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十七話、出所不明の魔法水晶

 


 ガヤガヤとうるさい店内をグラッドは楽しそうに肩で風を切りながら進む。


「お、可哀想な飼い犬が来やがったじゃねーか、散歩仲間は今日はいねーのか?」


 十中八九殉職した親友のレイニーのことを思いグラッドは少しばかり顔を顰めるがすぐに調子を取り戻す、ここでしんみりしたところで何かが改善することはないのだから。


「今日は子犬を連れてきたのさ、それよりお前らの方こそ野良犬同士、ちゃんと仲良くやってるのか?」


「俺たちはお前らと違って一匹狼ってやつでな、姿を見せない奴も多いが心配しちゃいねぇよ、それより子犬ってのはどんなだ?」


「あ?付いてきてるだろ?小せえのが」


 振り返ったグラッドが視線を下に向ける、カウンターのせいで隠れていたその姿はマスターが予想した背の低い女性なんてものではなく、まさしく子ども、この店に来るとは夢にも思わないような子どもの姿があった。


「ほんとにガキじゃねーか!バカかてめー!こんな店に連れてくるんじゃねーよ!」


「自分でこんな店って言うのかよお前は、まあ完全に縮こまってやがるし面白いったらねーな」


「悪いがうちの客層は、お前含めて自分勝手なやつらばかりだからな、ガキだろうとキッカケがありゃ喧嘩しやがるし、それで死なれても迷惑だから帰してくれ」


「そいつぁダメだ、俺含めて自分勝手なやつらしかいないから交渉が進まねえ、その為にあいつを連れてきたんだ」


「ガキに交渉なんざ務まるとは思えんが……そういう事情ならその子も魔法使い(自分勝手)って事だろ?最低限自衛ができるならいいか、いや、左腕折れてるけど自衛できるのか?」


「知らん、やってもらう。それで、ここ最近で何か異常を訴えてたやつはいないか?」


「飲み物は?」


「酒とミルクだ」


「あいよ、ここにいる全員が異常は感じてるってよ、森で殺されたまま放置されてる魔物をよく見る、それから、魔法水晶を拾ったって奴が奥の方で飲んでやがるぜ、あのフードのやつだ」


 神器(アーティファクト)ではなく魔法水晶、明らかに人工物となれば拾うなど近くに死体でも無い限り有り得ない話だ。


「うっし、聞いてたな、出番だ統也、行くぞ」


 ビールとホットミルクを掴んだグラッドが逸る気持ちを抑えられずにツカツカと踵を鳴らしながら進む、一人で飲んでいるフードの男の前にグラスをドンと置き、強い意志を込めた眼で、喧嘩を売るように


「少し話を聞かせてくれ」


 と切り出した。少し考えてからフードの男はニヤリと笑う。


「いいぜ、なんでも話してやる。ただし、こいつを使ってくれ」


 男が懐から取り出したのはおそらく件の魔法水晶、本来神器と共にSB(シルバーバレット)で管理されていなければならないそれは見た目からして異質だった、水晶と呼ぶには色が濁り過ぎている、中で渦巻くような黒い靄が絶えず蠢いているのだ。


「せっかく拾ったんだ、活用したいのは山々なんだがあまりにも怪しくてな、代わりに実験台になってくれるんなら俺の知ってる限りの事はなんでも話そう」


「神器なら触った瞬間に頭に使い方が流れ込んでくるからな、わからないってことは分類はたしかに魔法水晶だろうが……異質すぎてその条件を飲むやつがいるとは思えないな、んぁー、こういう時俺は金をつかませるか殴るしか思いつかねぇ、統也頼んだ」


「俺は金でもいいんだがな、それで魔力を少しばかりでも持ってるホームレスに使わせりゃいい話なんだからな」


 急に連れてこられた場所で、やったことの無い交渉などをさせられる統也はたまったものではないが必死になって頭を回す。


「魔法水晶に間違いは無いとして、見た目はともかく使う事を目的として作られたなら害は無い、と思います。使うだけで情報が手に入るならやってみてもいいと思うんですけど、ダメですかグラッドさん」


「いや……いいけどよ、言ってることもわかるが本当にあれを使うのか?見るからにやばいだろ」


「ガキの頃って素手で虫をつかめたりしたし、経験がないってのは嫌悪感を抱かせないのかもな、俺たちには不気味でもこのガキにはただの魔法水晶と変わらねぇって言うならやってもらおうじゃないか、俺もアンタも損はしないだろう?」


 統也の折れた左腕は、当て木をして首から布で吊るしているため物を置くのにちょうど良かったのか、早く実験してほしいフードの男がそこへ魔法水晶を乗せた。


「店に被害が出たりしないように一応外で、魔力は少ししか流すなよ」


 グラッドもまた、自分に損は無い、と魔法使いらしく統也にその役を任せた。


 店から出て行く三人の姿を、事情を知っている店内の連中が騒ぎ立て始め、何が起こるのかと野次馬根性を出して見物に乗り出した。


 気づけば大勢の人に見られる中、統也は左手に乗せられた魔法水晶をしっかりと掴む。


「じゃあ、行きます!」


 ほんの少し、そのつもりで魔力を流すと一気に大量に持っていかれそうになり、慌てて魔力の流れを止める。魔法水晶は統也が普段使う時の銀光ではなく、闇の筋をいくつも伸ばす。

 周囲には風が巻き起こり、危険を感じた魔法使い達は何が来てもいいように障壁を張る。


「うぐぁぁああああ!!!!」


 痛みが走り統也が叫びをあげる、一際強い衝撃が走り、統也の左腕の部分は、服も当て木も布も弾き飛ばされた後に徐々に闇が消えていき、痛みに腕を抑え蹲っていた統也が残る。


「いってぇぇええええ!!なんだよこれ!何の目的で作ったんだよ!」


 叫んで起き上がった統也は、両腕をつかっていた(・・・・・・・・・)


「え、治ってる……?さっきまで折れてたのに」


 統也が呟くと左腕はノイズが走ったかの様に輪郭を崩しブレた、しかしそれを気にしている余裕など統也以外この場の誰にもなかった。


「怪我が治った?」「魔法の三大難問の一つだぞ」「あれがあれば遺跡での死亡率も減るし街でも稼ぎ放題だろ」


 周りのざわめきがどんどんと大きくなり、最後には歓声に変わる。

 フードの男に誰もが群がり、あの魔法水晶はどこで拾ったのか、言わないと殺すとまで問い詰める。

 魔法水晶であるということは量産されている可能性がある、という事だからだ。


「わかった!案内する!するから絶対に俺を殺すな!俺が死んだ場合、それからあの魔法水晶が盗まれた場合、何らかの責任を負っていい奴だけ後で署名してくれ!」


 フードの男が必死に叫んだ声が響き渡ると、興奮は冷めぬものの、人はまた店内に戻り、それぞれが自分が魔法水晶を手に入れた場合の事を夢を見るように飲み始める。

 最後までその場に残っていたのは統也とグラッドの二人。


「モグリたちの生存率が上がるってのは悪い話じゃねーが出どころ不明の魔法水晶ってのはかなり良くない話だな、あんだけ騒がれちまったらSBの方で回収するって言うと暴動も起こるかもしれん……が、まあいいかそんなことは」


「いや!色々と良くないでしょ!それに回復って言うには何か違和感がある気がするんですよね」


 統也が見つめるとまたも手の輪郭がブレた。


「そいつは……何が起こったのか詳細はわからないがそれはひとまず黙っとけ、魔法水晶の回収をあいつらにさせてからそれを話せば引き渡してくれるかもしれん、問題があるのかどうかもわからんが解決策はアレを持って帰って解析してもらわないことにはどうにもならん」


 たしかに現時点では問題があるのかもわからないので、無言で統也は頷いた。



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