48.ティアと馬と
店を後にした俺とティアは、大通り付近まで戻って来た。
途中からは人がざわつき出したので、俺がティアを担いで走る方法を採用。
ステータスのお陰で今や走れば車より早い俺なので顔なんかは全く見られてない・・・はず。
「・・・ふぅ。 ここまで来れば大丈夫だろ」
そう呟き、ティアを地面に下ろす。
今日は鎧を付けずに外出した為、とても心地よい感触でした。
朝の俺、ナイス判断だ。
走っている間中、張りのある胸が弾んで当たる感触は素晴らしかった。
ティアはロリじゃない。
見た目はアレだが28歳だからセーーーフ!
そんなことを考えていた俺にティアは全く邪気の無い笑顔で感想を告げる。
「いやぁ、爽快な走りっぷりでしたな、ご主人!」
「楽しんでくれたならなにより・・・っと」
ちょっと後ろめたさを感じていたら、少し先に馬に乗った鎧の集団が見えた。
そちらに目を向けて見ていると、横に居たティアが教えてくれた。
「ふむ。 あれはこの街の騎士団ですかな? 様子を見るに、遠征の帰りの様にも見えまするな」
「ほうほう」
そういや、騎士団と衛兵って何が違うんだろうな?
どっちも街の為に働く武装集団じゃないのか?
「そう言えば、ご主人はこの街に来たばかりと仰っていましたが・・・ミリアルテ殿の家にも馬が居なかった様に思いましたが、馬はお持ちで?」
「え? 馬?」
「ええ。 1人で旅をしている者の中には、道行を楽にする為に馬やなにかの“騎獣”に乗っている者も多くいますし、今馬に乗った者達を見ていらしたから、もしやご自身の馬を思い出されていたのかなと」
ふむ、車もない世界じゃ動物に乗って移動するのが主なのか?
確かに遠くから来たが・・・
「あー・・・俺は走ってきたから」
徒歩と自転車でな!
「あ、そうでしたか」
「うん。 ていうか馬に乗ったこと無いしね」
竜と魔物にならあるけど。
「ははぁ・・・遠征の場合はどうされるので?」
「遠征? ああ、そうか。 依頼によっては遠出することもあるのか。 そうなると乗れた方が便利・・・か?」
「集団で動く場合は馬車や馬での移動が多いですからな。 馬の乗り方は覚えておいて損は無いと思いまする」
「なるほどねぇ」
★
「と、言う訳で馬貸してくれ」
「・・・何が『と、言う訳』なんだ?」
馬に乗ってみたくなった俺は、ティアを連れて衛兵の詰所まで来ている。
詰所の裏に厩舎っぽい臭い建物があったのを記憶していたので、ここなら馬が居るのでは無いかと思った訳だ。
確認するとどうやら思った通りに馬は居るとのことなので、現在乗らせて貰える様、隊長に交渉中である。
「俺、馬に乗ったこと無いんだよ。 だから今後の為にも練習させてくれ」
「理由は分かったが、簡単に許可できる訳がないだろう・・・」
「そっかー・・・。 じゃあ今度デボネちゃんには『隊長に意地悪された!アイツほんとケチくせぇ』って言っておこう」
「デボネちゃん?」
俺の発言に小首を傾げるティア。
「ああ、デボネちゃんっていうのは―――」
「オイ待て!!」
「ん?」
「ち、ちょっと2人で話をしようじゃないか・・・!」
そう言って慌てて俺の肩を掴んで来る隊長。
「ふむ、いいだろう」
俺はニヤリと笑ってその提案に応じた。
そして詰所の脇で隊長と話し合うこと暫し、結果として俺は馬に乗れることになった。
ちなみにさきほど俺が口にした『デボネちゃん』とは、ヒューマ・サローノにいる隊長のお気に入りの嬢である。
どうやら隊長はあの子に相当惚れ込んでいる様だ。
そんな訳で今、俺たちは詰所の中を抜けて、厩舎に隣接された演習場に来ている。
「・・・ほら、コイツが俺の馬だ。 使え」
厩舎から手綱を引いて栗毛の馬を連れてきてくれた隊長はぶすっとしながらも馬を貸してくれた。
ふむ・・・臭いな。
「ほほう、なかなかに良い面構えをした馬ですな」
「お? 嬢ちゃん分かるか? コイツは魔物と戦う時も頼りになるイイ馬なんだぜ」
「ほう、それは優秀ですな」
うん、馬の面構えとか全く分からん。
だが戦えるってことは軍馬ってやつなのか?
「・・・で、馬ってどうやって乗るんだ?」
「そこからか!?」
うん。 馬なんてダビ●タ位しか縁がない生活だったもんよ。
あとは・・・乗ってるのを漫画とかTVの時代劇か競馬中継で見たくらいか?
「乗馬には縁のない生活だったもんで」
「ああ・・・お前を運んできた友人って、アレだしな・・・」
「まぁ、うん」
「? では拙がご主人にお教えいたしましょう!」
そんな俺は隊長やティアに乗馬についてのアレコレを教わった。
手綱の持ち方、合図の送り方、馬への接し方、乗り降りの仕方に姿勢保持の仕方等々。
気付けば2~3時間は経っていた。
そこまでには一応、隊長が手綱を引いた状態であれば馬に跨って歩かせることも出来るようになった。
流石やれば出来る子の俺。
で、1人で実践パートとなったわけですが・・・
「おっしゃ、乗るぞ」
「おー、頑張れよー」
「ご主人、頑張ってくだされ!」
「おう!」
少し離れた場所で見守る2人の応援を受けて、俺は颯爽と馬に乗った。
うむ。 いい感じである。
「おしゃ―――ぉ?」
そう思ったのもつ束の間。
少し離れた場所で見守る2人の視線を受けながら、俺は早速だが馬から落ちた。
そりゃもう綺麗に尻から落ちた。
馬が俺の股の下から逃げ出した状態で落ちたのでモロである。
うむ。 駄目な感じある。
「・・・何故だ?」
「ご主人!?」
「お、おい!大丈夫か!?」
俺の落下を見た2人が心配して駆け寄ってきてくれた。
「ああ、大丈夫大丈夫。」
「よかったぁ」
そう呟いて安堵するティア。 ええ子や。
「心配掛けてごめんな。 だが・・・なぜだ? さっきまでは乗れていたと思ったんだが・・・」
「おお、無事は良かったが・・・確かにそうだな。 なんでだ?」
男2人で頭を捻ってしまう。
うんうん唸っていると、何やら少し離れた場所でこちらを窺っている馬を見ながら考えていたティアが声を上げた。
「あの、よろしいですかな?」
「どした?」
「あの馬なのですが・・・おそらくご主人をこわがっているのではないかと・・・」
「え?」
「先程までは、自分の主である隊長殿が手綱を持っていた故、堪えられていたものが、ご主人単体でのった途端にパニックになった様にも見えたような気がしまして・・・」
「そう、なのか?」
「あー・・・言われてみると、俺が手綱を引いて歩いていた時も頻りに俺の方に何かを訴えてきていた様な気がしないでもないな・・・」
「えーと、つまり?」
「「馬がこわがってお前(ご主人)を乗せられない」」
「・・・マジで?」
俺の言葉にこっくりと頷くお2人さん。
この後、念の為に何度かチャレンジしてみたが悉く失敗。
仕舞いには落ち掛けた時に手綱を引きすぎて馬の首を折りかける始末。
そして馬に近付くことすら出来なくなってしまった。
件の馬は今や厩舎に戻ってしまっている。
演習場に残されているのは、途方に暮れる俺と、気まずそうなティアと隊長だけだ。
「何ていうか・・・すまんな。 元気出せよ」
打ちひしがれる俺にそう肩を叩きながらそう声を掛けてくれる隊長。
「ありがとな、隊長。 デボラちゃんには『隊長はイイヤツだが、アイツの馬はクソだ』って伝えておくよ」
「やめろよ!?」
「冗談だよ、冗談」
「だ、大丈夫ですご主人! ご主人は拙に乗ってくだされ!!」
「いやー、それはどうかと」
「むぅ・・・そうですか」
どうせならご主人はティアにベッドの上で乗りたいです。
それはさて置き、馬は諦めるしかなさそうだな・・・。
今後遠出するときどうしよう?
・・・自転車に乗ればいいか。
そう自分の中で結論を出した俺は、隊長に礼を告げてティアを伴い詰所を後にした。
お読みいただいて、ありがとうございました。




