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ep2 2度目の挨拶




 オレリアが回帰した日から4年が過ぎた。





 予定調和の様に、回帰前と同じ11歳でヨハン殿下とオレリアは婚約し、母が流行病で病没しないように、町屋敷に居るマカダミア侯爵家の侍医に流行病のリンゴ病対策を働きかけたり、罹患予防に冬の外出を減らさせたりしたが、あにはからんや、病没は免れたけど、馬車の事故に巻き込まれ亡くなってしまった。


 12歳で母モルガーナが()くなることは、防げなかった。


 母の死を嘆くオレリアの姿が、余りにも痛々しく使用人達は声をかけるのを躊躇ってしまう程だった。


 そのオレリアの胸中は、やはり運命は変えられないのかと言う虚無感と希望の喪失感に、満たされいたことを知る者は誰も居ない。




 運命は変えられないと、暫く途方に暮れていたオレリアだったが、友人のミレイユ・ポワロ伯爵令嬢が心配して訪ねて来た際に、「喪も明けない内に、オレリア様の父君が、話題のラウル伯爵未亡人の取り巻きになったと噂されている。」との話を聞き、メラっと闘争心が再燃した。



 (そう、私をお人形と呼んでいたあの母娘が、やっぱり父の前に現れたのね‥‥‥‥‥。)




 ミレイユの話をぼんやりと聞いていたオレリアの目がスッと細まり「ラウル伯爵未亡人が、、、ね。」と低い声で呟き、纏う空気を冷たく変え、キラリと水色の瞳を光らせた。



 生き残ろうと決心したオレリアは、回帰前、母の葬儀以降は、没交渉だった祖父ウィレムと子爵の気の良い叔父と手紙での交流を図った。祖父のウィレムは、オレリアの婚約が決まった後、父のベオルフに爵位を譲り、領地で隠居生活を送っていた。釣りや狩りに勤しむ祖父との交流は、肉親との温もりのある交流が少なかったオレリアに、新たな繋がりを齎した。


 祖父が当主をしていた時に、もっと話して置けば良かったと、オレリアは後悔した。


 そして母が亡くなってからは、婚約者で或るヨハン殿下との顔合わせの時間が無駄に思えて、喪中の悲しみが言えないことを理由に、王宮での交流会を必要最低限に減らした。ヨハン殿下の顔など見たくなかったが、王妃殿下から王宮へと招待される為、ゼロに出来ないのが悔しいと、オレリアは1人ごちる。


 (お母様が生きていらした頃は、月に一度の顔合わせは仕方なかったけど。もう私がヨハン殿下と会う必要性を感じないわ。)





 そして今後の事を考え、執事長や侍女長、メイド長などとも更に交流を増やして親密になっていった。


 母のモルガーナが居た時は、違和感を感じさせない為、回帰以前との言動を踏襲していたが、自分の味方を屋敷内に作るのだと父の噂を聞いたことを切っ掛けに、オレリアは覚悟をきめたのだ。




 そして回帰前は、母が望んだ通り模範的な深窓の令嬢として粛々と日々を過ごしていたが、屋敷に詰めて居る護衛騎士に護身術を学んだり、刺繍の時間より馬術の訓練をしたりと活発に動き、表情も豊かに成っていった。


 「《お人形》みたいね。」と義母のジョアンナに言われていたような頃と違い、オレリアの表情筋が僅かずつ仕事をするようになった。



 悪あがきだと思ったが、ジョアンナと再婚の準備をしている父に小姓として、孤児を2人雇う許可を得た。人生初のオネダリをオレリアは父にした。甘える仕草は、鳥肌を立てつつ上目遣いで、義妹のジャンヌの真似をした。ジョアンナ・ラウル伯爵未亡人を迎え入れる時、私にも愛想良くして欲しいのか、父のベオルフは、オレリアの我儘を言葉少なに聞き入れた。

 オレリアのオネダリを可愛いと思えたかどうかはベオルフのみぞ知る。




 そして13歳の春のデビュタントを終え、14歳を迎えた夏のソラリス祭に、父のベオルフ・フォン・マカダミア侯爵は、傾国の美女ジョアンナ・ラウル伯爵未亡人と再婚した。当然のようにジャンヌは、マカダミア侯爵家の養女となった。



 義母ジョアンナ。

 義妹ジャンヌの2人が、マカダミア侯爵邸に入り、父のベオルフ、兄のクラウス、そしてオレリアたち3人と家族になる。





 ──────こうして運命は再び巡る。











 

 庭園にバラの花が咲き誇るソラリス祭シーズン。


 私が14歳になった年、顔も見たくない義母のジョアンナと義妹のジャンヌが家族となった。



 前回は、父に命じられて厭々エントランスホールに立ち、2人を出迎えたけど、今回は微笑みで武装して彼女たちに歓迎の挨拶をし、心の中で私は宣戦布告した。


 母の葬儀以来2年近くぶりに町屋敷へ戻って来た兄クラウスは、義母のジョアンナを目にした途端、その美貌に呆けていた。相変わらず父子(おやこ)で、女の趣味が同じなのかと、鼻で笑いそうになった。



 「初めまして。素敵なお義父(とう)様とお義兄(にい)様、それに綺麗なお義姉(ねえ)様が出来て、ワタシ嬉しいですぅ。」


 甘い鼻に掛った声で、愛らしい仕草でジャンヌは、あどけなく挨拶をした。そして兄のクラウスに駆け寄って「お義兄(にい)様、よろしくぅ。」と言いながら抱きついた。7歳の幼い令嬢でもそんなはしたない態度は取らない。目を白黒させている私を気にも留めず「まあまあ、恰好いいお兄様が出来て、ジャンヌは嬉しいのね。」とねっとりとした声で義母のジョアンナは、愛らしい顔立ちに妖艶な笑みを浮かべて、父の腕に手を掛け、華奢な女性らしい身体を寄せる。


 前回は、厭々出迎えたから2人の顔を見たら、即座に自分の部屋へと向かった為、異性への馴れ馴れしいスキンシップを目の当たりにすることが無かった。顔立ちは整っているが、妙齢の女性に不愛想だった兄は、異性と全く無縁だった。そんな兄には、刺激的な邂逅だっただろう。



 出迎えに出た上級使用人たちの引き攣った表情が印象的だった。思わず使用人たちの無表情な仮面が外れるのは仕方ない。私も呆気に取られたもの。



 私は執事長と視線を合わせて、疲れた笑みを返した。




 父の再婚話が持ち上がった時、私はどんな仕返しが出来るかと考えるより先に、先ず身の安全と宝飾品などの財産保全を優先する事を考えた。


 母の遺品のドレスや宝飾品等々は残しておくと殆ど義母と義妹の物になってしまうので、フローラル王国から母に就いてきた乳母と侍女、そして二人の専属護衛騎士に頼み、祖父ウィレムの紹介で富裕層が暮らす地区の屋敷を借りて貰い、其処へ遺品を運び込んで貰った。

 そしてフローラル王国のクロノア公爵家で許可を貰い、母の従者四人(乳母、侍女、2人の護衛騎士)に、その屋敷に住んで貰っている。乳母以外は、既にラダリア王国で家庭を持って居るので、母が居なくても此の侭、此方で暮らすことに不満はないそうだ。


 後、嬉しいことに私を残してフローラル王国へ帰国するのが心配だと話して呉れた。


 前回は、母が亡くなった後、淡々と4人で家族と共に、フローラル王国へと帰国して行ったのだ。


 そして父が勝手にフローラル王国へ帰してしまわないように、「お母様との思い出を語り合う人と別れたくない。」と祖父へ頼み込み、私付きの侍女と護衛として雇い直してくれた。序でに私の専属侍女二人と乳母、護衛騎士兼従者も祖父が父を説得して、雇用主を祖父へと変更した。


 此れでジャンヌが父に言い付けて、私専属の使用人を勝手に首に出来なくなった。



 回帰前、私の身近に居た侍女たちが、義妹のジャンヌや義母に無礼な言動を取ったと、父が紹介状も書かずに屋敷を追い出したのだ。



 あの頃は、義母と義妹を溺愛する父と兄に呆れ果て、私は無駄な抵抗をせず、唯々諾々と父の決定に従っていた。今から思うと父の怒声と体罰が嫌で、何も見ずに「仕方ない。」と淑女の仮面を被り、逃げていただけだったのね。


 感情を押し殺し、「優雅で在れ」と言う母の教えを守ることが、私のプライドだった。 それが感情豊かな義理の母娘に対する私の意地だったのかも知れない。それとも心の何処かでマカダミア侯爵家の当主であった父を信用していたのかしら。家名を貶める行いはしないだろうと。結局、ジャンヌの我儘が家名に勝って、政略結婚を台無しにした父と兄。私が殺された後、王家との契約を反故にしたマカダミア侯爵家は、如何なって仕舞ったのか。

 知りたいような知りたく無いような、微妙な感情だ。




 母の私物が空になった侯爵夫人の私室に後妻となったジョアンナが入り、前回と変わりなく2階の兄の部屋近くを選び直してジャンヌが入った。ジャンヌには、私の部屋の隣室を用意していたのに。侯爵家の町屋敷に引っ越して来た当初から、兄の篭絡は義妹の予定に入って居たのね。13歳のデビュタント前の可憐な少女の手管とは思えないわ。


 兎も角、2回目となる二匹の女狐とのダンスは、父と兄に前回通りお任せしましょう。




※  ※  ※




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