閉じ込められた日々
吹雪がきた。
かなり強烈だ。
屋敷の外には出られないぐらい。
だが、屋敷はびくともしない。
屋敷の中も問題はない。
心配し過ぎだったかな。
いや、油断はよくない。
吹雪がいつまで続くかわからないのだから!
……
まあ、コタツに入りながら気合を入れても仕方がないな。
のんびりしよう。
吹雪が続く二日目。
俺は鬼人族メイドたちと一緒に、新しい調味料を作っていた。
こうなった原因は柚子胡椒だ。
あれは俺とハイエルフたちで作ったものだが、もともとは鬼人族メイドたちも参加する予定だった。
ただ、鬼人族メイドを率いるアンとラムリアスが妊娠中で味覚が安定しないというか、匂いに敏感になって調味料の開発は厳しいとなり、鬼人族メイドたちは不参加だった。
そんななか、柚子胡椒が完成した。
完成しただけなら、なにも問題はないのだが、評判がいいのが鬼人族メイドたちのプライドを刺激した。
吹雪で手の空いた鬼人族メイドたちが新しい調味料を作ろうと動き出した。
さすがにアンとラムリアスは参加していないが、その二人が参加していないので鬼人族メイドのブレーキ役がいない。
食材を無駄にしないようにと俺が注意しながら、頑張った。
結果。
柚子胡椒に影響されたので唐辛子を使ってと考え、ゴマ油に唐辛子の辛味を加えたラー油が完成した。
そして、そのラー油に、刻んだニンニクや唐辛子、ネギを浸し、砂糖や塩、醤油で味を調えた物がプラスアルファでできた!
このプラスアルファはなんだろう?
液体ではなく、固体のラー油かな?
なんにせよ、辛味を追加するときには便利だろう。
食感も加わるし、悪くない。
この冬のあいだに村の住人から評判を聞き、改良を重ねていきたい。
吹雪が続く三日目。
屋敷の一角で、暇を持て余した大人たちが子供を巻き込んで遊んでいた。
やっているのはなんだろう?
ボードゲームかな?
テーブル上に地図を広げてコマを配置し、各勢力を担当して勢力の拡大を目指す内容らしい。
サイコロなど使わず、各勢力が行動を一斉に示し、行動をする。
だから軍がすれ違って戦闘が起きなかったり、思わぬところでぶつかって戦闘になったりする。
各勢力の行動の決定が大事だな。
このゲームを管理するのはグラッツ。
なかなか大変そうだ……が、参加人数、多くないか?
ぱっと見た感じ、四十人ぐらいいる。
管理しきれるのか?
人数はいるけどチーム戦だから大丈夫?
ああ、なるほど。
チームで、一つの勢力を担当しているのね。
チームは……ほぼ種族で分かれているようだ。
そうなると、アルフレートを中心とした吸血鬼チームが人数が少なくて不利そうだな。
いや、一人のチームがいるな。
ドライムだ。
あ、ドライムのチームにはザブトンの子供たちが入っているのね。
失礼。
このボードゲーム。
各勢力の行動を決定するのに、それなりの時間がかかる。
なんでも、行動を考える時間中に、ほかの勢力に交渉を持ちかけることが可能だからだ。
そこで同盟や取引などを締結できるのだが、それを守る、守らないのも自由。
また、各勢力は誰と交渉したかや、自国の方針を周囲に知らせないために部屋をキープしている。
つまり、行動を考える時間になると各勢力は部屋に籠る。
だが、チームメンバーの一部にほかの勢力の部屋を見張らせ、どこの勢力が接触したかを知ろうとしている。
もちろん、ルール違反ではない。
なかなか大変そうなゲームだ。
しかし、見張り等まで必要となると、人数が多い天使族のチームか、ザブトンの子供たちがいるドライムのチームが有利そうだな。
まあ、それだけで決着するゲームではないのだろうけど。
俺はのんびりと見物させてもらった。
吹雪が続く四日目。
グラッツのやっているボードゲームが続いている。
「う、裏切ったなぁ!」
「ほほほ。
信用するほうが悪いのよ。
我が『キャベツ王国』第一軍団は『トマト聖国』の王都に侵攻、占領よ!
降伏せよ。
降伏を受諾するなら寛容な待遇を保障する」
「ぐぬぬ……」
「あー、調子に乗っているところ悪いけど、我が『ジャガイモ騎士団』は『キャベツ王国』との同盟を破棄する。
そして、第一軍団、第二軍団は『キャベツ王国』の領地に進軍」
「え?
ちょ、なぜぇ!」
「そして、『ジャガイモ騎士団』『ニンジン一家』『タマネギ連合』の軍事同盟を発表!
これで沖合いの海戦は、こっちのものね」
「おっと、その海戦には『ダイコン帝国』も参戦させてもらおう。
ここで海の状勢が決まるのは困るのでな。
『キャベツ王国』を支援する」
「『ダイコン帝国』が暴れ出した!
止めないとまずい!
『カボチャ新国』と『タマネギ連合』、争っている場合じゃないぞ!
共同で防衛線を構築しよう!」
「甘言にはもう騙されないぞ。
我が『カボチャ新国』は独自路線でいかせてもらう!
空いている『ニンジン一家』の街を占領だ!」
地図上では、なかなか混沌とした情勢だ。
子供たちも参加しているのだから、もう少しなんとかならないものか。
「他勢力は、自勢力が大きくなるためのエサなんだね」
「外交上の嘘は、嘘じゃないんだ」
「隙を見せたら食らわれる。
これが生きるということか……」
ほらぁ。
教育に悪い感じになっている。
いや、ゲームなのはわかっているけどさ。
吹雪が続く五日目。
見慣れぬ女性が俺の前にいた。
頭の左右に羊角を生やしているが獣人族ではなく、魔族のようだ。
服装から、ちょっと裕福な家の娘……といった感じかな。
「どうかしら?」
声を聞けば、誰かはわかってしまう。
見慣れぬ女性の正体は、キアービットだ。
「声を知らなければ、バレないと思うんだけど」
まあ、俺はもともとキアービットだと知っているからな。
知らなかったら、声を聞いても疑わないだろう。
「それじゃあ、これで一緒に王都に行ってもいいわよね?」
うーん。
キアービットの目的は、王都の学園に行くトラインに同行することだ。
そのことに関して魔王に相談したのだが、天使族なのはかまわないが、キアービットであることが問題と言われた。
よく忘れられているが、キアービットはガーレット王国の元天翼巫女(えらい立場)だ。
元とはいえ、影響力がまだまだ残っている。
しかも、ガーレット王国は魔王国と人間の国の和平を進めている最中に内乱を起こして混乱中。
そんなところでキアービットが魔王国の王都にいるとなれば、ガーレット王国の混乱が魔王国の誘導だったのではと疑われ、和平が遠のく。
要は、面倒だから止めてほしいという回答。
それをキアービットに伝えたら、こうなった。
なかなかの熱意と行動力。
ちょっと怖い。
だが、認めないわけにはいかないだろう。
「じゃあ、行ってもいいのね」
トラブルは起こさないようにな。
「もちろんよ!
任せなさい!」
頼もしい返事だ。
それを信頼しつつ、あとで魔王に伝えておこう。
でもって、その魔王は……グラッツのゲームに参加中。
「降伏勧告?
我が『ニンジン一家』は屈せぬ!
馬鹿めと返してやれ!」
ノリノリで楽しんでいた。
あのゲーム、交代で休憩とか食事ができるから延々とやれちゃうみたいだ。
まあ、子供たちが喜んでいるからいいけど。
どうやったら終わるのかな?
無限に続けられるけど、だいたいは時間制限?
時間制限が来た段階での状況で勝利勢力を決めると。
あ、今日の夜に終わる予定なんだ。
なるほど。
あと少し、頑張ってね。
俺はどこの勢力を応援しているのだと?
俺はグラッツだな。
うん、なんだかんだで一番大変そうだから。
本人は楽しそうにやっているけどな。
六日目の朝。
吹雪が止んだ。
・アルフレート率いる吸血鬼のチームが、勢力『トマト聖国』を担当。
・ティゼルを中心とした天使族のチームが、勢力『キャベツ王国』を担当。
・ウルザが率いるドラゴン族(ハクレン、ラスティ、ヒイチロウ)のチームが、勢力『ジャガイモ騎士団』を担当。
・フラシアベルとビーゼル、魔王、文官娘たちの魔族チームが、勢力『ニンジン一家』を担当。
・セッテとセナ率いる獣人族とリザードマンの混成チームが、勢力『カボチャ新国』を担当。
・トラインと鬼人族メイドのチームが、勢力『タマネギ連合』を担当。
・ドライムとザブトンの子供で勢力『ダイコン帝国』を担当。
グラッツがやっているのは、ディ●ロマシーそのものではありません。
ディ●ロマシーっぽいゲームだと思ってください。
固体のラー油 = 食べるラー油です。




