことだしな。


 一体彼女がどんな意図で言ってきているのか考えながら、口にカレーを運ぼうとした瞬間のことだった。



 ――ドンドン!



 ふと、玄関から荒々しいノック音が響いた。


 すると、賑やかだった三人が警戒態勢に入る。



「スレイ! 今日こそ金は用意できたんだろうな!!」



「やっべ……今日が借金返済の期日だったんだった……!」



 わけあって奴隷商人をしていると言ったが、理由の一つとして両親が抱えていた物が俺に回ってきたというのがある。


 両親は夜逃げをして、幼い俺に全て託したってところだ。


 更に、三人には良い生活をしてもらうために数多くのお金を借りていた。


 別途で売上が見込めたらいいのだが、そういうわけにもいかなかったのでお金は膨らむばかり。


 最終的に「この日までに返さないと首が飛ぶぞ」と言われていた。



 それが――今日だった。



 どうする……お金なんてねえし。


 戦うにしても、俺は全く力なんてない。


 三人は魔族だから戦えるかもしれないが、実力なんて一切知らない。



 よし――逃げよう。



 両親と同じことをするのもあれだが……今は逃げる以外選択肢はない。



「ミーア、イヴ、レイレイ! 向こうの窓から外に出よう!」



「逃げるのっ?」



「あたし、戦うけど」



「わ、わたしも!」



 三人は戦うつもりでいるらしい。


 でも、彼女たちが戦えるとは思えない。


 なんてったって、魔族とは言っても非力な少女たちだ。



「怪我したらヤバいだろ。それに……逃げないと俺の首が飛ぶ」



 ヒヤリと流れる汗を拭い、反対側の窓へと走る。


 よし、見た感じこっちには来てないっぽいな。



「早く開けろ! 来ないなら無理やり開けてやるからな!」



「やっべ……早く行こう!」



 窓から身を乗り出し、どうにか外へと脱出する。


 息は上がっているが、まだどうにか走れる。



「わっとと」



「あたしも大丈夫」



「わ、わたしも!」



 後から出てきた三人を確認した後、俺は正面にある森を見る。


 ここを抜けた先に小さな街があるから、そこで馬車に乗って遠くに逃げよう。



「走れ!!」



 そう言って、俺たちは暗がりの中を走り抜けた。


 ◆



「物資を運ぼうとしてたら、まさか人間と魔族が乗ってくるなんてなぁ」



「ほんとすみません」



 俺たちはどうにか街へとたどり着くことができ、更についでだからと荷物を運ぶ馬車に無料で乗せてもらえた。


 人間の温かさを久しぶりに感じている……。



「よかったね! 馬車に乗れて!」



「本当だよミーア。それに二人とも、無理させちゃってごめんな」



「いいのよ別に。気にしないで」



「だ、大丈夫ですよ!」



 全く、俺は保護者として失格だよ。


 まあ……これで借金取りもしばらくは俺のことを見失うだろう。


 いっそのこと、諦めてくれたら嬉しいんだけど。



「にしても、お前さん。こっちも急いでたから伝えなかったが、乗る馬車間違えたかもしれないな」



「乗る馬車を間違えた? え、この馬車ってどこに向かっているんですか?」



「この国の地獄って呼ばれてる、辺境アリビア男爵領だよ」



「え……嘘でしょ?」



「アリビアってなんだか綺麗な名前だね! ね、スレイ!」



 ミーア、呑気なのは君だけだよ。


 イヴとレイレイは知っていたのか、苦笑していた。


 そう、御者さんが言っている通り――アリビア男爵領はこの世の地獄。


 魔物に溢れ、領地は枯れ果て、領民は荒くれ者ばかり。


 俺は勢いに任せてこの馬車に乗ってしまったが、どうやら地獄行きのチケットを握りしめてしまったらしい。


 終わった。

 

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