そうはならんやろ
相国董卓を仲人に盧植と盧繁に丁原と呂布が集まる事になっていた。再度の孫堅の進軍に呂布が出兵する為に急がれた婚姻交渉。
政治的には并州勢を更に取り込む政略であり并州勢への改めての監査でもある。とどのつまり政治的な余裕ができた結果として盧繁の警告を聞いた結果であった。
「で、呂布の娘ってホントどんなですか」
「あー。こう言う言い方するとアレだが呂布ほどじゃねぇが、まぁ血の繋がりが感じれるくらいにゃ美人だぞ。……肝が小せぇが」
「どしたんですか董殿」
「本気で泣かれた。本気で」
「……御愁傷様です」
「……うん」
なんか微妙な空気になったが盧植が咳払いをして。
「それで董殿が抱いた違和感は何だったのですか?」
「橋瑁の檄文と処刑。その対応と後将軍から届いた張温の内通文だな。野郎は最近王允の奴とよく会っていた」
「あぁ……」
張温は字を伯慎といい宮中警護を担う衛尉である。豪胆に見えて割と小心者と言うか波風を好まないタチで怪しいところの無かった存在だった。だが孫堅に董卓暗殺を持ちかけられた経歴と共に袁術から伝達があったのだ。
「流石に賊に情報を流してちゃあ、な?」
「取り調べは、したのでしょう。それでも王允の尾は掴めなかった。しかし怪しいと」
「問題は橋瑁の方だ。俺は手っ取り早く首斬って晒するつもりだったんだが奴は黄巾賊と同じ扱いにすべきだと言って来やがった。そりゃあ構わねぇがあの王允がだ」
王允は比較的に領分を侵さない男だ。王允の役職は三公の一つ司徒は主に田畑、土地、財産、貨幣、財産に加え教育を担う職で有り体に言えば財務徴税官だ。そして裁判は廷尉の領分で御門違いである。
「らしい事をグチャグチャ並べてやがったが如何にも焦りを感じた。橋瑁と何かしらの関係がなけりゃあ焦る必要のねぇ筈の場所でだ。だがもし王允が三公の勅を渡していたとしたら納得出来ちまうだろ?
金や兵糧を集める手腕はあるんだが困ったもんだぜ全く。よく働くからこそ切るに切ねぇんだよ」
如何なる状況時代であっても証拠や其れ集める努力は大事である。であれば特に唯でさえ有る事無い事を、悪評を流されている董卓にとっては非常に重い。例え諫言を受け直感的に黒だとしても有無を言わさずとは難しい。
「だから。まぁ悪いが頼むぜ子昌殿。何とか見つけてくれ」
「分かりました」
そして幾つかの意見交換の後に董卓の家僕が王允と呂布の到着を伝えた。先ずは王允と呂布が入室する。小男と相変わらず華美絢爛な呂布だ。
尚、小男と言っても比較の話である。筋肉モンスター董卓、めっちゃデカい盧親子、派手にデカい呂布と並ぶからこそ小男に見えるのだ。王允は背丈は一般的で寧ろ鍛えられた肉体を持つ側だった。
その王允自体の印象としては厳しい気骨漢と言えるだろうか。盧植の型落ちという印象が拭えないが方向性は近しいものがあった。ただ盧植は文武両道で王允は武人寄りの文武両道と言うのが評論として近いかもしれない。
「相国。此の度は私めの提言をお聞き入れ頂き御礼申し上げる。
これにて丁原の麾下に居た者達も落ち着きましょう。相国の義子に騎督という地位と太保様御子息との婚姻。これだけ揃えば并州の兵も肩身の狭い思いをせずに済む。
同郷で最も高い立場を拝命したが故に頼られていたが、彼らの不安を除けそうで安堵しました。重ねて御礼を」
「ああ、気にすんなや司徒殿」
王允が盧植と盧繁へ視線を向けた。盧植は経験、盧繁は勘で確信する。その視線に推し量ろうとする意図を看破した。事前に警戒していたからこそだが明敏に確信出来るのだ。野生動物の様な警戒と慎重さを。
「御両名にも深甚感謝を申し上げます」
「お気になさるな。漢朝は常に賊徒が蔓延っている。天下安寧は能臣がなくては」
「黄巾で名を轟かせた盧先生のそう仰られては面映い」
王允のそれは本当に照れた様な顔だった。盧植は探りを入れた積りだったがそのまま受け取られた形である。少なくとも現状で何か意思表示をする短慮は期待できなかった。
嬉しそうに髭を撫で付けていた王允はハッとして。
「……ああ私ばかり話しても何だな。すまんな呂布」
「いえ司徒殿。此度の事は貴方の尽力あってこそ。加えて御養父上と太保殿が頷いてくれたからこそです。文句など」
盧繁はめっちゃありそうだなって思った。表情も声色もおかしい所は無いので何となくでしか無いが。凄くありそうだった。
呂布は盧繁へ視線を流しニッコリと笑う。何となく盧繁は察した。
「子昌殿。君なら私の娘を預けるに相応しい。正直な父としての想いだ」
そう言って腰に吊るした剣を鞘ごと握り。
「その思いが間違い無い物だともう一度確認させてくれ」
鉄剣を圧し折った。呂布以外が困惑する。察してはいたけどマジかオマエ的な。
「養子とは言え息子に土を付けられたままでは此の呂布の名折れだからね」
もうなんか面倒くさかったのでサッサと了承し盧繁も呂布も長い棒を握って相対する。董卓が呆れと敬意を合わせた顔で呂布を見ながらも若干雑に。
「始め」
呂布が飛びかかる。まるで攻城様の巨大な弩から放たれる丸太のような矢の如く。盧繁を目掛けて一直線。
「ほい」
盧繁が棒を思いっきり横に振って呂布が消えた。格ゲー的なアレで言うと空中狩りだ。絵面が思いっきりスマッシュブ◯ザーズ。
凄い雑。だが当たり前である。直線的過ぎる動きであり空中で如何やって踏ん張ると言うのか。
呂布はシュン……として戻ってきた。
「えっと……もう良いですか? 何か凄い浮かれてましたけど。その......」
盧繁は凄い気不味気に聞く。呂布は子供の様に肘の裏側、肘窩で顔を覆いながら答えた。音的に鼻啜りながら。
「……今日はもういい」
正直言って迷子の幼児以外がやっちゃダメな絵面過ぎて困ったが兎も角、呂布のリベンジを一蹴ならぬ一振して漸くその娘と対面という事になった。
そうなってくると盧繁は気が重くなる。推定敵の娘を家に置き側に置く。相手がどの様な人間であっても好ましい事では無い。良い子なら罪悪感で死ぬし性格が終わってたら色々と終わるし。
兎にも角にも女々しくもアレコレ悩んでいた盧繁の耳に声が聞こえてきた。それは遠くからくる物で絶妙に貴金属の音をたてながら。
「全く……が……い!!」
不安ではなく不満そうな声色でおそらく侍女か何かと話している。
「父上が言うから……けど」
盧繁以外も聞こえたらしく董卓が呆れ盧植が青筋を浮かべ王允と呂布が視線を逸らす。
「そうは言うけど噂なんて当てになる訳無いじゃ無い。そりゃあ私の身一つで皆んなの立場が良くなるなら我慢するけどね。父様と母様の美貌を継いだ私が名の知れた程度の男に嫁ぐなんて」
たぶんヒソヒソ話してる積りなのだろう声だがアホほど声でけぇ。とんでもねぇアホが来たなぁと盧繁は何か色々と如何でも良くなって来た。いや相手がどんな類でもナメてかかる訳にはいかないが警戒心を持ち難いったらない。
気付けば呂布が凄い煤けた顔してた。その呂布を王允が割と強めに肘で突く。若干だがキレ気味に呂布は。
「入れ!!」
「あ、拙い。じゃあ行くわ」
足音。
「失礼致します」
声色など変わった訳ではないが妙に小ざっぱりとした応答。そしてやたらと装飾を付けた大柄な女性が入って来た。尚言っておくがゴツいと言うことでは無く長身で出るとこ出てるって事だ。
「婿殿に顔を見せなさい」
「はい父上」
そしてスと顔を上げて董卓を見、盧植を見、最後に盧繁を見て固まった。
その固まった顔は非常に整っている。父親の見た目が見た目だけに納得の顔だ。しかし母親の血のおかげか愛嬌もある。
誰にしても入室前の声が聞こえてなければ見惚れていた可能性も結構あった。
「初めまして。俺が盧繁、字を子昌と申します。御名前を伺っても?」
だが盧繁は立ち上がり酷く白ける心情を傍に退けて対応した。こんな感じの相手であっても政治的な事を考えると粗雑には出来ない。僅かに淡々とはしていたが無難で問題のない対応でだ。
しかし呂布の娘は盧繁を見たまま動かず皆が困惑し始めた。盧繁は普通に体調の悪化を懸念して軽く覗き込み。
「大丈夫ですか?」
「あぇ……」
「……? すみません何と」
「……あ」
呂布の娘は白目を剥き盧繁は心底驚きつつも慌てて崩れ落ちる身体を支える。抱える様に支えた呂布の娘に何事かと問おうとして。
「すげぇ鼻血でとる……」
真っ赤な顔に白目を剥いて中々の量の鼻血を垂らして気を失っていた。盧繁が救いを求めて大人達を見る。誰もが盧繁と同じ様に困惑していた。
〓盧植〓
さて。うむ、見合いから数日経ったが。繁も困惑しきりだったな。
「えーと。で? 如何なりました。董殿」
「あー、うん。子昌殿。無理だってよ」
我が息子ながら、何とも。全くもって何だこの状況は。いや妻に似て顔は整っているが。そう言えばアイツは私の若い頃にソックリだと言っていたな。
……私はこうはならなかったぞ。
「……」
「ま、まぁアレだ子昌殿。娘っ子の方はもう如何やったって骨抜きだ。アレなら下手すりゃ向こうから情報を持って来てくれるぜ」
「いや俺と顔合わせただけで上せ上がる相手に如何やって話を聞けば良いんですか」
「……確かに」
「……」
「……」
繁も董殿も黙ってしまったな。まぁ美人計を警戒していた相手が逆に惚れ込み過ぎて倒れた挙句に顔も合わせられんとなれば……。本当に何だこれは?
「えーと。董殿。奉先殿は?」
「予定通り孫堅の迎撃に行かせたぜ」
「ですよね。調べようがないですね」
「そうだね」
二人して考える事を放棄している……。
この状況では如何しようも無いな。董殿は無茶をさせれば全てを解決できる。だが朝廷の重臣と言う立場が枷となった。
とは言え炙り出しにかまけていては避難させた民への対応で切迫した政務が滞る。
「こうなっては仕方がない。王允が私に接触してくる可能性もあるだろう。それを待とう」
「まぁそうれしかねぇわな」
董殿は切り替えられたか……。繁は焦っているな。随分と危険視しているらしい。
……うむ。
「そうだ繁よ。伯喈殿の御息女は屋敷を増築したら直ぐに来て頂くことになった。それで良いな?」
「あ、はい。助かります。頌姫殿と参宿殿の合間を取り持つのに彼女は心強い。旦那っても男じゃ聞き難い事もありますからね」
「流石にすまん」
「しゃーないでしょ父上」
全く董卓の御子息に御不幸がなければ話も変わったが難儀な。繁は有り体に現政権の繋ぎ役となってしまったではないか。
太傅殿の門生故吏は勿論だが協調関係にあった丁尚書も盧繁が居るからこその関係だ。逆に董殿と皇甫将軍と朱将軍が対立に至っていないのも繁に寄る所が大きい。相変わらず中庸を頑なに貫く楊家も繁が居るからこそ僅かに此方に寄っている。
何とかしてやりたいが無理だな。と言うか流石にもう大丈夫だろうが。どんな業を背負って生まれればこうなるのか……。
「父上、その。何でそんな生暖かい目を向けて来るんです? またなんか嫁を増やせとか言いませんよね!!」
「……たぶん。今のところは」
「そこは否定してほしいんですが!!」
呂綺・玲姫
名も字も適当。一番有名だろう呂布の娘をモデルにしたキャラクターの名前を分割利用して姫つけた。




