村の外のパレード 王都での夜会 その3
魔王国の下っ端兵士視点です。
パレードがあった日の夜。
「さすが魔王様だ!」
俺は王都で働く下っ端の兵士。
近衛軍なんて、絶対に入れない男だ。
そんな俺でも、魔王様のすごさがわかった!
あの圧倒的な強さを誇るインフェルノウルフたちが、魔王様が腕を振るだけで王都から出て行ったのだ。
すごい!
すごすぎる!
しかも、魔王様は部下を引きつれず、一人だったからな!
え?
従者がいた?
いたかもしれんが、前に出て戦ってたわけじゃないんだろ?
魔王様の後ろにいただけのやつだ。
いや、横だったかもしれんが。
数に入れる必要もない。
だから、魔王様は一人だったんだ。
俺は王都のはずれにある安い酒を出す店で、上機嫌に語った。
店は迷惑そうにしつつも、今日は仕方がないと許してくれる。
騒いでいるのは俺だけじゃないしな。
俺と同じような感想が、ほかのテーブルからも聞こえてくる。
魔王様、すごい。
もちろん、魔王様がすごいのはインフェルノウルフをどうこうしただけじゃない。
あの憎っくき天使族すら、魔王様を見れば矛を向けずに逃げて行った。
ん?
あ、いや、俺は天使族のことはどうとも考えていないぞ。
若いからな。
天使族を憎むのは年配の連中だ。
いわゆる古参兵。
連中は、ことあるごとに天使族対策の防御とかを伝授してくるからな。
天使族以外に応用が利かないから、あんまり役に立たないけど。
ハーピー族対策?
ああ、あれは天使族と一緒に来るから、天使族対策に含まれてるんだ。
今日もそうだったろ?
ハーピー族が下準備したところを、天使族が突っこんでくる形。
そういう役割分担。
下っ端兵士の俺にすれば、天使族よりもハーピー族のほうがやっかいだな。
なぜって?
下っ端は天使族に狙われないからだよ。
天使族は基本的に指揮官を狙ってくる。
ん?
そりゃ、誰が指揮官かなんて見ればわかるだろう。
高そうな服とか鎧を着ているからな。
まあ、そういった服とか鎧をなんとかしても、上から兵の動きを見ていれば指揮官がわかるらしい。
俺は天使族じゃないから、詳しくは知らないけどな。
話が逸れた。
戻そう。
魔王様がすごいってことだ。
パレードの最後、突発的な戦闘になってみんなが混乱してたけど、あれは突発的な軍事演習だった。
ここしばらく平和だったから、引き締めるためにやったそうだ。
たしかに、あれが本当に敵の襲撃だったら、かなり危なかった。
魔王様がすごいのは、そうして引き締めておきながら世界に発信した、《人間の国々に対する戦争勝利宣言》だ。
聞いていないのか?
まあ、軍事演習でバタバタしてたからな。
俺はしっかりと聞いたぞ。
魔王様が王城の前で、人間の国々に対して一方的に戦争勝利を宣言したんだ。
相手が聞き入れるわけがない?
そうだろうな。
しかし、それがどうした。
文句があるなら、かかって来いって話だ。
で、かかって来ると思う?
来ないね。
来るなら、とっくに来てる。
こっちがなにを言ったところで、相手は黙って聞くしかないのさ。
ん?
《人間の国々に対する戦争勝利宣言》をしたら、なにが変わるんだって?
……
よくわからん。
いや、魔王様がいろいろと言ってたけど大歓声だったから。
聞こえたのは、えーっと……
そう、今の魔王様が、最低でも千年は魔王を続けるってことだ。
あれ?
五百年だったかな?
まあ、どっちにしても嬉しいよな。
頼れる魔王様の治世が続くってのは。
あと、魔王国と人間の国のあいだに新しい国を作るとかなんとか言ってたのは聞こえたけど……
よくわからないんだよな。
なんで新しい国を作る必要があるんだ?
面倒が増えるだけだと思うんだが?
俺が考えていると、隣の席の見知らぬ男が教えてくれた。
「魔王様は、人間の国々と隣接してても面倒が増えるだけと割り切り、あいだに中立の国を作ることにしたんだ。
ようは緩衝地だ」
緩衝地って、人間の国との戦線を下げて作ったやつだろ?
「そう。
広大な領地を人間の国々……いまの場合は、フルハルト王国とガルバルト王国だな。
この二つの国との物理的な距離を空けて、その距離を維持する戦いをやっている」
そうだ、それだ。
「その距離を維持するのも面倒だから、そこに国を作ってしまおうって話だ」
へー。
しかし、宣言ならともかく、そんな国を作ったら人間の国々に攻められるんじゃないのか?
「そうならんように手は考えられている。
新しく作られる国は、魔王国との交渉を代理するそうだ」
?
交渉を代理?
「そうだ。
今、国交があるところはそのままだが、新規の国交は全て新しく作る国が担当する。
あー、例えば……捕虜を返してほしいとか奪われた宝を返してほしいとかの交渉があるとするだろ。
そういった交渉を今後の魔王国はやらない。
やるのは新しく作った国だ」
へー。
しかし、それで攻められなくなるのか?
交渉したくない国は攻めてくるんじゃないのか?
「もちろんそうなるだろう。
だが、それは交渉したい国が止める。
なにせ唯一の窓口だ。
攻めてしまったら、魔王国とは交渉しないという宣言になる」
いまでも交渉はほとんどないだろ?
「ほとんどないってのは、ないのとは違うぞ。
戦争してても、話し合わなきゃいけないことがな」
そうなのか。
「ああ、それこそさっき言った捕虜を返してほしいとか、奪われた宝を返してほしいとかの交渉だな。
こういった交渉は人間の国々にもメリットがある。
そう簡単には捨てられんさ」
なるほどなー。
「それに、新しい国を作ると言っても、領地は広いがちょっと大きめの街を一つ作るだけだ。
そんなところを攻め滅ぼしても、得る物は少ない。
それよりも交渉の窓口として維持したほうが得。
攻めてきたりはせんよ」
そうか。
魔王様はいろいろと考えているんだな。
「そうだな。
魔王様はいろいろと考えてらっしゃる。
でだ、攻められる心配はないと理解したよな?」
ああ、理解したぞ。
「そこで儲け話があるんだが」
儲け話?
おいおい、怪しい勧誘はやめてほしいんだが?
「怪しくない怪しくない。
その新しく作る国を守る兵士の募集があるって話だよ」
兵士の募集?
いや、俺は魔王国軍に入っているんだが?
「大丈夫大丈夫。
新しく作る国は当然、魔王国じゃないが……実質は魔王国だ。
なにせ新しい国を作るための資金は魔王国が出すからな。
人事も魔王国主導だ。
つまり、兵士も魔王国軍で揃えられる」
ってことは魔王国軍を辞めて、新しい国の兵士になるって話じゃなく……
「転属希望者を募るってことだ。
攻められる心配はないが、最前線中の最前線になるから給金は高くなるぞ」
給金が?
い、いや、いい話だが……
「最初は近衛軍が防衛の任務につくから、万が一があっても大丈夫だ。
魔王様も、新しく作った国がすぐ潰れたらいろいろと困る。
手は尽くしてくれるさ」
た、たしかにな。
となると、新しい国を守る兵士になるってのは……
「儲け話だろ?
明日にでも軍の広報が告知すると思うから、疑うならそっちでも聞いてくれ」
お、おう、わかった。
ありがとうな。
「いやいや。
感謝してもらって悪いんだけどな、この話をお前さんの同僚とか友人に話してやってくれないか」
ん?
なんでだ?
「最初は兵士を揃えたいらしいんだよ。
恰好がつかないだろ?」
ああ、なるほど。
「長々と話をしてすまなかったな。
よし、酒だ。
ここは俺が支払ってやる。
乾杯だ乾杯!
今日の魔王様の雄姿に!」
おお、本当に支払ってくれるのか?
助かる!
店員さん、酒を頼むぜ!
でもって、魔王様の雄姿に乾杯!
ははは。
今日はいい日だ。
●王都での流れ
パレード開始。
パレード終盤、魔王国の王都で戦闘開始。
魔王が収めた。
魔王が《人間の国々に対する戦争勝利宣言》!
同時に、長く統治をがんばる発言。
新しい国を作ることを告知。
パレード終了。
夜会に突入。
●続き?
平兵士「うー、酔ったぁ」
男 「みたいだな。ほら、これにサインしてくれ」
平兵士「おう、なんだこれ?」
男 「外泊証明書だ」
平兵士「へー、カキカキ……これでいいか?」
男 「ああ、ありがとうよ」
平兵士「なぜ俺は傭兵部隊にいる……」
もちろん、冗談です。
(元ネタはエ●ア88。古すぎるかな?)




