10『海面の話』
ドクターストライプことルールー・ララトアレは、窓の外の海を眺めていました。
「また海が、随分と遠くなってしまった」
陸が広がっているということはつまり、海が減っているということ。今住んでいるこの青い家のある場所も、七年前までは海の底であったのです。
「最後に雨が降ったのはいつかしら」
「小さな核戦争が終わった、翌々日だ。どす黒い雨だったよ」
アリスの問いに、ルールーが答えます。
「世界の中心には、とても美しい湧水……があるのでしょう?」
湧水を見たことのないアリスが、少し自信なさげに尋ねました。
「湧くよりも、流れ出るほうが速いんだよ」
「湧水は、終わるの?」
「もう、終わりかけている」
「海が干上がると、どうなるの?」
「世界が、割れる」
ルールーの中に、ある仮説がありました。平面となった世界は球体であったころよりも、だいぶ、脆い。陸を取り囲む小さな海が干上がり乾燥の時代が来ると大地の粘性が失われ、世界は崩れ落ちてしまうという、ほぼ、確実に起きるであろう仮説です。
「割れたら、どうなるの」
「下宇宙が天国でない限り、死ぬだろうね」
「天国は上にあるはずよ」
空には赤い月が七つと、握りつぶした銀紙のように輝く月が一つ、まっすぐに並んでいました。
「あれが天国の様相かね?」
「赤いのは血が、通っているからよ」
二人で見あげる、上宇宙。そこに、神が居るという証明は未だできていません。




