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剣聖ピリカ


 私の名はピリカ=ウィンアップ。


 以前は剣聖を名乗っていたが、いまは控えている。


 剣聖に相応しい実力を持っていると思えないから。


 先代剣聖様や兄弟子たちは、まさに一騎当千だった。


 私はまだその域に達していない。


 まだまだ修行が必要だ。


 それに、剣聖の称号はいろいろと面倒を呼び込む。


 恩ある村長や五村ごのむらに迷惑はかけられない。


 剣聖は忘れる。


 それでいい。




 剣聖を名乗らなくなってから、少し身軽になった自分がいる。


 修行にも身が入る。


 着実に強くなっている確信もある。


 ガルフ師匠やダガ師匠にはまだまだ敵わないが、五村では有数と言えるだろう。


 五村の警備隊を任されたのは誇らしい。


 剣聖よりも、五村警備隊隊長のほうが嬉しいのは困ったものだ。




 自分の剣技の弱点は理解している。


 対人に特化し過ぎていて、それから外れる相手が苦手だ。


 対処としては、魔物や魔獣との戦いを増やすこと。


 それも強い魔物や魔獣と。


 幸いにして、五村の周囲の森では相手に困らない。


 定期的に森に入って、私は魔物や魔獣を狩り続けた。




 五村の警備と、魔物や魔獣狩りを続ける毎日。


 冒険者たちからも一目を置かれるようになり、弟子入りとまではいかないまでも私に剣を教えてほしいという者も増えた。


 それなりに幸せな毎日だ。


 こんな日が続けばいいと思う一方、まだまだ弱い自分が許せなくもある。


 正直、ガルフ師匠やダガ師匠に敵う気がしない。


 こんなことではいけないと思い、また剣を振る。


 一歩ずつ進むのだ。




 あるとき、人間の国からやってきた白銀騎士シルバーナイト青銅騎士ブロンズナイト赤鉄騎士アイアンナイトの三人と試合をすることになった。


 なんなく勝利。


 三人はこの程度の実力だったろうか?


 私が強くなったのか?


 いいや、自惚うぬぼれはよくない。


 そして、以前の自分を見ているようで恥ずかしいので、三人の指導にも力を入れた。


 青銅騎士がまた逃げた?


 では、今日は捕縛訓練にしよう。


 捕らえるのだ。




 五村に来て、何年目だろうか。


 ガルフ師匠やダガ師匠に剣が届くようになった。


 素直に嬉しい。


 そして、大樹の村の武闘会への参加を打診された。


 大樹の村の武闘会は、ガルフ師匠やダガ師匠ですらなかなか勝ち抜けない大会と聞いている。


 私が挑んでも勝ち目が薄いだろう。


 だが、実力者の腕をみるのは勉強になるはず。


 私はもっと強くなりたい。


 武闘会への参加を希望した。




 武闘会が開催される三十日前に、私は大樹の村に移動した。


 修行のためという名目だが、少しでも場の空気に慣れておきたい私のわがままだ。


 移動方法は転移門。


 転移門の存在は極秘だと、村長から言われた。


 もちろん、誰にも言わない。


 極秘事項を教えてもらえた信頼に、応えたい。



 デーモンスパイダーの幼生体やアラクネに出会ったことがあるので、村長が魔物や魔獣と仲良くやっているのは知っている。


 それに、村長の奥さんが、吸血姫や殲滅天使、ハイエルフ、鬼人族なのも知っている。


 五村の村長代理のヨウコさまが只者ただものではないのも知っている。


 なので覚悟はしていた。


 していたうえで、驚く。


 デーモンスパイダーの系譜、いっぱい。


 インフェルノウルフ、いっぱい。


 天使族やラミア族、巨人族がかわいくみえる。


 争おうという気すら起きない。


 圧倒的な戦力。


 修行の相手とか、そんなこと考えられなかった。



 ガルフ師匠に相談したら、森で兎を狙うようにとのこと。


 それ以外は危ないので、絶対に駄目だと言われた。


 兎ぐらいと思ったけど、まさかキラーラビットだとは思わなかった。


 何回も死にかけた。


 死んでいないのは、私の護衛についてくれたインフェルノウルフと、効能の高い薬草のお陰。


 護衛についてくれたインフェルノウルフには、感謝しかない。


 でも、できればもう少し早く助けてくれてもと思う。


 薬草に関しては、最初は治癒魔法のお世話になっていたのだけど、何度も何度もお願いすることになったので、村長が渡してくれた。


 村の外に持ち出すのは禁止と言われた。


 たしかにこの効能だと、争いが起きる。


 死者すら生き返るんじゃないかな。


 ははは。


 これ、世界樹の葉じゃ……ま、まさかね。


 心の奥にしまっておこう。




 猫ですら狩れる兎を、私はまともに狩れない。


 私は猫にも劣る。


 そう自覚させられる日々だった。


 だが、猫が私より優れているのなら、学べるということだ。


 私は猫たちに頭を下げ、教えをうた。




 しばらくして、アイギスと呼ばれる鳥が私の修行を手伝ってくれるようになった。


 アイギスも兎を狩れる。


 こんなに丸い鳥なのに……


 アイギスのそばにいるわしなぐさめてくれた。


 ありがとう。




 私は頑張った。


 頑張りに頑張りを重ねた。


 だが、成果がでない。


 気分転換と言っては悪いが、私は畑の収穫を手伝い、気分を変える。


 そのとき、私は村長に戦いについて聞いた。


「相手をよく見ることじゃないかな」


 ……


 戦う相手のことは、よく見ているつもりだ。


 なにせ命を奪ってくるかもしれない相手だ。


 見ていないはずがない。


 だが、それを改めて指摘されるということは……


 私はなにかを見ていないのだろう。




 ウィルコックスという名のエルダードワーフが、私に剣をくれた。


 私のために作ってくれた剣だそうだ。


「見ちゃおれんからな」


 そう言っていた。


 普段、使っている剣よりも少し長い。


 重心の位置も、先にある。


 武闘会が近いのに、剣を変える気はないのだが……


 妙にしっくりきた。


 その剣を持って、私は兎に挑む。



 いつもより戦えている気がする。


 剣のお陰かな?


 そして、いつもより戦えたことで私は気づいた。


 この兎。


 ひょっとして……



 兎との死闘には負けたが、その日の晩にガルフ師匠に聞いた。


「あの兎。

 私の動きを読んでますよね?」


「ん?

 ああ、そうだが……正確には読むというより見るだな。

 キラーラビットの眼は、未来を見る」


 ……


 それって、魔眼じゃないかな?


 しかも、未来を見るって……


 そんな相手にどうやって勝てと!


 叫びそうになったが、私はこらえた。


 ガルフ師匠やダガ師匠も、兎を狩ってる。


 猫たちやアイギスも。


 未来を見ているからと言って、必勝ではない。


 対処法があるんだ。


 考えろ。


 考えるんだ!




 村長の言ってた言葉は、正しかった。


 兎をよく見れば、わかった。


 私の動きを見て、動き出していることを。


 ならば、私の未来の動きで誘導することも可能。


 私は兎を狩ることができた。


 怪我もなく。


 護衛をしてくれているインフェルノウルフが驚いている。


 私も驚いている。


 私は昨日までの私とは違う。


 なにかに目覚めた感覚。


 私をおおっていた分厚い何枚もの壁を一気に破ったかのような。


 私は強くなった。


 いまなら、なんでも斬れる。


 無礼ながら、吸血姫のルーさまや殲滅天使のティアさまとも互角に。


 いや、互角以上にやれる気がする。


 これは自惚うぬぼれだろうか?


 自問に対して、応えてくれたのはマークスベルガークと名乗ったドラゴン。


「それこそ剣聖の称号に相応しき剣。

 剣聖を名乗ることを控えているそうだが、遠慮することはない。

 胸を張って名乗るがよい」


 ありがとうございます。


 私はマークスベルガーク殿に頭を下げ、剣聖であることを思い出した。


 そうだ。


 私は剣聖だった。


 そして、私のこの剣は村長に捧げよう。


 この剣は村長のために!


 決して、敵対することはありません。


 そう誓いたい。




 ともかく、剣を捧げるにしても武闘会でいいところを見せなければ。


 村長もきっと驚いてくれるに違いない。


 ふふふ。


 えーっと、私が参加するのは騎士の部で……


 あれ?


 エントリーされていない?


 確か、騎士の部だったはずだけど?


 ガルフ師匠の手違いかな?


 マークスベルガーク殿の進言で、違う部に変更?


 どこに?


 王の部?


 竜王とか、暗黒竜とか、吸血鬼の始祖とかがいる部?


 あ、ザブトン殿も参加なんだ。


 へー。


 えっと……


 魔王が私を手招きしていた。


 仲間が増えたって顔をしている。


 ……


 ま、負けるものかぁ!




 剣聖でも、勝てない相手はいる。


 それを理解した。


 先代剣聖も、勝てない相手には挑まないのが必勝だって言ってたなぁ。


 ……


 村長、こんな剣でも捧げていいですか?





覚醒ピリカの強さは、魔王には勝てませんが、いい勝負はできます。

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― 新着の感想 ―
額に稲妻疾ったり、種が割れるようになった?
ピリカはウルザに教えを乞えば良かった用な。 英雄女王直伝なのに。
[一言] 戦士ではなく、騎士にエントリーもビックリ。 そして、覚醒したからと王の部とは
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