ep13 過去と現在の狭間
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私を眩しそうに見つめてジスランは、顔の周りにパアーっと明るく小花を飛ばし嬉しそうな表情で、私の存在を確認しつつ、巻き戻っている経緯を慎重に話し始めた。
「そう。ジジは、古のアーティファクトを使って回帰してくれたの?」
「うん。リアも前回の記憶があるんだね。それはしんどかったね、ごめん。・・・僕が知ったリアの最期は、余りにも悲惨で、、、それに死後に立っていた噂が酷過ぎて、許せなかった。死人に鞭打つ行いを面白おかしく社交界の連中は囃し立てていたしね。
事情を尋ねに行った友人のミレイユ・ポワロ伯爵令嬢は、酷く憤慨していたよ。リアは、そんな人じゃないって!言ってくれた。僕は、全てが許せなくって偶々見つけたアーティファクトで、時を戻してしまったんだ。申し訳ない。リアに謝って済むことではないと判っている。でも僕は、、、」
「ううん。ジジ、ありがとう。時が戻ったお陰で、前回は知らなかった人たちの温かさを色々と感じれるコトが出来たもの。戻れて良かったと思っているわ。」
「そうか。」と、言葉に詰まりながら、深く青い瞳を潤ませ、ジスランは、私を真っ直ぐに見つめていた。
私の記憶が戻ったのは10歳の頃だったけど、ジスランは7歳の祝福の儀で、以前の記憶が戻ったそうだ。
私の死を回避する為に私を起点としてジスランは、アーティファクトを使ったらしい。
(アーティファクトを使った記憶があるのに入手した経緯や何処で使用したかは覚えていないそうだ。不思議。)
しかし時を戻しても、私がヨハン殿下と婚約したこと。
そして母のモルガーナが12歳で亡くなった事象は覆らなかったことに焦りを感じ、ジスランは焦燥感に囚われたと、苦しそうに話していた。
続けて「僕は、前回の教会関連の記憶は、殆ど思い出せなかった。」と告げた。そして私には、死に戻ったことで不都合な問題が起きなかったかと、ジスランは心配そうな表情で尋ねて来た。
私はジスランの話を聴いて心苦しくなった。
仲の良かった幼馴染の私の為に、時が戻る前の7歳~19歳までのジスランの人生の記憶を失わせてしまったのだから。私は思わずジスランに、「御免なさい。」と、その事を詫びた。
「やり直した2度目の人生でも真っ新な気持ちで、神学校に通い魔法を学べたのだから楽しかったよ。そんなことを気にしないでくれ。リアが生きていてくれることが一番なのだから。」
敢えて明るく私に答えたジスランの優しさに、どうしようもない愛おしさが湧き起こった。
(此処まで尽くしてくれるって、もしかしたらジスランは、私のコトが好きだったの?──────そうだったとしたら、私は正直嬉しいけど。でも現状では、どうにもならないのよね。建前だけとは言え、今、私はヨハン殿下の婚約者なのだから。相手が浮気しているからって、私もあの人たちと同じ事をして、同類にはなりたくないもの。)
それからジスランが、回帰前、調査して話していた内容と現実が余りにも食い違ったので、あの日、私に起こったコトと、死の真相を感情を殺して打ち明けた。
──────あの日。
父に突然執務室に呼ばれたら、ヨハン殿下が既に訪れていて、父や兄、義妹のジャンヌ4人から身に覚えのない事で断罪され、婚約破棄を告げられたこと。
『義妹に毒殺を企てる奴と一緒に暮らせない』からと当主である父の命令で、私は準備も無しに、家門のない質素な馬車へ放り込まれた。そして侍女も付けられずにマカダミア侯爵領へ御者と護衛騎士たちだけで向かわされたこと。
そして領地に向かう途中の表街道が、倒木で通行できなかった為、迂回路を進んだ馬車が、10数人の男たちから襲撃されたこと。
──────等を、なるべく平坦な口調でジスランへと語り、薬を嗅がされて以降の話は、思い出したく無くて私は口を噤んだ。
「──────4人があの襲撃を遣らせたのか?」
低く冷たい声で、ジスランは問い掛けた。
「うーん、、、私の希望的観測が入ってるけど、父と兄は、其処まではしていない、、、と思いたいわ。御者は兎も角、父ならマカダミア騎士団に所属していた3人の護衛騎士を殺させたりしないはずよ。襲えと命じた依頼主が、私を《お人形》と呼んでいたみたいだから、ジョアンナ母娘だと思うの。私をそう呼ぶのは、ジョアンナとジャンヌだけだもの。」
「だが、リアの父親がマカダミア侯爵領へ連れていく事を命じたのだろう?」
「そうなのだけど‥‥‥。父と兄の希望は、嫌いな私を領主館の地下牢にでも閉じ込めて置こうと考えたのではないかしら?あの騎士たちは、町屋敷で父に付いていた人達だし。」
「しかし、騎士3人を始末出来るとは、襲撃者たちは人数が居たとしても、結構手練れだったのだな。」
「そうね。今、友人のミレイユに頼んでジョアンナを調べて貰って居て気付いたのだけど、傭兵じゃないかと思うの。」
「おいちょっとリア!!危ない真似は止めてくれ。リアに何か在ったら僕は、、、」
「あうー、だ、大丈夫です、ジジ。ミレイユのお父様の仕事仲間で、《シャロイック》って言う何でも屋の王都支店長を紹介されて、その支店長のドレイクさんて方に依頼して居るの。そしてドレイクさんは、元傭兵をしていて、襲撃犯とドレイクさんの雰囲気が何処か似ていたのです。なので傭兵なのかなと。襲撃犯の顔とか憶えて居なのだけど、、、、、ね。」
「当たり前だよ、リア。それは無理に思い出さないで良い!」
「うん‥‥‥ありがとう、ジジ。」
しかしジスランことジジからの話で、私は悲惨な末路を迎えた後から、碌でも無い噂で貶められていたらしい。
それを思うとやり場のない怒りがメラメラと燃えがってきた。
私が義妹のジャンヌを虐めてた?
有り得ないでしょう。
そんなことして居たら、ジャンヌを溺愛していた父と兄から、私がどんな目に遭わされることか。
メイドたちが、私に虐められていて泣いていたジャンヌを度々、目撃していたと言う話らしいけど、酷い幻覚だわ。
私は、誓ってジャンヌを罵倒したり、暴力を振るったりしてません。
(引っ叩きたいと何度か思ったけど。でも思うのは自由よね。)
大体父ベオルフが、ジョアンナと再婚してから暫くして、先ず執事長と侍女長を王都アムスの町屋敷から追い出し、ジョアンナの古い友人らしいエト・ワーグナーを執事長へと据えた。そして私を気遣ってくれていた侍女長を首にし、私付きの侍女たちを適当な婚家へと押し付けた。
フローラル王国のクロノア公爵家から母に付いて来ていた侍女と護衛騎士は、母モルガーナの葬儀後、すぐさま帰国させていた。詰り、私が死んだ頃、王都の町屋敷に居た使用人て、殆どが父と継母のジョアンナが用意した者たちだったのだ。
私に付けられていた侍女も、継母ジョアンナたちの息が掛かった人達だったし、良く考えれば、私って此の屋敷では孤立無援だったのよね。
侍女でなくメイドたちに嘘の噂を流させたのは、平民出身だから扱いやすかったからでしょうね。
幾らジョアンナからの紹介でも、貴族令嬢である侍女たちに、あからさまな嘘の話をさせることは出来なかったのね。侍女をしていた彼女たちも迂闊な話をバラまけば、実家や将来の縁談にマイナスになると言う計算が働くだろうし。
だからメイドたち下級使用人からの噂を聴いて侍女たち上級使用人達が、「そう言えば聞いた話ですけど‥‥」 と、お茶会や夜会の場で話したりする。あのジョアンナにしては、手の込んだ情報操作をしたものだと、敵ながら感心してしまった。
社交に関して凡庸な父ベオルフと単純な兄クラウスでは、難しい手法だと思う。
時を戻った今回は、自分の味方が欲しくて、母が亡くなった後、祖父のウィレムに頼み、執事長と侍女長たちを祖父ウィレムの個人名で再雇用して貰い、都内の別邸を借りて母付きの侍女と護衛騎士たちに引っ越して貰ったのだ。母モルガーナの遺品を守ると言う名目で。守りたかったのは本気。
私とヨハン殿下の婚約に反対していた祖父ウィレムと婚約を二つ返事で了承した父ベオルフとの仲は最悪だった為、私が父の再婚への不安を口にすると祖父ウィレムは、親身になって手紙で色々と相談に乗ってくれたのだ。
回帰前、私は、ヨハン殿下と婚約は王家とマカダミア侯爵家が揃って推進したモノだと、思い込んでいたのだ。祖父と殆ど会話がなかったせいで。
祖父の話だと、ヨハン殿下との婚約は、昔、勝手に父と母の婚姻を決定した祖父に対して父が行った意趣返しの心算だったらしい。‥‥‥父って短絡的で、やっぱり大人気ない。
そして私は不図、兄クラウスの不機嫌な顔が脳裏を過る。
回帰前の兄は、継母ジョアンナの私室やジャンヌの私室に忍んで訪れてなかったように思う。
抑々兄は回帰前の父の再婚当時、騎士学校を卒業し第二王子の近衛騎士になり、休日以外は王宮に詰めていた。まあ、愛らしい義妹ジャンヌを猫可愛がりしていたのは変わらないけど。その所為かジョアンナやジャンヌと居る時間や漂わせている空気感が回帰後は全く違って見える。
今回、兄が2人と過ごして居る所を偶に垣間見ると、ねっとりと互いに絡みついているような気味の悪い湿度のある空気を醸し出している。
特にジャンヌと腕を絡めて中庭で寄り添っている姿は、見ていて気持ち悪い。
一見純真に見えるジャンヌが妙に妖艶に見えたり。
継母のジョアンナをトロリとした目で兄が見詰めて居たりと薄気味悪い。
回帰前にヨハン殿下との婚姻の為、受けていた閨教育みたいなことをしている不埒な仲であろうと、私は推測している。
知らぬはヨハン殿下ばかりなり。・・・だったりして?
もしかしてジョアンナの愛人と噂されていた美麗な執事長のエト・ワーグナーをマカダミア侯爵邸で、父とジョアンナの再婚後、今回は雇って居ないことが、兄とジョアンナとジャンヌ3人の関係性が変化した要因なのだろうか。
ジスランに、回帰前と回帰後の違いを擦り合わせて話し合っている内、まだ出会っていないエト・ワーグナーと侍女長をしていたサンドラ・テエーカ男爵夫人を探すことにした。
「ドレイクさんにリアは探して貰わなかったの?」
「うーん。ドレイクさんには、ジョアンナを追跡調査をして貰って居るけど、今の所、未だ名前が出て来ないの。突然私が、エト・ワーグナーとサンドラ・テエーカを調べてって、見ず知らずの人の名を挙げるのも変な話だとジジも思うでしょ? 確か前回の自己紹介で、ワーグナー家の養子だと話していたはずなのよ。」
「それなら僕が調べてみるよ。これでも公爵家の息子だからね。任せてリア。序にリアに付いていた使用人たちの名もね。」
「ええ、ジジ、ありがとう。」
回帰後の兄と継母や義妹との不適切な関係について言葉にする勇気がなかくて、私は言葉を濁してジスランに伝えたが、「今回と前回とで兄は、ジャンヌとの距離感が違って見える。」とのセリフで、何となく察してくれた様で、整った白金の眉を顰めて、私を痛々し気に見た。
今回、エト・ワーグナーの代わりに、ジョアンナは3人の侍従と綺麗で幼い小姓を2人、ジャンヌは2人の侍女を連れて来ていた。
王都のマカダミア侯爵邸内は、回帰前と違い、私を敬ってくれている使用人たちが多い。お陰で私のストレスは、かなり軽減されている。
しかも記憶が戻った10歳頃、当主だった祖父に頼んで付けて貰った4人の専属護衛騎士も居てくれたから、義妹のジャンヌが私の部屋へ突撃してこようとするのを扉の前で防いでくれている。
まあ、それでもお茶会やパーティーに出掛けようとする度に、私が身に着けている装飾品や衣装へのオネダリは、防げなかったけども。でも今回、改めてしみじみ思う。ドレスのサイズや色味、アクセサリーの好みなど、ジャンヌと私は全く違うのに、何故、私のモノを欲しがるのかしら。
抵抗するとジャンヌの保護者〔父と兄は罵声、継母は視線〕が五月蠅いので、素直にアクセサリーは差し出しているけれど。衣装は帰宅後にね。
(現在残っている私の衣装は、濃紺やブロンズカラーなどの明度が低い物ばかり。)
「そう言えば、ジジ。私の死後に結局、ヨハン殿下とジャンヌは、婚約しなかったの?」
「ああ。上の方からヨハン殿下の新たな婚約に違和感が在るから調べろと命じられた筈なんだ。それでラダリア王国に帰国したのだけどね。リアが亡くなってから王家と公爵2家では、一度ご破算になっていたフローラル王国4世の孫の王女殿下との婚約が、水面下で話し合われていた様だ。ヨハン殿下がラダリア王国の王位継承権を放棄させられ持参金を持ってフローラル王国へ婿入りする予定で。」
「まあ、わざわざ私が殺されてあげたのに。その感じだとジャンヌを後押ししていた父と兄は、マカダミア侯爵家ごと手酷いしっぺ返しを頂いたのでしょうね。フローラル王国の王家とは、直接婚姻を結びたく無かったラダリア王家なのに、散々ですわね。くすっ。」
私は、ジスランの前で、思わず意地の悪い笑みを零して、その笑みを誤魔化すようにテーブルの上のベルを鳴らし、乾いた喉を潤す為、応接室へ入って来た侍女のロザリーに、サッパリとした飲み物を頼んだ。
ジスランと私は、過去と現在の狭間に蟠っている未解決の謎を話しながら、ロザリーが運んできてくれた酸味が心地良いプラムジュースで互いに喉を潤した。
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