表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

 


 長いようで短かった旅路の果て。

 僕は今、一番最初に女神と出会った部屋にいる。


 右手にもつ愛槍(スペード)は壊れこそしていないが歪にひしゃげて、刃は赤くて黒い血に濡れている。

 左手には魔王の生首。まだ、とれたてなので、赤くて黒い血が垂れている。


 僕はすっかり変色してしまった "御神体" の前へ槍と首を差し出した。


「ただいま……女神さま」

「お疲れ様。タカヒロ」


 静かに見守っていた女神が僕を労ってくれる。


「あなたは数多の魔物を討ち、見事に魔王を倒してみせたわ」


 僕は足から力が抜けていくのを感じて、その場に座りんだ。

 奇しくも、前世で倒れた時と同じ配置だ。


「たった一人の勇者が、悪しき集団を蹴散らしたのよ」


 ただ、今度は腹が減っているわけではない。

 むしろ、しっかりと満たされている。


「僕は、何者なんだろう」


 原因は一目瞭然。己の足を見れば分かる。

 魔王による最後の抵抗、魔砲(ダークネス・ライフル)による……


 いや、もういいか。


 村長の猟銃による凶弾が足に当たったのだ。

 今も大量に出血している。

 だというのに、僕はひどく冷静に流れ出る血を眺めていた。


「見てよ。黒い血だ」


 ここに至るまで見飽きるほど浴びてきた血にそっくりなものが、僕の足から流れ出ている。


 もう勇者の時間は終わった。

 ボロボロの農具も、村長の生首も、母の亡骸も、すべて元通り。

 だというのに、僕からは黒い血が流れ出ている。

 ……ああ、そういうことか。


「それでもあなたは勇者です、タカヒロ」


 それでも──女神()()は消えるでもなく、確たる存在としてそこいて。


「おやすみなさい。願わくば……」

「クロはたかひろの事、一生大好きにゃん」

「シロもですわん。いつまでも待ってるわん」


 三人はゆっくりと僕の前に手をかざし、確かな温もりをもって僕のまぶたを閉じた。




 願わくば

 もし、本当に生まれ変わる事ができるのなら

 こんな風に、仲間と言える存在と

 一緒に





 ──





 ────





 ──────







「……もし」


 何だろう。誰かの声が聞こえる。


「もしもーし」


 ゆっくりと目を開くと、女の人が笑っていた。

 なんだかそれがおかしくて、こっちまで笑ってしまう。


「突然ですが、あなたには異世界でスローライフを送ってもらいます」

「あはは、唐突だね」

「持ち込むモノは私が勝手に決めました」

「クロにゃん!」

「シロですわん!」

「そして私です」


 やれやれ、と空を仰ぐと無数の星が瞬いているのが見えた。


 星の数は数え切れないほど多くて、きっと世界中の人がひとつずつ手に取ってもたくさん余る。

 今、僕が立っている大地もその星のひとつ。

 僕は僕の世界を、これからも守り続けよう。



 おわり。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ