96.飛ばされた先はどこでしょう?
マリへと話が戻ります
桜花がウサ達に絡みに絡みまくっている頃、マリはーーー…
目を開けるとそこは真っ暗闇だった。目の前には闇が広がっていた。
飲まれ消え去ってしまいそうなほどに深い闇ーーなんて事はなく、単に薄暗い場所にいるだけだった。
窓はあるようだが、板が打ち付けられており、陽の光が少量しか入ってこず、部屋の全体的に薄暗い。
マリはあたりを見渡すがよく見えない。つい先ほどまで明るい場所にいたため、目が慣れていないのが原因か。
あたりをよく見渡すために身体を動かせば、埃が舞ったのが肌に感じられた。よく見えないが、掃除は相当されていないであろうことは分かる。空気が悪い。悪すぎる。
『ここにいたら、僕は白猫になっちゃうよ。』
ある物語の黒猫がそんなセリフを言っていたなぁ。緊張感もなくそんなことを思い出してしまい、マリは顔を顰める。
黒猫がホコリだらけの部屋を歩き、白くなった自身の足を見つめて言ったセリフだ。ここにいたらマリも黒猫同様に白くなってしまうかもしれない。
それは綺麗な白ではない。パンダのあの汚れた尻尾のような白さである。嫌だ。嫌すぎる。パンダは可愛いが汚れて白くはなりたくない。
暗くてよく分からないが、おそらくマリは今、室内にいる。ただ、それ以外は何も分からない。
「みんな、大丈夫?」
周りに人がいるかも分からないが、とりあえず、マリは周りに声をかけた。
訳がわからない状況だが、とりあえず皆の安全確認をーー
「シッ!!」
ーー確認をしたかったのだが、マリの声に対し、思ったより早く反応があった。素早い反応。まるで焦っているかのような声であった。
その声はマリが思っていたよりもすぐそばからした。それこそ、ゼロ距離から。
そばに仲間がいる。それを知れれば多少は安心も出来たはず。普通の反応をしてくれたならばだが。
マリが望んでいた反応とはかけ離れた反応が返ってきており、何が起きているのか分からないがゆえに、マリの中から恐怖が溢れ出る。
マリは口を塞がれ、声の主により音を立てないようにと伝えらた。ほこりが舞うが、気にしてはいられない。
何が何だか状況理解ができず反射的に暴れそうになったが、口元を押さえてきたのが、よく知る人物であることに気づき、マリは大人しく動きを止める。止めざるを得なかった。
そして、言われた通り、静かにするが、どういう状況かが分からないため、口を押さえる人物を見つめた。
みんなの無事を確認して安心したかったのに、どういう事なのか。安心できない。せめて、説明して欲しい。
だが、自身に静かにするように指示してきたのだ。当の本人が話せるはずもなく。説明はないままに沈黙がその場を支配する。
《ーーーカサカサカサカサカサ…》
音を出さないように静かにすれば、他の音がよく聞こえてくる。マリにとっては歓迎しない音もまた、よく聞こえてくるというもの。
何かの足音。それは森で遭遇した魔物の足音のようであった。そうでなくとも、歓迎などできないような奴らーーそう、G的な何かの足音だろう。
魔物か、虫か。
どちらにしても遭遇したくない奴らだ。音だけでもおぞましい。ゾワゾワしてきてしまう。背筋から冷え冷えと寒くなってくる。
「ヒィッ!」
足音にビビったマリは声にもならない悲鳴を上げてしまう。口を塞がれているため大きな声は出ないが、ふさがれた口から悲鳴が漏れ出ていた。
顔を青くし、身を固くする。身体がカッチーーーンとかたまってしまう。氷付けにでもされたかのように。
何の足音だろうか。想像しただけで、冷や汗がじわじわと滲み出てくるのを感じた。魔物であろうと、あの憎き虫であろうと、歓迎してやれるような心境にはいない。
普段、通常時に出くわすのも嫌なのに、どこなのか分からない場所で出会すのはもっと嫌だ。
ネチネチネチネチ、お前は奥歯に張り付いた焼き餅かッ!ってくらいにネチっこく話してくるお局に、忙しく目が回る思いで走り回っている最中に、時間的にも精神的にも余裕がない中、捕まってしまうくらいに勘弁してほしい。
常時でも出会いたくないのに、余裕がないときはさらに捕まりたくない。それを察知しているのか、余裕がないときこそ話しかけてくるからお局はたちが悪い。
魔物やあのGが付く虫のようだ。
「まだ気付かれてません。このままやり過ごしましょう。」
小さな小さな声でマリの口を押さえていた樹里はマリに言った。
それを聞き、音の主がG的な虫ではないとマリは絶望する。
虫であっても嫌で嫌でたまらないが、魔物であるのも嫌だ。どちらが良いかと問われると迷ってしまうが、ぶっちゃけどちらも嫌だ。
今、そばにいるのが、どんな魔物であるかは分からない。下手に出ていっても対処できないかもしれない。恐怖が溢れ出てくる。
マリは樹里の言葉にコクコク頷くと、身を小さくして、音が去るのを待った。
時間にして数分もたってはないだろう。
残念ながら、その時間は果てしなく長く感じた。緊張状態で待つ時間はどうやっても長く感じられ、苦痛が大きいらしい。
ドッドッドッドッ!心臓の音すら、大きな、それはもう大きな音のように聞こえてきて、魔物にいることがバレてしまうんじゃないかって不安になってきてしまう。
何で言うか。ほら、学校とかの授業中とかにギュルルルル…と胃が胃テロをし始めてヤバイヤバイヤバイ…って焦って過ごす授業時間とか。
早よ終われって時ほど授業時間を延長しやがって、その数分が何時間何日にもわたる時間だったように感じる。
あんな感じに。
待っている時間は異様に長く、苦痛が半端なくあるように感じられたりするわけで。
今のマリには音が遠ざかり聞こえなくなるまで、あまりにも怖く、1秒でさえ、長く長く永遠の事のように感じられた。
「……行ったようです、ね。ここ、どこなんでしょう?」
しばらく、息を潜めて隠れていた。いや、違う。恐怖で身を固くし、動けずにいたんだ。怖かったから固まっていただけだわ。
怖くて固まっていたら、魔物が去っていった。マリはただただ、恐怖に震えていただけ。何にも出来ちゃあいない。
どんな魔物かわからない。けど、近くを大量に通って行った。
魔物と戦ったことがないわけじゃない。それでもこんな訳の分からない場所で知らない魔物がいるのは怖くてたまらない。
本来ならば戦闘物のヒーローのように堂々と敵に立ち向かい、勇敢に戦い、勝利を得たい。そうする事で大切な人たちの笑顔を守りたい。
だというのに。
理想と現実はあまりにもかけ離れていた。今にも泣きそうで心が折れそうだが、立ち止まっている時間は今のマリ達にはなかった。現実には泣きじゃくっている余裕などない。
「……マリさん?大丈夫、ですか?」
喋れないでいるマリを覗き込むようにして見たのは、樹里だった。
暗闇で何にも見えなかったのが、息を潜めている間に目が慣れてきたんだ。今は樹里の心配そうにこちらを見る姿が見えた。
ぼんやりと周りを見渡した。
ここは何処かの部屋のよう。マリと樹里はその部屋の扉の近くに腰を下ろしていた。その近くに静かにツバサが座っていた。
扉を隔てて向こう側にはおそらく、魔物がいた。どんな魔物かは分からないが、何かがいたのは確かだ。
「み、みんなは?…おう、桜花、は?そうだ、桜花!!無事なの??」
マリは樹里やツバサに聞く。冷静さを欠いているのは一目瞭然。上手く頭が働いていない様子。
思い出したかのように桜花の名を出し、そしてテンパり始める。
分かりやすくパニックを起こしていた。誰の目から見ても明白なくらいにパニクっている。
「分かりません。ここには僕らしかいないようです。」
「え…ど、どうして…。何で…。ここ、どこなのよ…何でいきなり襲われたわけ?え?何が起きてるのよ。」
何も分からないのも、自分達しかいない状況でこの建物内に来てしまったのも同じ。同じ状況なのだ。
樹里が何も分からないのは当たり前だろう。
それは当然といえば当然なのだが、他人の口からその事実を知らされると、何ともいえない絶望感に打ちのめされてしまう。
「落ち着いてください。」
弱々しく話し、今にも泣き出してしまいそうなマリに樹里は言う。
だが、落ち着くことなど出来るはずがない。
いきなりの襲撃。桜花がいきなり起きた爆発に巻き込まれ無事かわからない状況で、どこだか分からない場所に飛ばされてしまった。
しかも、桜花以外で飛ばされたはずなのに、メンバーがそろっていない。
みんなはどこに行ってしまったのだろうか。バラバラになるように飛ばされた?なぜ?分からない。分からないことだらけだ。
どうやら自分達の周りには魔物も存在するようだ。
そんな訳の分からない状況で、落ち着くことなど出来るはずもない。
「落ち着いてなんかいられないわよ。意味分からないわ。なな、何なの?何が起きたわけ?」
「マリさん。」
案の定、落ち着かずにパニックを続けるマリの顔を樹里は正面から見つめると、名を呼んだ。
じぃっと真っ直ぐに樹里はマリを見つめていた。真剣な目線を受け、マリは言葉をつまらす。
近い距離から顔を見つめられているのが、薄暗い室内に慣れてきた目にはしっかりと見えていた。ゆえに、マリは言葉をつまらせ、戸惑いを含んだ視線を樹里に向けた。
「な、何よ…。」
戸惑いながらもマリは樹里に聞いた。
さてさて、聞き返したことがは吉と出るか凶と出るか。
神のみぞ知るところだ。
マリはごくりと緊張した面立ちで、固唾を呑んだ。
読んでいただき、ありがとうございます^_^
楽しんでいただけましたでしょうか?
気に入っていただけましたら、ぽちりとしていただけるとうさぎのように飛び跳ねながら喜びます。
ウサのようにハイテンションに「ぃやっふぅぅうっ!」と奇声を上げるやもしれません。
あ、近所迷惑なのでできないですね、はい。
普通に喜びます
マリさん話に戻りますね




