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ep12 時戻しのジスラン  (後書き追記)

※

2026年1月6日〔ロベリア教皇の独り言〕を後書きに追記


※

 


 会いたくて堪らなかった生(・)き(・)た(・)オレリアを目の前にしてジスランは、どの表情も一瞬でも見逃さまいと、戸惑うオレリアから視線を動かさず静かに口を開いた。



 オレリアが死去して1年後、教会本部の所用でラダリアに帰国し、ジスランの祖父ベルンハルト・ホウエン前公爵から彼女、オレリア・マカダミア侯爵令嬢の死を知らされた。

 それは17歳の花祭りのシーズンに起きた悲惨な事件だった。



 婚約者であるヨハン殿下と養女になった義理の妹であるジャンヌ・マカダミア侯爵令嬢との仲を邪推し、オレリアは毒殺しようとした。しかし偶然居合わせたヨハン殿下により、ジャンヌへの毒殺は未遂に終わった。事態を重く見た二人の父親であるマカダミア侯爵は、オレリアに領地での蟄居を命じ、家門を外した馬車でマカダミア侯爵領へと王都の町屋敷から出立させた。


 その行きの表街道で、オレリアは強盗団と思しき者達に襲われたのだ。


 3人居たマカダミア侯爵家の騎士と御者も襲われ殺されていた。


 被害者のオレリアは、無残に白金の長い髪を短く切り取られ、衣装を全て剥ぎ取られ、幾人もの暴漢に穢されていた形跡が露わになって居た。


 身包み剥がれたオレリアは、裸体で表街道にゴミのように打ち捨てられ、物言わぬ骸になっていた。


 無残な遺体を発見、保管し、貴族らしい被害者の家を捜索していたのが、表街道を管理していた領地の騎士団だった。


 その後、娘の捜索をしていたマカダミア侯爵に確認され、秘密裏に葬儀を出されたが、既にオレリアが襲撃され殺された事が、口の端に登っていた。



 ホウエン前侯爵からの調査報告は、顔色を無くしたジスランへと、淡々と述べられた。



 オレリアによるジャンヌの毒殺未遂は、マカダミア侯爵家と第三王子のヨハン殿下によって秘匿されていたが、ホウエン公爵家の調査で分かった。一般的に出回っている話では、ジャンヌに嫉妬したオレリアが、来訪中のヨアン殿下と喧嘩した為、夜も更けていた中、マカダミア侯爵領へと赴いて、悲惨な事件に巻き込まれた。と、言うことになっていた。



 既に王宮内や社交の場では、義理の姉オレリアから虐待を受けていたジャンヌをヨハン殿下たちが慰めていると言う噂が出回っていた。


 マカダミア侯爵家に勤めていた下級使用人達が、オレリアから虐められて泣いていたジャンヌを良く見掛けていた、と言う話を調査した人間が聴いていた。




 ────幼気な義妹を虐める悪役令嬢が天罰を受け惨殺される。────


 オレリアのそんな噂が、実しやかにラダリア王国の社交界に、死後一年がかりで広く浸透していた。





 ジスランは、事件関係者の証言報告を読みながら「オレリアに限って有り得ない!」と、叫んで憤慨し、怒りに任せて机を殴っていた。




 今回ラドリア王国に帰国したのも聖ユリウス大聖堂の上層部から、第三王子と新たな婚約者を調べて来るようにと命じられた為だ。それを命じられた時、嫌な予感はしたのだ。ヨハン殿下の元の婚約者であるオレリアは、ジスランの初恋の相手なのだ。7歳の祝福の儀で、聖職者になる為、無理矢理諦めた少女だった。 今は思い出せないが、何故かその時は、自分は聖職者になるしかないとジスランは覚悟したのだ。



 (あの良い子で穏やかなオレリアが、2歳年下の養女を虐めるなんてありえない。後妻と連れ子に反発したとしても、オレリアの性格なら距離を取って無視する位だろう。それにオレリアが、万が一目に余ることをすれば、町屋敷の厳格な執事長や侍女長が注意するはずだ。)



 それに今回の調査目的は、第三王子とは言え、王族の新たな婚約者にマカダミア侯爵家と全く血の繋がらない養女を娘オレリアの代わりとして、差し出していることの違和感を探る為だ。しかも第三王子宮に既に身籠ったジャンヌが、ヨハン殿下の強い希望で暮らして居た。



 ジスランの祖父ベルンハルト・ホウエンに寄ると、ヨハン殿下とジャンヌは正式の婚約式は両陛下の反対で、許されていない。正式な婚約者は、オレリアと婚約する以前に話が合ったフローラル王国の王女にする腹積もりのようだ。今はヨアン殿下を筆頭に、側近3人衆と義妹ジャンヌの護衛に付いている義兄クラウスたちから溺愛され、秘密裏に始末をつけられない状態だと話していた。「いずれは異物を排除するのでご安心召されよ」と教会上層部への伝言をジスランンは、祖父ベルンハルト・ホウエンから託された。



 その後、聖ユリウス大聖堂から連れて来た部下に、ジャンヌやジョアンナの調査をした。確証も証拠も見当たらなかったが、オレリアの殺害は、父親であるマカダミア侯爵とクラウス令息、そしてジョアンナ母娘たちにより、諮られたのではないかと言う疑念が湧き、ジスランの悔しさと悲しみを一層駆り立てた。


 オレリアと親しくしていたと言うミレイユ・ポワロ伯爵令嬢は、「リアが、ヨハン殿下のことで嫉妬するなんて有り得ない。家でのコトは、何も相談された事が無いけど、リアは見ず知らずのワタシを高位の令嬢から庇ってくれたのよ。10歳の時に。誰かを虐めるなんて考えられない。被害者はリアなのに悔しい。」と、憤慨しながらジスランに伝えた。






◇



 軈てジスランは、幾つかの報告事項を纏め、神聖ロベリア教皇国にある聖ユリウス大聖堂へとラダリア王国から戻った。




 そして、報告後、聖ユリウス大聖堂の地下奥深くにある宝物庫で、目当ての《時戻し》のアーティファクトを取り出し、即座に使用した。


 自分が上層部になる為の記憶と生命を全て使うことを引き換えに、古代のアーティファクトに、オレリアを起点としてジスランは全ての魔力を注ぎ込んだ。



 ジスランは眩い光に目を閉じ──────







◇




 ──────目を開くと7歳の祝福の儀の最中だった。




 (ああ、無事もどれた。)




 そうジスランは安堵した。


 だが、大きな喪失感と大切な何かを忘れた感覚が胸に広がった。




 (いや、大丈夫だ。リアの記憶が或る。教会で上に行くよりもリアの命を守る事の方が大切なのだ。)



 司祭の祝詞を授けられ、《風属性、魔力レベル3》の祝福をジスランは受けた。



 神学校の寄宿舎で魔法の鍛錬をする時、何かを忘れているような寂しさを感じながら12歳まで過ごし、未来の為に13歳で王立騎士学校へと入学した。




 (リアとヨアン殿下との婚約。それと12歳の時にリンゴ病の初期症状なら治癒出来る薬をリアの祖父に預けていたのに、リアの母上が事故死するなんて。くそっ、時間を遡るだけじゃ変えられないことも或るのか。)



 ジスランは騎士学校に通い始めて、オレリアの継母になるジョアンナのことを夏と冬の休暇を使い調べ始めた。そしてベオルフ・フォン・マカダミア侯爵とジョアンナが再婚したのを知ると猛烈に剣術、体術、操舵術、弓術などを学び始めた。


 その傍らに回帰前、契約していた風の精霊が居たことをジスランは知らない。5百数十年前から使徒テトラとして繰返し生き、精霊と魔法の記憶を全て失い、枢機卿になる資格を失ったコトもジスランは忘れ去っていた。



 そして本来なら、18歳で騎士学校を卒業する所を各科目を次々と終了し、16歳でジスランは無事卒業した。終了証明書を持って一目散にマカダミア侯爵領へ行き、オレリアの祖父ウィレムが住む屋敷で、オレリアの護衛騎士をしたいとジスランは頼み込んだ。


 王都のマカダミア侯爵邸では、父や兄、継母と義妹4人からオレリアが疎外されていることを彼女の祖父ウィレムに説き、身近な味方に成ることを誓ったのだ。




 そして王都アムスでは、ヨハン殿下とジャンヌの仲が噂され始めていることをジスランは、ウィレム・マカダミア前侯爵へと告げた。



 祖父のウィレムは、孫娘オレリアの手紙で粗方の状況を察していたので、ジスランの熱意が本物だと知ると、マカダミア騎士団への入団を許した。





 そして今、生(・)き(・)た(・)オレリアがジスランの目の前に居た──────






※  ※  ※





==ロベリア教皇の独り言。


──────神聖ロベリア国・聖ユリウス大聖堂にて。



 聖ユリウス大聖堂の地下深くにある宝物庫で魔力を無くした若い枢機卿が死んでいたと報告を受けた。



 「チッ!嫌な予感は、この事だったのか。」


 僕は4番目の枢機卿、通称テトラの死に思わず舌打ちした。


 折角、自分を含め使徒の魂を持つ人間が7人まで揃ったと思ったのに、テトラが死んでまた6人に戻ってしまった。


 約522年前、ソラリス神に寄り、自分を始めとして13人の使徒が作られた。


 主目的は約722年前に起きた大浄化を二度とこのアトラス大陸で起こさない為だ。神の意志を聴いた自分は、ユリウス教を興し、後から現れた12人の使徒と共に、精霊や精霊たちとのコミュニケーション言語である神聖言語を秘匿し、人々が扱う魔法を管理するシステムを造り上げた。



 その魂が繰返し生まれ変わっている者で、精霊と契約した人物が、枢機卿に成るのだ。


 7歳の祝福の儀で、祝詞に隠された魔法を授けた時、記憶の蓋が緩み黒い魔水晶盤から、使徒である枢機卿候補の出現を聖ユリウス大聖堂にある星見の間へと知らされ、先に現出している枢機卿たちが各国へ保護に向かうのだ。


 使徒とは言え肉体は人間にしか過ぎない為、不測の事態が起きると、死んでしまうのだ。


 不運が重なり、約300年前に初代教皇である自分不在で、使徒の枢機卿が1人しか存在しなかった時期にユリウス教が東西に分裂したのだ。調度アトラス全土を掌握していたロマン帝国も東西に分裂した時期が重なっていた。


軈て、バタバタと使徒が現出して行き、13人が揃い西方ユリウス教会として、新たな律令を定め、聖典に追記し、現行の教会となった。

 聖典に律令を記すことが出来るのは、13人が揃った時であると、神から使徒モノに夢見で知らされた。



 一番目の使徒モノは、初代ロベリア教皇ユリウスである。


 そして今代のユリウスの夢見で、13人の使徒が揃うと知らされていたのだ。


 それが、19歳まで育ったテトラを死なせてしまうとは──────情けない。魔力も多く7属性全てを得て16歳で精霊と契約し、歴代一位の若き枢機卿だったのに。


 あの宝物庫で魔力を無くして死んだと言うことは《時戻し》のアーティファクトを使用したのだろう。


 魂の繰り返しで、古代のアーティファクトの使用方法も記憶されている為、此処に報告後、其の侭、直ぐに宝物庫へ行き、使徒の資格と記憶、命を代償に使ったのだろう。


 全く余計な手間を掛けさせられる。これだから年若い肉体は──────。


 ラドリア王国の第三王子が新たな婚約者を得たと言う知らせに、何とも言えない違和感を感じて、テトラの肉体の出身国へと調査に行かせたのだが、それがこんな結果に成るとは。


 時折りイレギュラーが起きるが、今代でのコレは特大のインパクトだ。


 僕は大きな溜息を吐いて、見慣れた執務机に頬杖をついた。












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