表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の庭付き楠木邸・WEB版【アニメ化】  作者: えんじゅ
第二部 第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

323/325

1 紅葉の庭

お久しぶりです。おはようございます。

更新が途絶えていた間も応援ありがとうございました!


第2部第2章もお楽しみいただけると幸いです。


 





 楠木湊の朝は、カーテンを開くことから始まる。

 肌寒さで目が覚めたその日もそうであった。

 シャッと勢いよく居間のカーテンを開けた湊は、目ん玉をひんむく事態となった。


「に、庭が燃えてるっ……!」


 なんということでしょう、庭が紅葉でまっかっかではありませんか。

 一瞬、本当に燃えているように見えたのだ。心臓に悪い。


「びっくりした」


 一夜にして、イチョウがモミジになっていた。

 それだけでなく、庭の大部分を占めていた大池も縮小し、もとのひょうたんのかたちに戻った。それに伴い、渡り廊下もクスノキの下にあった板張りも消えた。

 つまり、湊がこの家に来た時の配置に戻ったワケだが、ほどよく生えたモミジのおかげで、見知らぬ庭のように感じる。とはいえ庭の真ん中には、ゆるぎなくクスノキが立っている。そのことに、言葉にならない安堵を覚えた。


「クスノキはそのままにしてくれていてよかったけど、まったく山神さんは……」


 ひと言ほしいものである。

 その改装を無断で行った犯人はといえば、縁側にいる。

 四肢を投げ出し横たわる巨軀の狼は、まだ日の差さない軒下であっても、輝きを放っている。背景が赤いからこそ、より一層白さも際立つ。豊かな尻尾をゆるく振り、顎を上げる。ちろりと片眼だけで見てくることから、そうとう自慢げである。

 加えて無駄に御身をピカピカと明滅させるのは、大改装をしたところで、屁でもないという主張だろう。


「山神さん、おはよ」


 笑いながら窓を開けると、冷たい風が流れ込んできて、瞬時に真顔になった。


「うわ、さむっ」

「秋の景観に合わせて、気温も下げた。あたたかな格好で出てくるがよい」

「そうする。その前に顔を洗って歯も磨いてくるよ」


 寝間着のままの湊は、いったん窓を閉めた。


 身支度を整え、きっちり厚着をして、いざ庭へ。


「よそのお宅の庭みたいだ」


 モミジの映える日本庭園の景観に見とれた。

 盛土となっている庭の中央で、空へ腕を広げるように枝を伸ばすクスノキは、日光をひとり占めしようとしているようにも見える。

 それは、イチョウがなくなったせいもあるかもしれない。

 播磨に忠告されたのだ。

 クスノキがイチョウに嫉妬しているようだと。

 猛省した。そうであろうとわかってはいたが、初見で播磨に気づかれるほどだったとは思っていなかった。

 代わりにモミジとなったわけだが、クスノキは、どう思っているのだろうか。

 湊は、クスノキへと導くように転々と置かれた飛び石をたどる。掌状の葉をふんだんに茂らせたモミジが自己主張するように、枝を広げているが、頭の上の高さにあるから、邪魔にはならない。

 両側の赤が途切れると、真緑の樹冠が待ち構えていた。

 通常のクスノキは、常緑樹のため、秋になっても葉を落とさない。しかし春と秋に古い葉が色づき、新しい葉へと変わるため、若干紅葉した姿が見られるものだ。

 だが、この変わり種のご神木様は、いまだ夏仕様の色彩のままである。クスノキの譲れないところなのだろう。

 木陰に入る前に、ざわざわと枝葉が動いた。ぽこんとクスノキの精が肩に乗ってきた。


「おはよう」


 手のひらを上にすると、飛び移る。眼の高さに掲げ、真正面から視線を合わせた。

 瞬くこともなく見つめてくるその眼は、輝いている。頭に生えた小さな葉っぱも色鮮やかでツヤツヤだ。


「元気そうだね」


 その身をゆらし、頭の葉っぱも回転させることから、ご機嫌なことがうかがえた。


「モミジたちとは仲良くできそう?」


 こくんと頷いてくれて、湊は胸をなでおろした。


 一番気がかりだったことがなくなり、湊は軽やかな足取りで庭をめぐる。

 お次は、露天風呂。こちらに変化はない。ほこほこと湯気の立つ水面をかきわけ、ラバーダックがのどかに遊泳中であった。


「おはよ」

「ぷきゅ!」


 その身の側面をへこませ、鳴いた。

 縁側で寝そべっている山神が操作しているのだ。わかってはいるが、愉快なため、毎回声をかけている。


「湯加減はどう?」


 いったん深く沈み、しゅぽんとロケットのように飛び上がった。


「ご満足いただけているようで、何より」


 笑いながら、池へと歩み寄る。

 規模が小さくなってしまったが、霊亀一体なら申し分ないだろう。

 ひょうたん型のくびれの部分に、石造りの太鼓橋も架かっている。ひさびさの登場である。湊は石の硬さをサンダル越しに感じつつ、欄干に身を乗り出し、池を見た。

 底に白い玉石が敷き詰められ、ひょうたんの膨らみの小さな方にだけは水草が生えている。端へと向かうにつれ、密度が高くなる様は、まるで何かを隠すよう、ではなく、実際隠している。なびく水草の隙間に、竜宮門が見えた。 

 鮮やかな朱塗りの門の真ん前に、霊亀がいる。

 眼を閉じていることから、寝ているのであろうが、こちら側に顔を向けている姿勢は、竜宮門を守っているようにも見えた。

 が、違ったようだ。霊亀の瞼がひらく。


「おはよ」

『うむ……うむ……』


 言葉は不明瞭。こくこくと首を振るさまも緩慢。

 おそらく、竜宮城でしこたま酒を喰らってきたあとなのだろう。


「起こしてごめんね」


 あんぐりと開いた口からたくさんの水泡が出てきた。

 酔っ払いの行動はよくわからない。湊は足音を立てないよう、石橋を渡った。

 お次に、石灯籠。いまは誰も住んでいないそれは、片隅にあり、二基から一基に減っていた。


「あ、なんか、大きくなってる」


 若干形状も変わったようだ。癖で火袋をのぞくと、石が入っていて、驚く。


「どちら様?」


 つい訊いてしまいたくなるほど、その石はアヒルにそっくりであった。ぷきゅ~と露天風呂でアヒルが鳴く様は、我のトモダチとでもいっていそうだ。


「よかろう。そやつは、夜には明かりになるぞ」


 縁側で伏せた山神が愉快げにいったあと、アヒルが光を発する。ほんのりとした橙色だ。


「いいね。夜の景観もよくなりそうだ」


 笑いながら、縁側へ。そばに、手水鉢がある。

 筧からしたたる水を受け止めるその水面に浮いたモミジは、緑、黄色、赤に分かれて縞模様をつくり、見事なアートと化していた。


「山神さん、今回、だいぶ細かい所までこだわったね?」

「たまにはよかろう」


 耳と尻尾を派手に動かす山神のもとへ、湊は笑いながら戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★ 書籍①〜⑪・漫画①〜⑤発売中 ★
https://dengekibunko.jp/special/kusunokitei/

■アニメ公式サイト
https://kusunokitei.com/
■アニメ公式X
https://x.com/kusunoki_anime?t=IdmM_vaZdyjgQRFzL0YHeA&s=09
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ