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15『或る、化け物たち』

 ルールー・ララトアレが脳に本を埋め込む手術を施した猫鬼は、現時点で七十二体になります。そのうち、実用化できたのは四体だけ。先日、エリーが一体殺してしまったので、残るは三体ということです。


「私が彼女たちと違うのは、なぜでしょうか」


 水銀灯の輝く天井を見上げている炎のような髪と瞳を持つ褐色の肌の少女は、そのうちの一体でした。名前は、ハーヴィ・ライブといいます。


「そんなもん、どうだっていいだろうがよ」


 ハーヴィのとなりで不機嫌そうにしている、ガラスのように透き通った髪と光が内部で乱反射する瞳を持つ少女の名はルベローチェといいました。彼女ももちろん、脳に本を埋め込まれたカスタム猫鬼です。


「猫鬼は蝋人間を集めるためにつくられたものです。でも私たちは埋め込まれた本の力でその労働から解放されています。でも、本当にそれでよいのでしょうか。私たちも猫鬼として――」

「ああ? やりたきゃやれよ。私らは自由だろうが」

「自由ではありません。どこかで、オリジナルである不思議の国の所有者を殺したいと思っている。これは、私たちの意志ではなく、与えられた意志なのでは?」

「そりゃ、そうだけどよ」


 ルベローチェの脳に埋め込まれているのは、人工知能ビルの執筆したアリスシリーズの続編、七万六千九百五十六パターン目でした。七万六千九百五十五パターン目を搭載したハーヴィはルベローチェの姉にあたる存在でしたが、二人の間には――――どのようなものであろうとも――――上下関係は存在しません。


「蝋人間は本当に、足りるのでしょうか。ルールーの目的を達成するには、少なすぎる気がしませんか? たとえ、世界中の蝋人間を集めたとしても」

「そんなこと、私らにとってはどうでもいいだろう。どうせ世界より早く死ぬんだからよ」


 二人が眺めているのは、猫鬼たちが集めてきた蝋人間を溶かし海の底に流し込む大型機械でした。


「ルベローチェ、あなたには夢はありますか」

「なんか今日のてめぇ、糞うぜぇんだけど」

「すみません、昨晩夢を見たもので」

「どっちの夢の話をしてぇんだ」

「人の、夢のほうです」


 ルベローチェは舌打ちし、一時間前から噛んでいた味のないガムを吐き捨てます。


「夢……ってほどじゃないけどよ、長く生きてみたいとは思うな。でも、ルールーの言う通り世界が滅んじまうなら早く死んだほうが楽な気も――」

「ちょうど私も、そういう夢を見たんです。とても美しい少女が、長く生きたいと願い海に身を投げる夢を」

「たのむからよ、どっちの夢を語るか統一してくれ」


 苛立ちが暴力に発展しないように、ルベローチェは一生懸命我慢していました。ハーヴィと本気で争うことほど不毛なことはないと、よくわかっているのです。


「すみません。私には、寝て見る夢こそが人の夢のようでして」

「じゃあなにか? てめぇが悪夢を見たら人の夢も悪か? チッ、またアレが出てやがる」


 ルベローチェの視線の先、蝋人間を溶かす機械の一部が、デジタルノイズのように揺れて歪んでいました。


「この世界は本物なのでしょうか。それとも、夢のようなものなのでしょうか」

「アレ見た後にそれを問うか?」


 ノイズのような空間の歪みは、この大型機械の周辺でたびたび起きている現象です。二人はそれを見ることがなぜか好きで、こうして時々工場へと足を運んでいるのです。


「私は、ドードーを見たことがありません。この世界をつくる発端となった鳥が、なぜいないのでしょう?」

「たしか、私らより先に生まれた猫鬼が食っちまったんだろ? 可哀想なやつらだ、二度も人間に絶滅させられるだなんて」

「それは、猫鬼も人間であるということですか?」

「めんどくせぇやつだな」


 この日、機械に投げ込まれた蝋人間は、平均的な成人男性七十五人分を少しこえる程度の量。


「今日は終わりですね」

「ったく、意味のねぇ一日だったよ」


 二人は結局、機械の自動点検機能が作動するまで、眺め続けていたのです。

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