獣人族の男の子の学園生活 初日?
僕の名はゴール。
獣人族の男。
ハウリン村で生まれたけど、育ったのは大樹の村。
同じく獣人族の男で、同じ境遇のシール、ブロンと三人セットでよく扱われる。
年齢が近いから三人兄弟みたいに思われることもあるけど、兄弟じゃない。
だけど、兄弟以上の繋がりがあると思っている。
そんな僕たちは、魔王国の王都に来ていた。
ガルガルド貴族学園に入学する為だ。
ガルガルド貴族学園に限らず、魔王国の学園に入学年齢制限はない。
魔王国で生活する者の大半が魔族であり、魔族は個々に成長が違うからだ。
なので、生まれて一年で入学する者もいれば、二百歳を超えてから入学してくる者もいる。
そんな学園なので、年齢による上下はない。
あるのは成績による上下だけ。
“学術”“戦闘”“魔法”“生活”の四つの項目と、その総合成績で上下が決められる。
それが魔王国にある学園だ。
その中で、ガルガルド貴族学園だけは少し特殊になる。
基本は普通の学園と一緒だけど、この学園に通うのは魔王国の貴族かその関係者。
なので、貴族社会の上下が適用される。
「おや、こんなところに見慣れぬ平民たちが。
来る学園を間違えているのではないかしら?」
学園に入り、行き先がわからずに困っていた僕たちに、金髪をクルクルに巻いた偉そうな女が言い放った。
年齢は……僕たちと同じぐらいかな?
女の言葉に、シールが反応。
シールが動く前に、僕は後ろから押さえ込んだ。
「待て待て」
「なぜ止める?
あの女、明らかに僕たちを馬鹿にしているぞ」
「忘れたか。
フラウ先生やユーリ先生が教えてくれたことを」
「ん?
……あ、ああ、そうか」
僕たちは、この学園に通う前に、学園の卒業生であるフラウ先生やユーリ先生、あと文官娘衆のお姉ちゃんたちに色々と教えてもらった。
特に貴族社会のこと。
ユーリ先生に教えてもらったことと照らし合わせると、今の彼女の発言はこうなる。
「おや、こんなところに見慣れぬ平民たちが。
来る学園を間違えているのではないかしら?」
訳)あら、どうしました?
道に迷っているなら教えますよ。
「……危なかった。
いきなり殴るところだった」
だから止めたんだよ。
極力、揉めるなって言われているしね。
「おい、女。
教師のいる場所に案内しろ」
偉そうな彼女にそう言うシールを、後ろから殴った。
「馬鹿か。
先生たちとの特訓を忘れたのか」
「そ、そうだった。
すまない女。
言い直す」
シールは自分の服装を改め、髪形をチェック。
そして軽く微笑みながら口を開く。
「これはこれは美しいお嬢さん。
貴女との出会いは、僕の人生で一番の出来事だ。
このまま永遠に貴女と語り合いたいのですが、運命がそれを許さないようです」
訳)いやー、助かったよ。
悪いけど、偉い人のいる場所に案内してくれない?
「あら、平民にしては口が回るようね。
気分は悪くないけど、目障りよ。
出直しなさい」
訳)申し訳ありませんが、時間がなく案内はできません。
正門近くに案内できる者がいると思いますので、そちらに聞かれてはいかがですか?
「それはつれないことを。
ですがこれ以上、嫌われたくありません。
お言葉通り、出直してまいります。
またの出会いを期待して」
訳)正門? わかった。
ありがとう。
「さっさと去りなさい」
訳)早くした方が良いですよ。
先生方が、なにやら忙しそうにしていましたから。
そう言って、偉そうな女は去った。
「今ので大丈夫だったか?」
「多少、イントネーションが怪しかったが、問題ないだろう。
照れるのは克服できたんだな」
「本番に強いって言っただろ」
「そうだった」
「しかし、貴族の言葉って難しいな」
「ああ。
立場や知り合いかどうか、時間帯や場所によっても変化するからな」
難度が高い。
今後、やっていけるのか少し不安になる。
学園を警備する衛士小屋が正門の脇にあった。
見落としていたようだ。
そこで道を聞くと、衛士の一人が案内を申し出てくれた。
助かる。
ガルガルド貴族学園は、広大な敷地を持つ。
なんでも近くにある山や森も学園の敷地らしい。
校舎は十七棟。
大小あるけど、大体の棟が村長の屋敷の半分の半分の半分ぐらいかな。
一番大きいので、村長の屋敷の半分の半分ぐらいだ。
寮は三棟。
こっちは大きい。
村長の屋敷の半分ぐらい。
教師寮、男子寮、女子寮と案内してくれた衛士が教えてくれた。
その寮の横に、一軒家がずらっと……
大きい家だ。
リアお姉ちゃんたちの家ぐらいかな?
「あれは?」
「寮暮らしができない生徒用の借家です」
「あの家で一人ぐらし?」
「そうですね。
ですが、使用人は雇っていますよ。
家や使用人が必要でしたら、専用の受付がありますのでそちらでお願いします。
ただ、家に関しては予約制なので今からだと間に合わない可能性がありますが……」
「僕たちは、寮暮らしの予定ですので」
「そうですか。
失礼しました。
こちらの棟になります」
衛士の案内で、僕たちは学園長のいる棟に入り、学園長の部屋の前に到着。
「では、私はこれで」
衛士が僕たちに敬礼。
去ろうとしたところで、ブロンが衛士を引き止める。
「ご苦労。
また、何かあったら頼む」
「はっ」
ブロンが衛士に銀貨を渡すのを見て、僕はしまったと反省。
そうだった。
忘れていた。
衛士は学園の警備が仕事。
衛士に警備以外の仕事をさせた場合は、チップが必要。
フラウ先生に強く言われていたのに。
それを忘れるなんて。
僕は緊張しているのだろうか。
大丈夫だと思っていたのに。
悔しい。
そしてブロン、助かったよ。
そうブロンに言うと、ブロンがふと気付いたように頭を抱えた。
どうした?
「失敗した。
今の場合、チップは大銅貨で良かったんだ」
「え?
あっ」
ブロンが渡したのは銀貨、大銅貨百枚の価値がある。
「あー……やっちまったな」
シールがブロンの肩を叩く。
「うわぁ。
駄目だぁ。
へこむ」
チップで渡したお金を、返せとは言えないし、言っちゃいけない。
そこはぐっと我慢するところだと、フラウ先生に教えられている。
「まあまあ、ブロン。
仕方がないって。
僕たち、お金にあまり触らないから」
預かっている通貨は、大半が銀貨だ。
つい、それに手がいってしまったのだろう。
一枚の損失ぐらい……駄目だな。
村の大事なお金だ。
無駄に使うことは許されない。
「ブロン。
失敗は構わないが、そのままにしてはいけない。
学園に来る前に言われた、村長の言葉だ。
忘れていないな」
「うん、覚えている」
「この失敗は受け止めよう。
そして、繰り返さない」
「わかった」
「シール、さっきの彼女との会話の件もだぞ」
「殴ろうとしたところな。
わかってる。
あと、学園で行き先がわからなくなった事もか」
僕たちには、重大な使命がある。
それは偵察。
僕たちの後に村の子供が入学した時、失敗させない為だ。
特にアルフレート、ティゼル、ヒイチロウ。
ルー様、ティア様、ライメイレン様から強く言われている。
村長はあまり気にしなくて良いと言っていたけど、そうはいかない。
僕たちに与えられた使命。
立派に果たしてみせる。
……
「とりあえず、失敗を記録するのは後にして学園長に挨拶するか」
僕たちの学園生活は、始まったばかりだ。