十六話、こいつは酷い
SBの医務室から家へと戻った統也たちは、本当に真中が統也の世話を焼くためにせっせと動くのを見て驚いていた。
食事の用意は事前に取り決めていたので当然として食べる時までそうだ。
「統也……あーん、して……」
「いや、右手は無事だから普通に食べれる」
「あーん、して」
「はい……」
風呂に入る時も一切自分で動くことを許そうとはしない、そのやりとりは見てる緋色と鳴からすれば違和感が凄まじい。
「お風呂……体洗ってあげる……」
「助かる、でも魔法でなんとかできそうだし試してからでいい?」
「試さなくても……頼って、ね?」
「んぬぅ、ありがとう」
と、真中が世話を焼きたがり、統也が自分でやろうとして、真中の圧に負けるの流れができてしまっている。
「トイレ行ってくる」
「ん……連れてってあげる」
「「それは流石に一人でいかせてあげて!?」」
完全に暴走している真中に緋色と鳴がついに声を上げた、この時の統也のホッとした顔を二人は忘れないだろう。
統也がリビングを出たと同時にインターホンが鳴り響く。
「あ、俺そのまま出てくるー」
統也がすぐさま玄関の方へと歩いていく、真中は自分が行くと言おうとしたがタイミングを逃してしまい声には出せなかった。
「なんかさー、真中がそんなに動いてるの変な感じするんだけど、大丈夫?」
「統也が心配なのはわかるけど、確かにちょっと真中らしくないと思うな、どうしたの?」
鳴と緋色は統也が離れたタイミングで真中に話を切り出す、流石に心配の仕方が常軌を逸しているため何か理由があると踏んでのことだ。
「何から言えばいいか……迷ー
真中が話そうと考えて、それを待つ二人もあまり気にしていなかったが玄関の方では慌ただしく音がなっていた。
「ごめん!SBの人がなんか俺に用があるらしいからちょっと出てくる!先に寝といて!おやすみ!」
「はぇ……え?統也?」
バタンと、扉が閉められてから立ち上がって追いかけようとした真中の手を緋色が掴む。
「SBの人だから大丈夫だよ、それよりさっきの話の続きをしよ?」
「そうそう、統也が出てったなら話しやすいでしょ?何かあるんなら教えてよ!ボクたちだって頼りになるよ!」
二人に諭され座り直した真中はしっかりと頭で反芻して、ようやく言葉を切り出す。
「二人にとって……統也はどういう人?」
いつも通り隠れた瞳、しかしその奥にある目がたしかに強い意志を持って光っている、そんな圧があった。
「私にとっては、ヒーローだよ。どんな時も立ち上がって、私が立ち上がる強さをくれた、ヒーロー」
緋色は思い出す、初めて統也と出会った時このとを。
自分は酷く落ち込んで、自分を責めて、自暴自棄になって街中で大人に喧嘩を売ってしまった。
当たり前のように負けて、それで終わればいいなんて思っていたのを、統也が追いかけてきてくれた。
統也だって勝てるはずは無かったけれど、蹴られても、殴られても、放り投げられても、決して立ち上がる事をやめなかった、拳を握ることをやめなかった。
その姿を気味悪がった相手が立ち去ってから、私よりボロボロの姿で、「大丈夫か?」なんて聞いてくる、あの日から統也は何があっても立ちあがる、力強く野を踏みしめて立つ、私のヒーローだと自信を持って答えられる。
「ボクにとっては光!雷って音より速く光が届くんだよ!だから統也は光なんだ!それでボクもいつか光になる!」
鳴の行動指針も速さに拘るのも全てはそのため、いつか誰かの光になるため、夜が怖かった自分に灯りを灯してくれた統也のようになるために。
「私にとっては……優しい人なの……誰かの痛みが分かるから誰より傷つきやすい人……」
額に残る火傷も、それを引き起こした自分の目も、体に流れる血も許せなくて、自分自身が大嫌いだった私を受け入れてくれた人。
「真中は何も悪くないだろ、俺は真中の目、綺麗で好きだよ」救われた、掬われて救われた。
この体の汚れを落とそうと必死で飛び込んでいた水から、これだけの言葉で掬われたのだ、飛び込もうにも胸に撃ち込まれた透明な矢に繋ぎ止められてしまっている、心底優しいあの人は自傷なんて望まないからもうできない。
「優しい人で……頑張っちゃう人だから……無理しないように守りたい、最近は特に無理させたから……甘えて欲しい」
真中の言葉で改めて緋色と鳴も最近の無理をしていた統也の姿を思い出す、普段の姿に戻れば十分だと思っていた二人と真中の違いは統也への想い。
頼る相手と思っていた二人と、守らないといけないと想っていた真中、抱えていたおもいが違ったのだ。
「たしかにボクたちが甘え過ぎだったのかも」
「でも、真中は度が過ぎてると思うな」
「……どこが?」
「「どう考えてもトイレは絶対におかしいよ!」」
「でも……片手だと不便そう……」
「いやそうなんだけど!そうなんだけども!ぬぐぁああ!ボクじゃうまく説明できないから緋色頼んだ!」
「私にも無理な気がするんだ、さっき頼りすぎって言ったけどもう統也に任せよっか」
ハハハと二人が笑いながら統也に丸投げして笑い合う、そうとも知らずに統也は外を歩いていた。
「あの、なんで急におれが呼ばれたんですか?」
「あー、今から仕事だって言ったろ?それが『モグリ』達から情報を聞き出すってやつなんだが、お前は魔法で頭が回るようになるんだろ?あと魔力が弱いってことは他の魔法使いほど頭が硬くない、さらに言えば警察に顔が割れてないといい事しか無かったからだ」
「非正規で魔法を使う人たちですよね、違法に神器を所持している場合もあり警察に睨まれている要注意人物と聞いています」
「表向きはな、実際には我が強すぎて扱いきれないって事はそれだけ強い魔法使いである可能性も高いってことだ。命を張って外の魔物を倒す協力者たちでもあるし、自由が効く分長期間遺跡に潜り続けるやつなんかは俺らより深く潜っている、そう言う意味でも奴らは『モグリ』なんだよ。神器に関してはさすがにやばいのもあるからそういうのは買い取りになるがな」
「モグリ……実は凄い人たちだったんですね」
「ああ、そんな凄いけどヤベー奴らからなんとかコストを抑えて情報を聞き出す、それが今回の仕事だ、あいにくと俺は魔力が強くて制御効きにくいタイプだからお前の働きに期待してる」
新人の自分に任せられる比率が大きい気がして腹が痛くなるような思いだが仕事であればやらなくてはならない。そんな思いを自分の中で統也が反芻しているうちに暫く歩いた。
「つーわけでここだ、入るぞ」
「ちょっ、心の準備が!」
「俺はできてる!」
「俺はまだです!」
統也の発言は無視されグラッドに強引に手を引かれ、外観からは綺麗な印象を受けるバーへと連れ込まれる。中の光景は……
お世辞にも綺麗とは言えないどんちゃん騒ぎだ。
「どうだ?最高だろこのバーは、このギャップで大抵の奴はすぐに帰るんだ」
言葉も出ない統也にグラッドはニッと笑いかけた。




