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ep11 思わぬ再会

※祝福の儀について後書きへ追記(2026年1月7日)




 ミレイユの好奇心と事件熱は放置して、ドレイクさんに義母ジョアンナの追跡調査継続の延長を依頼して、夏の日差しの中、私は自宅の町屋敷へロザリー達と馬車で戻った。

 男なら、水路を通って小舟で風を切って帰るのに、残念だわ。


 帰り間際にミレイユから、


 「婚約者のヨハン殿下とリアの仲は、大丈夫?近頃、良くない噂が流れているようだけど。」

 


 そう心配そうな顔で訊ねられた。


 「大丈夫、大丈夫」と軽い調子でミレイユに明るく答えたけど。


 来週行われる星渡り祭のパーティーでは、回帰前と同じなら、恐らく私はヨハン殿下にエスコートされないだろう。


 流石に1人で会場入りするのは見栄えが悪過ぎるので、叔父に私の付き添いを頼んだ。父と兄は2人でジョアンナの両脇を固めるだろう。


 回帰前は、我が家にヨハン殿下が出迎えに訪れたのだが、エスコートして王家の馬車に乗せたのはジャンヌだった。私は、父と兄とジョアンナの4人で侯爵家の馬車に乗って王宮へと出向いた。既に馬車の中は、私を除外した3人の世界が出来上がっていて、疎外感が半端なかった。

 挙句に王宮に入って会場入りする迄、案内する騎士に導かれ、私は仲良く3人で歩く父たちの後ろを羞恥に耐えながら、1人歩いて付いて行ったのだ。



 会場には、ヨハン殿下にエスコートされたジャンヌと二人仲良く寄り添い、側近たちと歓談していた。



 会場の視線は、1人で中に入る私へと注がれ、私は背中に汗を搔きながら、此れ以上辱めを受けるものかと背筋を改めて真っ直ぐと伸ばし、口の端で笑みを作って父たちの後ろを付いて行った。周囲からクスクスと笑われて居るのを敢えて無視し、気にしていないフリをして表情筋が余り動かない自分の顔面に感謝していた。




 星渡り祭は、元々庶民の夏の祭りであったが、1週間後にあるラダリア王国建国祭のプレリュード的なお祝いとして、王太子夫妻が主催する比較的ラフなパーティーになる。


 メインは、運河や水路に明かりのついた船舟を浮かべて、向こう岸に居る妻や婚約者へと夫が船を飛び移りながら渡って、ハイドランジアの花を手渡し、愛や感謝の言葉を告げるのだ。


 元は、アムス河から漁や戦から帰って来た夫が、妻の貞操を確認する為に、船から飛び降り妻の元に駆け寄った行いから始まったとされる。それが、騎士物語の流行後、アムス地方の古くからの伝承神話と結び付き、ロマンティックな現在の星渡り祭となった。


 夫側が船を飛び移るエキサイティングなイベントは、真夏の日が照り付ける日中に行い、夜は船舟に明かりが灯され、王都の河や水路が光の川を作り素晴らしい夜景を作り出す。それを王宮のバルコニーから観覧するのが、主目的な夜会なのだ。



 

 そんな嫌な出来事を思い出し、私はせっせと叔父に手紙を送り、叔父へエスコートを頼んだのだ。


 今回は、祖父と叔父に《父と兄、継母、義妹4人が仲睦まじく、少しばかり私は寂しく思います。》と、機会あるごとに私の心情を吐露している。元々祖父たちは、父の再婚を猛反対していたので、何くれと私の心配をして下さるので、心強い。


 建国祭が終わったら今年の社交シーズンが終了し、正式なパーティーは開催されない予定なので、叔父のアントニー・ド・ビッツ子爵と一緒に、マカダミア侯爵領へ戻ろうと準備をしている。やはり一人で領地へ向かうのは恐ろしいのだ。アントニー叔父様は、父の弟に当たる。私がヨハン殿下と婚約したのを切っ掛けに祖父のウィレムは、当主を引退し、叔父にビッツ子爵領を譲ったのだ。回帰前のアントニー叔父様は、王都で騎士をしていた筈だった。父のベオルフとは相性が合わないらしく王都の町屋敷に訪れるのも稀だ。

 唯一心配するのは、義母ジョアンナの色香に叔父が惑わされないかと言うこと。


 王都の町屋敷に叔父が訪れるのは、母の葬儀以来で、実に4年ぶり。


 そして、義母のジョアンナと義妹ジャンヌとは、初対面になる。


 安全の為、叔父のアントニーには、私が借りている屋敷へ案内しようかと考えて居たけど、どの道、星渡り祭で王宮へ向かう際に、此方へ出迎えで訪れるのだと気付き、素直に諦めた。私が勝手に用心しても、恋へ落ちる時は落ちるのだ。人の心ばかりは、どうにもならない。


 前回は、母が死去して以降、祖父と叔父とは、没交渉だったから実際にジョアンナと出会ってから、私への対応がどう変化するのか予想がつかない。


 本当にジョアンナは、女の私から見ても、目が話せない美貌の貴婦人だもの。

 

 そして華奢でか細く楚々として見えるのに、ふくよかで大きな胸が艶めかしい色気を醸し出している。彼女の絵姿が、コッソリと出回っていると噂になって居る。父が焼き餅焼きで独占欲が強く無ければ、王族の参加する夜会に美貌の妻を連れて行き、下手をすると王族の方々とのアバンチュールを楽しんでいそうだ。


 義母のジョアンナは、爵位の高い美形がお好みだから。


 48歳の国王陛下や23歳の王太子殿下、19歳の第二王子殿下は、父の嫉妬心に寄り、義母ジョアンナの色香から守られたのかも知れない。




 馬車で門を潜り、停車場で従僕たちが馬車の扉を開き足台を置いて、屋敷のエントランスへエスコートされると執事長達数人が、私を出迎えてくれた。


 見上げた空は、高く青く、前庭の木々や花々を揺らす風は、夏の匂いを含んでいた。












 午前のお茶の時間にロザリー達から、今日の予定を聴いていると、執事見習いが私室へ訪れ、私に来客を告げた。


 私は、その名を聴いて驚愕し、唖然としている所へロザリーが声を掛けてくれた。慌てて執事見習いに応接室への案内を頼み、私はロザリーに手伝って貰いながら、素早く夏らしいゼニスブルーのデイドレスへと着替え、長い白金の髪をシニヨンに結って貰い、白い小花を散らした露草色のヘッドドレスを着けた。




 ジスラン・ホウエン




 ラダリア王国で二つしかない公爵家の内の1つホウエン公爵家の次男。



 回帰前は、7歳のソラリス祭で祝福を得て、王都近郊にある神学校に行き、会えない侭で、私は襲撃され最期を迎えた。


 今際の際に視たジスランの笑顔に幾分か救われ、今でも、時折り不意に訪れる死への恐怖で、怯える私の心を宥めてくれる。


 祖父の古くからの顔なじみである前ホウエン公爵に連れられ、互いが5歳の時に此の町屋敷で出逢った。


 ジスランは、何処か寒々しかったマカダミア侯爵邸内を邪気の無い笑顔で明るくしてくれた春風のような少年だった。



 2度、3度と会う内、ジスランは他の同格で互いの屋敷に行き交う子供たちより、彼と過ごす時間が楽しくて、もう少し共に居たいと思えた相手だった。


 祖父は、私とジスランをいずれ婚約させたかったと、国王陛下からヨハン殿下との婚約を父が許したと教えて呉れた後で、溜息と共に私へと漏らした。




 でも、どの道ジスランは神職へと進んだから、縁が無かったのね。






 そんな事を考えながら自室から応接室の扉へと辿り着き、磨かれた赤褐色の重厚な扉を開き、緊張で早まる鼓動を抑えて私は室内に入った。





 質の良い調度品に囲まれた応接セットのソファーから立ち上がった、凛々しく逞しい騎士服を着た背の高い青年が居た。



 「‥‥‥久し振りだね。オレリア嬢。覚えていて、、、くっ、、。」



 彼は、私の顔を凝視し、言葉を告げる途中で、深く青い瞳を潤ませて感極まったように、肩を震わせ咽び泣いた。私は余りのことに驚き、言葉を掛けあぐねてしまった。



 (ジスランは、どうしたのだろう?こんなに感激屋さんだったかしら?私が泣いちゃうなら、分かるけど。再会は9年ぶりになるのかしら?回帰前から足せば、19年ぶりね。)






 「あっああ、済まない。嬉しくて懐かしくて。オレリア嬢に見っともない姿を。」

 「いえ。私も懐かしくて、嬉しいわ。ジスラン。9年ぶりね。あの、その団装は?神学校へ行ったのでは?」

 「ああ、7歳の秋にね。12歳で寄宿舎を出てから、13歳で騎士学校へ入ったんだ。貴女の母上の葬儀に駆け付けられ無くて申し訳ない。まさか事故とは‥‥‥。」

 「いいえ。気遣って下さってありがとう。でも、そう、(今回は)聖職者を目指さなかったのね。てっきりジスランは、そっちの道に進むのかと思っていたわ。」

 「うん。今度こそ守りたいモノが在ったからね。そうだ、昔のようにリアって呼んでも?僕のことは、ジジって呼んで欲しいな。」

 「勿論よ。でも、とても立派な騎士様になっているからジジとは呼び辛いわ。」

 「背が伸びただけだよ。リア、頼むよ。お願い、ジジって呼んで?」



 黒にも見えるミッドナイトブルーの略式のマカダミア騎士団の騎士服に身を包み、貴族にしては短く白金の髪を切り、両耳が見えるように左右に流して、すっかり男性らしい姿に成長したジスラン。その彼が強請るようにジッと深く青い瞳を私に向け、甘えるような仕草を見せた。


 (うう、これは何て言う拷問なの?ギャップが可愛い過ぎる。容姿は凛々しいのに、子猫の表情なんて。あざと可愛いでしょ!?。)



 「う、うんっ。えっと、ジジが、先触れも出さずに来るなんて珍しいわね。」

 「ふふっ、ありがとう、リア。悪かったね。本当は、ピッツ子爵と共に来訪する予定だったのだが、何となく僕一人で、先にリアと会いたかったんだ。」

 「まあ、アントニー叔父様と?14時頃にいらっしゃる予定だったけど、ジジと一緒だなんて手紙には書いて無かったわ。」


 「秘密にして頂いた。実は騎士学校を卒業後、直ぐにマカダミア侯爵領地へ行っていて、先にリアのお祖父様から許可を得て来たよ。思ったより素直に快諾されて、予定していた日時より早めに王都に着いたけどね。それで僕からビッツ子爵へ、先にマカダミア侯爵邸へ行くと伝令を送ったのだよ。」


 「許可って何かしら?」

 「リアの専属護衛騎士として傍に付くことの許しを得て来たよ、リア。」

 「ええ!何で!?大体、公爵家の御令息様が、何で格下の、然も後継でもない令嬢の護衛騎士になるの???意味が分からないわ?」



 私は、ジスランが何を言っているのか?したいのか?が、理解出来なくて、軽いパニックになってしまった。



 「落ち着いて、リア。そうだね‥‥‥‥‥先ずは、僕の話をしよう。人払いを良いかな?」




 私は、軽く頷きロザリー達に退室を促した。


 そしてジスランは、優しく笑って、穏やかな口調で静かに語り始めた。





※  ※  ※




※祝福の儀〔魔力量・属性検査〕※



 ユリウス教を国教と定めているアトラス大陸の西方諸国では、貴族子女たちが7歳のソラリス祭〔夏至日〕に、各地の聖堂や大聖堂で祝福の儀を行う。そこで黒の魔水晶盤に手を置き、司祭さまから祝詞を頂き、魔力属性と魔力レベルを示されると、祝福持ちとして男児は神学校の寄宿舎へ7歳の秋から12歳までの間、基本的な魔法言語〔典礼言語〕と使用法を学ぶ。其の侭、神職の道へ進むなら13歳で、聖冠の儀を受け、誓願を行い世俗と縁を切る。


 貴族の子女が7歳で行う初めての義務が、この祝福の儀である。



 一般的に祝福は、〔光・火・水・風・土〕の5属性に分れる。



 その中で、〔火・水・風・土〕を4属性魔法と呼び、教会での管轄になる。教会の神学校の寄宿舎に行くのは男児のみ。将来は神父や司祭へ。

 女児は、4属性の祝福のみ抑制の為に、魔力刻印をした魔銀のブレスレットを嵌められる。女性は光属性以外の魔法使用不可である。




 光属性の祝福持ちは、ロベリア教皇と12人の枢機卿が監督を兼ねる女神レト神殿に属し、神官や聖女を育てる。此方は、7歳から12歳まで男女共に、神学校の神殿の寄宿舎へと行く。光属性の場合は、13歳で誓願を行った後も世俗との繋がり可、婚姻も可である。女児に抑制のブレスレットを着けない。

 


 そして婚姻の禁忌事項──────〔光x光〕、〔火x水〕、〔風x土〕の属性同士の婚姻は不可である。 これらのことがあるから、婚約を決めるのは7歳以降となっている。


 現在は、祝福持ちの数が、かなり減っている為、婚姻などに有利となる。


 ※人へ向けての魔法攻撃は、禁忌事項に当たる。



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