吹雪のあと
吹雪が止んだ。
まぶしい朝だ。
扉を開けると、一面の銀世界だな。
いや、吹雪の前から銀世界だったけど。
雪の積もり方がすごい。
高いところで二メートル超えだ。
雪掻きが大変そうだ。
屋根にも同じぐらい積もっていると考えると、急いで雪降ろしもしないとな。
そんな風に思っていたら、ドラゴンたちというか……ライメイレンが頑張った。
魔法で雪を固め、一気に運んでいく。
雪山もそんな風に作ったのね。
頑張った理由がヒイチロウにいいところを見せたいためだとしても、助かる。
ああ、ちょっと待った。
広場の雪はそのままにしておいてくれ。
雪合戦に使うらしいから。
魔王とグラッツが場所と形を決め、雪が防御陣地の形に積もるように保温石で調整していた。
吹雪が凄かったのであまり上手くいっていないが、うっすらと陣地の形は確認できる。
……悪くない使い方だな。
来年の冬から、保温石を道や屋根に設置することを考えよう。
あ、いや、保温石が融かした雪の行き先を考えないといけないか。
排水も考えないと、変なことになるかもしれない。
住人たちと相談しながら、やっていこう。
あとで。
今は目の前の仕事。
雪はドラゴンたちに任せて、動ける大人は手分けして村の各所を見回る。
重要なのは屋敷以外に住んでいる村の住人たちや動物たちの安否確認。
続いて、建物に被害がないかをチェックしていく。
おっと、子供たちはまだ遠くに行っちゃ駄目だぞ。
ドラゴンたちが雪を除けた場所ならかまわないが、雪の深い場所で嵌まって動けなくなったりしたら危ないからな。
できればドラゴンたちの作業の邪魔にならない場所から、ドラゴンたちの活躍を見ててほしい。
うん、やる気が違うから。
でもってグーロンデ。
ドースやギラルが調子に乗り過ぎないように見張ってもらえると助かる。
オルトロスのオルは、グーロンデの護衛を頼んだぞ。
……
オルよ。
暖かそうな服を着ているな。
ザブトンの子供たちに作ってもらったのか。
似合っているぞ。
靴まであるのは、過保護な気もしないではないが……雪は冷たいもんな。
うんうん。
そうだそうだ。
果樹エリアの蜂たちの小屋もチェックしないと。
毎年、冬前に確認と補強をしているから大丈夫だろうけど……
よし、崩れてない。
よかった。
しかし、木の枝に積もった雪に注意しないと危ないな。
氷柱もできているし。
手が届くところは折っておこう。
高い場所の氷柱は、天使族に頼むか。
……
クロの子供たちよ。
天使族に頼むから、木にタックルしなくていいんだぞー。
落ちて来る雪や氷柱が危ないからなー。
軽やかに躱しているが、見ているほうが心臓に悪いから。
あ、ほら、大きい雪に潰された。
大丈夫か?
よしよし。
しばらく室内だったから、動きたい気持ちはわかるけどな。
用心深くだ。
雪に隠れた穴とかあるかもしれないしな。
いや、吹雪の前はよく来ていた場所だと安心するのは間違いだぞ。
この村には魔法で穴を作れる者が多いから。
わかってくれたらいいんだ。
それじゃあ、屋敷に戻るか。
空を見上げると、四村からやってきた万能船が浮かんでいた。
万能船の船長のトウから、四村と南のダンジョンのラミア族、北のダンジョンの巨人族に問題はなかったとの報告を受けた。
こっちに来る前に様子を見に行ってくれたんだな。
助かる。
とくに南のダンジョンのラミア族と北のダンジョンの巨人族には、大きい吹雪になるとの情報を送れなかったからな。
心配していた。
「ラミア族も巨人族も、長年の勘で吹雪を察知していたみたいですよ」
さすがだな。
俺はここに住んでもうすぐ十九年目か?
いっこうに吹雪を察することはできない。
天気が悪くなるなぁぐらいなら、なんとなくわかるけど。
そういったことは、クロたちに聞いたほうが正確だからな。
四村に急ぎの補充等はないようなので、万能船にはハウリン村に向かってもらう。
あそこも山の中の村だ。
雪の被害はあるとセナやガットが言っていた。
ご近所として、心配はする。
あとは一村、二村、三村、五村だが……
ちょうどケンタウロス族の定時連絡がやってきて、一村、二村、三村に吹雪の被害はないと報告してくれた。
ありがとう。
残るは五村だな。
五村の村長代行であるヨウコは、吹雪の前に五村に移動している。
どれだけ吹雪で閉じ込められるかわからないからな。
五村の執務に影響がないようにとの配慮だ。
ヨウコの娘であるヒトエも連れて行くのかと思ったら、ヒトエは大樹の村に残された。
「大樹の村のほうがヒトエが落ち着くのだ。
五村は人が多いからな」
信頼は嬉しいが、なかなかのプレッシャーだ。
まあ、ヒトエはヨウコの不在を気にせず、鬼人族メイドたちや獣人族の女の子たちと普通に生活していたけど。
そのヒトエを抱きかかえながら大樹のダンジョンに入ると、ちょうど五村から戻ってきたヨウコと鉢合わせた。
すでに吹雪が終わったとの連絡が届けられていたのね。
すれ違いにならなくてよかった。
ヒトエをヨウコに渡し、屋敷に戻った。
その日の夜。
吹雪が止んだことを祝い、ささやかな宴を開いた。
メインは村に大きな被害がないことへの感謝だが、サブでグラッツがやっていたボードゲームの勝者が祝われた。
ドライムとザブトンの子供たちが担当した勢力が勝者らしい。
ただ、ゲームには敗北したけど、ゲーム中の賄賂で多くのフルーツを獲得した天使族たちが実利を得た気がしないでもない。
「天使族のそういうところだぞ」
とグラッツに苦言を呈されていたが、天使族たちは気にした様子はないな。
うん、好きなだけ食べてくれ。
宴の料理は、ガットたち鍛冶師が作った小鍋を使った鍋焼きうどんだ。
鍋の下には保温石が入った鍋敷きを置いている。
「この小さな鍋は、なかなか贅沢ですね」
天使族の一人がそう褒めるので、俺も賛同しておく。
そうだな。
こういった料理でしか使い道がないから、贅沢品と言えば贅沢品だ。
「あら、そう?
このサイズなら、少量の薬作りとかに使えそうだから、いくつか欲しいのだけど」
「そうですね。
私のほうにも、いくつかいただけると」
ルーとフローラがそう言って小鍋を欲した。
わかったから、料理に使っている分を持っていくんじゃないぞ。
あとでガットたちに発注しておく。
「ありがとう。
あと、鍋敷きも欲しいかな」
「私も私も」
はいはい。
そっちは山エルフだ。
発注しておくよ。
ほら、鬼人族メイドたちが追加のうどんとモチを持ってきたぞ。
いるなら早く言わないと。
吹雪のあとの、ちょっと賑やかな夕食だった。
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