第1話 木漏れ日照らす戦火
樹齢数百年は超えるといわれる古代樹が立ち並ぶこの森で、四人組の人間と二匹の魔物が激しく戦闘を繰り広げる様を、ある男が大木の上から静かに見下ろしていた。
「おい!!!あれはE級モンスターのスライムとD級のレッドパンサーだろ!?こんな戦い方見たことねぇよ!!」
よく手入れされた剣と盾を両手に装備した、いかにもリーダー風な男が叫びながら跳躍した。
その直後、敵対するスライムの体が歪み始める。
身体の一部を薙刀に変形させたスライムが横に一閃した。リーダー風の男は辛うじて空中へと逃れたが、その斬撃は背後の直径二メートルはありそうな大木をいとも簡単に薙ぎ払った。
轟音と共に大木が地面へと倒れる。すると、間髪入れずに今度は、大気を震わす咆哮を放った赤い虎が、逃げ場のない男に襲いかかった!
「ガルルルルアッッ!!」
それは完璧なタイミングだった。ーーしかし
「シルド《初級防御呪文》!!」
すんでのところで、男の前方にガラスの様な透明の壁が発現した。
その殺意を具現化したかのように見える悍ましい牙は、壁に遮られ届かなかった。
「助かったぜ…ナーフィ!!」
「危なかったわね…ギル。防御呪文が間に合ってよかったわ」
ナーフィと呼ばれる女が、杖の構えを解きながら汗を拭う。
「どうやら、本気でやらないとやばそうだぜ。お前ら!気合い入れろ!!」
「「「おう!!!」」」
ギルの鼓舞に、三人は返事を重ねた。
「サラワク!まずはあの厄介な虎を抑えておけ!!そして、ナーフィとシーナは呪文でサラワクの援護!!あのスライムは俺一人で何とかする!」
「「「了解!!」」」
ギルの指示を聞いて、鈍い色で輝く重たそうな鎧に包まれたサラワクと呼ばれる男が、身の丈ほどある大盾を構えながらレッドパンサーに向かっていった。
「うおおおおおぉぉっ!!」
大盾に行く手を阻まれ、レッドパンサーはジリジリと後ろに後退する。
「今だ!!シーナ!!」
「フレム《初級火球呪文》!」
拳のような大きさの火球が、レッドパンサーの足元に着弾し大きく爆ぜた。砂煙が高々と舞い上がると、辺りを濁らして包み込む。
「ガルラ!?」
三人がかりで攻められるレッドパンサーの方を気にし隙を晒したスライムに、ギルが迫った。
「これで楽にしてやる!!下級魔物の癖に良くやった方だぜ!!」
振り上げた剣の持ち手から剣先へと、みるみる炎が伝わり纏われていく。
ギルは燃え盛る剣を振り上げると、そのまま真っ直ぐと空気を灼く一撃が振り下ろした。
「シルド《初級防御呪文》」
「!?」
ガキイィーーンッ!!
緋い焔の刃は、目を瞑ったスライムには届かない。なぜなら、さっきレッドパンサーの牙からギルを守ったあの防御呪文が、今度はスライムの前にも展開されていたからだ。
「はァ!?魔物が防御呪文!?あり得ねぇ!!魔物は呪文を扱えないハズだろ!?」
ギルは再び距離を取り始めた。
(スラピーもガルラもよく頑張ってはいるが、中々に相手が手強いみたいだ…。まだ二匹だけだと荷が重いな)
高さ七メートルくらいの大木の上から、ある男が眼下に広がる戦場を見下ろしつつ垂直に飛び降りた。ーーダンッ!!と大きな音と共に砂塵が舞い上がる。
砂埃がゆっくりと晴れていくと、その先に、目を見開いて驚いた様子を見せるギルがいた。
「特徴的な黒髪の天然パーマに紅のローブ!そして、その魔物と心を通わせ従える唯一無二の固定スキル、、お前まさか!!『叛逆のナラク』なのかッ!!」
「おいおい、まじか…。アルスーン王国からこんなに離れた場所でも俺の情報が広まってんのかよ」
「ここでお前を殺せば俺たちの名は世界に響くぜッ!!絶対に逃さねぇぞ!!ナラクッ!」
「大したラブコールだな。来いよ」
見るからに興奮した様子で息を巻くギルが、懐からパチンコ玉のような物を取り出し投げ付けてきた。数十玉あるそれは、全てが例外なく燃え盛っていて彗星の尾のような軌跡を描き、こちらに向かってきた。
なるほど…、奴の固定スキルは火属性付与みたいなもんか。
「スラピー!!自分の的を広げてあれを跳ね返せるか!!」
「できるけど…あっついのは嫌だよぉ〜」
「ちゃんと消火はするから安心してくれ!」
ナラクはそうスライムに指示を飛ばすと、オール・アクラ《全体水呪文》を唱えた。
伸ばした手の先から大質量の水が発現する。その水に突っ込んだ燃える弾丸は、炎のベールを剥がされるも勢いは衰えず、スラピーの方へと突き抜けた。
「よし、消火はできたな」
スラピーは体を薄く広げ待ち構えていた。弾丸はその中に包み込まれる。そのまま勢い殺さず後ろにビョーンと伸びたかと思うと、ゴムの要領で一気にそれを跳ね返した。
「馬鹿なッ!!そんなふざけた戦い方ができ…ぐッ!!!」
弾き返された弾丸は容赦なくギルの体を貫く。見るからに深刻そうなダメージを負い、所々に風穴が空いたギルは、苦しそうな声を発した。
「ディア・ヒー…《中級回復呪》」
「そんな隙見逃すほど、俺達はお人好しじゃない」
すでに、アシスピ《速度向上呪文》をかけられ蒼く光るスラピーが、目にも止まらぬ速さで弾き飛んでいた。
「スラ・バレットーーー!!」
ドヤ顔で技名を叫ぶスラピーが、回復しようとしていたギルの喉元を貫いた。
喉元にスライム一匹分の穴が空いた奴は、数秒だけこちらを睨むと、まるで電池が切れた玩具のように、自身の血が彩る赤い土のベッドに倒れ伏した。
「スラピー!!よくやった!!そのままアシスピ《初級速度向上呪文》の効果がある内に、囮になってるガルラの元へ向かってくれ!」
「わかったー!!」
そういうと、スラピーは急いでとガルラの元へ飛んで行った。
(おっと、俺も加勢する前にギルに確殺入れておかないとな。こいつらは心臓さえ無事なら復活魔法で何度でも蘇ることができるし…)
ナラクはギルの亡骸に向かってフレム《初級火球呪文》を唱えた。次第に広がる大炎が敗北者を黒く染め上げていく。
「ーーカアァァァン!」
遠くから金属音が聞こえてきた。
(派手にドンパチやってるな…)
炎がギルの全てを燃やし尽くしたのを見届けると、ナラクは急いでスラピーを追いかけた。
ナラクが駆けつけると、サラワクと呼ばれていた男が倒れているのが目に入った。鎧の鳩尾部分にはヒビが広がっていて、口からは血が溢れている。
「ディア・ヒール《中級回復呪文》!!!」
女が唱える緑色の光が、地面に横たわるサラワクを優しく包み込む。しかし、彼の傷が癒えることはなかった。
「回復呪文が効かない!!もう死んでる!」
「あの屈強なサラワクを1発で…!?あのスライムがやったっていうの!?」
シーナとナーフィの視線の先には、スラピーがいた。
(ガルラ…、かなり傷を負っているな)
「ヒール《初級回復呪文》」
今度はガルラの体を緑色の光が覆った。赤い毛皮の下に見える生々しい激戦の傷が、みるみる癒えていく。
「三人相手によく頑張ったな!ガルア」
「申し訳ないガル、ご主人様。耐えるのが精一杯で期待に応えられなかったガル……」
ガルラが長い尻尾を下げ、しゅんとした顔を浮かべ謝った。
「あいつら中級も扱えるし、連携もしっかり取れるから仕方ねぇよ!!悔しかったら一緒にもっと強くなろうぜ」
「そうだよー!ガルラ!僕なんて斬られそうだったんだから!」
(たしかに、スラピーは俺の防御呪文が間に合わなかったら真っ二つだったな…)
「ありがとうガル…」
「よくもッ!!サラワクを!許さない…。ディア・フレム《中級火球呪文》ッ!!」
突如、シーナの怒号と呪文詠唱が森に響く。
(ディア級だと!?まずい!中級攻撃呪文か!何かみんなを守れる呪文を唱えないと…!)
「オール・シルド《全体防御呪文》!」
ナラクはスラピーとガルラをドーム状に囲う透明なバリアを展開した。すでに目の前には、轟音を立てて紅蓮の炎を纏った豪速球が迫っていた。
バリアと大火球が衝突した次の瞬間
ーーゴォォォォォォォ!!と大きな音を立てて辺りを飲み込む盛大な爆炎が舞い上がった。
「わぁぁぁ、こんなの受けたらひとたまりもないよぉ」
「さっきまで、あの盾を持った男が近くにいたからこの呪文を打てなかったガルか…」
バリアの外には真っ黒な煙と真っ赤な炎が入り乱れている。
「まるで世界の終わりみたいだな」
「ねぇ、これまだ続くのかなぁ?」
しばらく耐えていると、全てを飲み込む爆炎は嘘のように消え去った。オール・シルドには無数のヒビが入っていた。
さっきの大火球が引火したのだろう。辺りにある大木が数本、松明の様に燃え盛っていた。
「くっ……!ディア級でも仕留められないなんて…!」
「待って、あなた達がここに来たってことは…、ギルはどうしたんですの!?」
シーナと比べて、まだ冷静が垣間見えるナーフィがナラクに問いかけた。
「彼はもう炭になっちゃったよ」
「嘘っ!?…ッ!!よくも!よくもッ!!死ね!裏切り者ッ!」
ナラクの言葉を聞いたナーフィは、怒りの形相を浮かべ、杖を構えた。
「コルド《初級氷結呪文》!!」
ナラクは一足先に呪文を唱え、シーナとナーフィの足を氷結させ動きを封じた。
「足が動けないんじゃあ、後ろに回ったあいつらに振り向いて呪文なんか当てられないよな」
動きを封じられた彼女らの後ろから、体の一部を槍のように変化させたスラピーが鋭い一閃突きを放った。
細い首を貫かれたシーナは、血をぶくぶくさせながらコヒュ…とタイヤから空気が抜けるような音を出し、だらんと倒れた。
もう片方のナーフィは、すでに上半身がゴロッと地面に転がっていた。
「お疲れ様!スラピー!ガルラ!」
「やったねー!ナラク!!強い人間四人も倒したよー!」
「あぁ!強かったな!ギル以外の固定スキルが何だか分からなかったけどね」
「えへへー!!」
「お褒めの言葉嬉しいガル!」
(本当に良くやったけど、もっともっと強くならなければ。今戦ったパーティはぜんぜん無名だったし…。上級呪文を使える人間と戦ったら、確実に俺たちは勝てないだろう)
木々の間から吹く生温い風が、ナラクの頬を撫でた。
(そういえばあの日もたしか、こんな風が吹いてたっけな。嫌でも思い出しちまうぜ)
ナラクは静かに目を閉じると、ふと頭に浮かんできた過去を振り返っていた。
ーー叛逆のナラクと呼ばれるようになってしまったあの日のことを…
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《Profile》
ナラク=ルークス (男 26歳)
固定スキル 魔物使役
得意呪文 サポート、バフ系
好きな物 甘い物全般
嫌いな物 内側に開くドア
・うなりのかかった黒髪に、くすんだ黄色のダボダボしたズボンと真紅のローブを纏っている。性格は割とお調子者である。敵味方問わず天然パーマをバカにされることがあり、本人は割と気にしている。固定スキルにより魔物と唯一言葉を交わすことが可能な人間。様々な呪文を駆使して仲良くなったら魔物と一緒に戦う戦闘スタイル。
本作品をお手に取ってお読みいただきありがとうございます!
このお話はプロローグのため、続きはありません!!
次話よりナラクが何故人類と敵対しているのか?一体何があったのかが明かされつつ、魔物と人類が争い続けるこの世界で彼らの壮大な物語が幕を開けます!!
もし面白いと思って貰えたら、応援をいただけると励みになります(//∇//)




