柚子胡椒と吹雪
トライン アンと村長の息子。鬼人族。
ビーゼル 魔王国四天王。外交担当。転移魔法の使い手。
ランダン 魔王国四天王筆頭。内政担当。
グラッツ 魔王国四天王。軍務担当。ミノタウロス族。
ホウ 魔王国四天王。財務担当。シールの妻の一人。
ゴール 大樹の村育ちの獣人族の男の子。
シール 大樹の村育ちの獣人族の男の子。
ブロン 大樹の村育ちの獣人族の男の子。
トウ 四村のマーキュリー種、万能船の船長。
うう、さすがに冬は冷え込むなぁ。
コタツから出にくい。
それを促すように、夕食はコタツに入っての鍋となった。
さらにコタツから出なくなる。
トイレに行くときだけだな。
夕食の鍋は山菜多目の鶏鍋。
柑橘系の調味料に合わせ、美味しくいただく。
俺のコタツで食事を一緒にしたのは、ルー、ティア、リア、それにフェニックスの雛のアイギス。
毎回思うが、アイギスはいいのか?
いや、器用にスプーンを使っていることではなく。
鶏鍋だぞ?
いや、まあ、肉食の鳥類は鳥類を食べているけどな。
これも何度もやっている会話か。
細かいことよりも、それを取ってほしい?
はいはい、柚子胡椒が欲しいのね。
どうぞ。
「あ、それ、私も気になっていたのよ。
次、ちょうだい」
ルーがアイギスに渡った柚子胡椒の載った小皿を求める。
「香りがよく、ぴりっとした感じがいいですね」
すでに使ったティアがそう言って柚子胡椒を褒めてくれる。
ありがとう。
リアが手伝ってくれたんだ。
「色々な食材と柚子の皮を合わせて頑張りました。
まあ、完成品はあれですけど」
リアが少し困った顔をみせたので、ルーにどうしたのと問われた。
「実はその柚子胡椒、胡椒を使っていないんです」
「え?
そうなの?」
「はい。
村長の求める味を追求していった結果、胡椒を使わない形で完成しまして。
やはり村長、名称を変更すべきだと思います」
「胡椒を使っていないのに、胡椒を名乗るのはどうなのかしら?」
リアとルーはそう言うが、俺の知っている柚子胡椒はこれなんだよなぁ。
少量でも胡椒を入れるべきだろうか。
うーん。
「まあまあ、味に文句はないわけですし、名称も原材料を秘匿していると思えばいいのではないですか?」
ティアのフォローで、胡椒の追加はなし。
名称もそのままになった。
鍋を食べ終わると、そのままコタツでまったり。
鬼人族メイドたちが淹れなおしてくれたお茶を飲みながら、雑談。
学園にはトラインを送る方向で話が進んでいる。
不安はあるが、大丈夫だろう。
山エルフから一人、同行するし。
うん、トラインとよく一緒にいる子。
できればそれに加えて大人を数人、送り込みたいところだが……
人手的に余裕があるのは天使族なのだが、天使族は魔王国での評判があまりよろしくないらしい。
五村やシャシャートの街ならともかく、王都では余計なトラブルを生みかねないからやめたほうがいいと魔王から言われている。
それで、ビーゼルやランダン、グラッツから人手を借りられないか相談している最中。
ホウにも話はしているけど、ホウにはゴールやシール、ブロンたちを頼んでいるから。
結婚して一人前とは認めているけど、どうしても村にいて暴れていたころを思い出すから。
うん、ウルザが村に来たころから暴れ出しただろ?
きっとウルザの影響だ。
いや、いい影響だとは思うよ。
たぶん。
そんなふうに雑談をしていると、フェンリルの一頭が俺の入っているコタツのそばにやってきた。
どうした?
コタツに入りたいのか?
違う?
吹雪?
明日の夜には大きい吹雪が来ると。
なるほど。
わかった。
今日はもう日が暮れているから、明日の朝から吹雪対策をすることにしよう。
情報、助かったぞ。
俺はフェンリルの頭を撫でる。
うーん、角がないから撫でやすい。
クロたちが拗ねるから、言わないけど。
さて、ルー、ティア、リア、聞いたな?
すまないが各所への連絡を頼む。
明日は忙しくなるぞ。
「ええ、まかせて」
「天使族総出で頑張ります」
「ハイエルフだって負けませんよー」
……
元気に返事したわりには、動かないんだな?
「えへへ……コタツから抜け出せなくて」
「も、もう少しだけ温まってから」
「ですね」
かまわないが、連絡だけは忘れないようにな。
「はーい」
翌日。
俺は屋敷の前で空を見る。
空模様が悪い。
フェンリルの言うとおり、夜には吹雪になりそうだ。
「村長。
牧場エリアの小屋、再点検しましたが問題ありません。
今日は動物たちを早めに集めます」
獣人族の女の子が報告してくれる。
そうだな。
昼過ぎには集めよう。
「村長、居住エリアの建物の再点検をしました。
問題ありません。
ですが、用心して何軒かの大きい家に人を集めるようにします」
ハイエルフの報告。
わかった。
宿も開放するから、使ってくれてかまわない。
屋敷に来てくれてもいいぞ。
「了解しました」
ハイエルフがそう言って居住エリアに向かうと、代わりにケンタウロス族がやってきた。
定期連絡だ。
「村長。
連絡ありがとうございます。
一村、二村、三村は吹雪に備えて行動を始めました。
食糧、燃料、不足はありません。
吹雪が春まで続いても持ちます」
頼もしいが、春まではさすがにこっちが困るなぁ。
ああ、わかっていると思うが、吹雪の最中は定期連絡を控えるように。
怪我や遭難に繋がる。
「承知しました。
天候の回復を待って、再開します」
頼んだ。
ケンタウロス族は俺に向かって敬礼し、屋敷のほうに向かっていく。
それを見送って、次にやってきたのは四村のトウ。
「村長。
四村への最終便が、もう少ししたら出る。
追加の連絡はないか?」
大丈夫だ。
しばらく万能船を降ろせないと思うから、四村でメンテナンスでもしてくれ。
「わかった。
だが、必要なら連絡をくれよ。
すぐに駆けつけるからな」
もちろんだ。
頼りにしているぞ。
「おうよ。
ああ、あと、温泉地も問題ないそうだ。
ただ、ヨルが吹雪でも使える兵器が欲しいって嘆いていた」
あいかわらずだな。
「あいかわらずだ。
まあ、それでこそってところもあるから強く言えん」
ははは。
「それで……最後の確認だが、アン姉さんやラムリアス姉さんは四村に連れていかなくていいのかい?」
妊娠している二人には四村か五村に避難するように言ったのだけど、絶対に動かないって言われた。
村の大事に、逃げたりはしないそうだ。
まあ、二人はまだまだ動ける状態だしな。
生まれる直前とかなら有無を言わさずに避難させたのだけど。
今回は説得できなかった。
だから、屋敷で一番安全な場所にいてもらうことになった。
うん、俺の部屋。
そうなった。
「余計な確認だった。
すまん」
いやいや、助かるよ。
トウを見送りながら、俺は空を見る。
アンやラムリアスの避難に合わせ、子供たちを五村に避難させる案が出たのだけど、それも却下となった。
以前、子供たちを五村に避難させ、トラブルになったことが原因ではない。
村の建物の頑丈さは証明されているし、大事のたびに逃げるのはよろしくないとルーやティアだけでなく、ドースからも指摘された。
大事に一丸となって当たることも大切だと。
たしかにそうかもしれない。
だが、だからといってそれで村に残った子供たちが怪我や最悪の事態になったらと思うと怖い。
ドースに言わせれば、晴れた日に歩いていても死ぬことはあるそうだ。
まあ、そうかもしれないけど。
妥協案として、屋敷の地下にルーの作った短距離転移門を設置した。
行き先は、大樹のダンジョン。
ここに行けば、五村に移動できる。
設置はしたが、まだ起動はしていない。
本当に最悪の事態に備えてだ。
これがなかったら、俺はアンやラムリアス、それに子供たちを五村に移動させていただろう。
いや、説得に負けていたかな?
俺だからなぁ。
おっと、気を抜いてはいけない。
吹雪に備えて準備しなければ。
柚子胡椒には、胡椒が入っていないそうです。
遅くなりました。
すみません。