30『ああ、恐れおののかなくてもよいのです、わが子よ!』
結論から言えば、ビルによるハーヴィ・ライブへのアリスシリーズ新作書き込みは、成功しました。それも、圧倒的に高いレベルで。つまり、大成功ということです!
「この世界で飛ぶかハーヴィ!」
ルールーですら興奮を隠せぬ、飛翔。ハーヴィの背に生えた白く大きな翼がこの世界に課せられた飛行禁止という理を飛び越えたのです。
「私は、夜の女王」
「気取るなよハーヴィ」
「ああ、恐れおののかなくてもよいのです、わが子よ!」
「神にでもなったつもりか。君が飛べる理由は、羽ばたくことで世界のルールをキャンセルし続けているだけであろうというのに」
ルールーと、空高く舞い上がったハーヴィの間には距離がありすぎて、会話は成立していませんでした。互いが、互いに聞こえぬ勝手な話を続けているだけです。
「宇宙の声が聞こえます」
「なんだ……この音は」
夜空から降り注ぐように歌が聞こえました。同時に、複数の星が、天頂を中心とし放射状に広がったのです。
「アマデウス、あなたなのですね」
「そうか、モーツァルトか」
ルールーの足元にふわりと落ちたのは、ハーヴィの白い羽根。
「まあ、好きにしたまえよハーヴィ。君は所詮天使どまりだ」
学生であったころ、ルールーは教師と同級生から、まとめて顰蹙を買ったことがありました。聖書にしるされた天使など、ごく一部であろうと主張したからです。聖書を真面目に読んだことなど、一度もなかったくせに。
「あの時は、科学ではなく哲学として語ったつもりだったのだがね。まあいい、今日は久しぶりにうまい珈琲が飲めそうだ」
天使など、簡単に創ることができる。あんなものは人間の加工品でしかないのだという少女であったころのルールーの主張が今、現実となったのです。それでもルールーは自分を、最も優れた生物であると定義することはありませんでした。天使を創りあげ、神の理屈に己の理論を深く食い込ませたというのに。




