帝国に受け入れられ、新事実を知りました
何が何だか分からないままに、私はそのままイルディア帝国の皇城に連れて行かれることとなった。
私の母が皇族だなんて何かの間違いだろうと思ったのだが、ロケットは皇帝の手によって実物だと確認され、しかもシエナ皇女の肖像画だと言って渡された絵に描かれていた女性が私の知る顔よりも幼さを残しているとはいえ紛れもなく母であったとなれば、もう信じざるを得ない。
「よくぞ……よくぞ生きて儂の前にやってきてくれた。シエナのことは残念だが、それでもこんなに可愛い孫娘に出会えるとは……神に感謝してもしきれない」
そう呟くや私を抱きしめて涙を浮かべていた皇帝陛下――いや、お祖父様をはじめ、皇族の方々も、突然現れた私という存在をとても歓迎してくれた。
もう私には、私を家族とも思ってくれない家族しかいないのだと思っていたというのに……。
皇城で働く人々も、突然現れた新しい「皇女」を白い目で見ることなどなく、心からの敬意をもって歓迎してくれた。
「国を追われた私が、別の国でお姫様になってしまうだなんてね」
私室としてあてがわれた豪奢な部屋の寝台にばふりと寝そべりながら、私はまるで夢を見ているようだとどこか他人事のように思う。
しかし頬をつねっても痛いということは、これが私の身に起きた現実なのだ。
そう実感しながら、私は当面の間は静養して身も心も休めることにした。
***
だが、平穏な日々はほんのつかの間のことだった。
「ど、どういうことですか……?」
帝国にもたらされた急報を聞くや、私は血の気の引いた顔で呆然と問い返す。
「嘘でしょう? ソレイユ殿下が……そして皆が……投獄されただなんて……!」
知らせというのは、故国で重大事件が起こったということだった。
しかもその内容は、第二王子のソレイユ殿下を皇太子にせんと、ソレイユ殿下の母妃や公爵家が中心になって第一王子を討とうとした挙げ句失敗し、首謀者たちがことごとく投獄されたというもの。
その中には、父公爵、継母、エルダ、ソレイユ殿下の母妃、そして当然のことながらソレイユ殿下本人の姿もあったというのだ。
「残念ながら、嘘ではございません。かつて皇女殿下の近くにいらした方々は、ほとんど投獄されたと言っても過言ではないようです。皇女殿下も、国外追放されていなければ投獄されていたかもしれません」
王国に派遣されていた帝国のスパイだという男が、淡々とした口調で報告してくる。
それを聞いた私の中にわきあがってきたのは、何とも言えないもやもやとした感情だった。
……なんで? どうしてそんなことになっているのよ?
私という邪魔者を排除して公爵家は完璧な家族になり、そしてソレイユ殿下はエルダとともに幸福な夫婦になるんじゃなかったの?
後味の悪さと言い知れぬ違和感が襲いかかり、気分の悪さに私は思わずふらついてしまう。
その拍子にポケットに忍ばせていたロケットが床に落下して、ぱかりと蓋が開いてしまった。
いけない、と手を伸ばした私だったけれど、ふと手を途中で止めてしまう。
今まで開くと思わなかった場所が開いており、そこから小さな紙が覗いていたからだ。
「何だろう、これ」
そこに記されていたのは――「どうか幸せに、ピナ」という言葉。
筆跡から察するに、これはソレイユ殿下の文字に間違いないと思う。
「……どういうこと?」
違和感の正体に手が届きそうな気がした私が、拾い上げた紙を目の前にかざしてぽつりと呟いた瞬間、部屋に静かにノックの音が響く。
「失礼いたします! 王国のソレイユ第二王子の侍女を名乗る女が、皇女殿下への謁見を求めているのですが……」
「侍女? 分かったわ。会うと伝えて」
故国で起きていることとこの訪問は、きっと無関係ではないはずだ。
そう考え、状況把握のためにも会わねばならないと私は侍女と名乗る女を応接室に通すことにした。
そこにいたのは、確かに故国の城で見かけたことのある人物に違いなかった。
とにかく落ち着いて事情を聞かなければと思った私だけれど、私よりも先に動いたのは彼女だった。
彼女は私の姿を認めるや、必死に足元に縋り付いてきて懇願してきたのだ。
「ああ、ピナ様! どうか私の話を聞いてください! このまま誤解してすれ違ったまま終わるのは間違っていると思うのです。どうかソレイユ殿下の行動の真意をご理解いただきたく……どうか……っ!!」




