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42『不完全暴力』

 自身の特性に気づいたクロネコは、次々と襲い掛かってくる猫鬼たちを不完全にすることで有利に戦いを進めていきました。


 視覚を不完全に

 聴覚を不完全に

 嗅覚を不完全に

 触覚を不完全に

 呼吸を不完全に

 血流を不完全に

 鼓動を不完全に

 完全を不完全に


 まだ、上手く使いこなすことはできていませんが、明らかに以前より戦いやすくなっています。そもそも相手は普通の猫鬼。クロネコからすれば大した敵ではありません。


 でも。


 あまりにも数が多すぎる――――――。


「はぁ……はぁ」


 いつしかクロネコには細かな傷が増えていきました。


「はぁ。はぁ」


 失われていく体力、近づいてくる死。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 でも、だからこそ。


「うあああああ!」


 叫び声をあげて戦うクロネコは強い。どんどんと使い慣れていく不完全化特性に、猫鬼たちはどんどんと倒れていきます。


「ふううぐうう!」


 途中、倒した猫鬼の腹を掻っ捌き、中身を食うことでエネルギーを補給します。


「どれだけでも、来い!」


 クロネコに対して弱者でしかない猫鬼たちが、引くことはありません。猫鬼は、闘争本能を信ずる暴力の信奉者たち。己が己であるために、あたりまえのこととして戦い続けるのです。


「僕を、僕を殺せるのはエリーだけだ!」


 百八匹目の猫鬼を殺したクロネコが咆哮し、百九匹目を屠ります。敵はまだ、数えきれないほどいます。


「あああああ!」


 食いながら殺し、殺しながら食う。戦い続けるクロネコの呼吸は、どんどん乱れていきました。苦しい、苦しい、とても苦しい。でもクロネコは止まりません。こんなところで死んでいたら、エリーとの再会など到底かなわないからです。


「……ぜっ……ぜっ……ぜっ……ぜっ……ぜっ」


 戦闘だけでなく降り続ける黒い雨も、クロネコの生命力を消耗させていきました。でも、それでもクロネコは前を見続けます。前を、見続けたのです。





 戦いはじめて約半日、クロネコは六百体以上の猫鬼を殺していました。


「ぜえっ、ぜえっ」


 残り――――あと二匹。


「ふううう」


 深く息を吸い込んだ後にクロネコは、一気に勝負を決めようと並んで立つ二人の敵めがけて大きく飛び出しました。


 ポキン

 

 なんとも間抜けた音がして、クロネコは派手に転んでしまいました。


「あ、あれ?」


 立ち上がろうとして、右の足首から先がないことに気が付きます。


「がああっ!」


 今こそチャンスだと言わんばかりに飛び掛かってきた一匹の猫鬼を殺しながら周囲を見渡すと、さっき立っていたあたりに右足がぽつんと立っていることに気が付きました。


「足が……取れた?」


 その、断面はまるで折れた蝋燭のようで――。

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