十四年目の春
春。
目覚めたザブトンが作った衣装を着て、俺は四メートルの櫓の上に設置された椅子に座っていた。
素直に座ったわけじゃない。
色々と抵抗した。
だが、駄目だった。
俺が中止を匂わせるたびに、ザブトンの子供たちやクロの子供たちが、中止ですか? 本当に? という顔で見てくることに耐えられなかった。
あと、山エルフたちが櫓の高さが低いから不満なのだと思って、四メートル、六メートルサイズの櫓を建設し、十メートルサイズの櫓を建設しはじめたことも大きい。
今の段階で受け入れたほうが、被害が小さいと思ったのだ。
そして、現在。
行進が行われていた。
先頭はクロ。
ザブトンに用意してもらったのか、白地に金の装飾を纏っている。
なかなか凛々しい。
その後ろにユキが続く。
ユキはクロの子供たちを四列で率いている。
一糸乱れぬ行進だ。
この行進の為に、各地から呼び寄せたのかな。
クロイチ、クロニ、クロサン、クロヨン、クロゴ、クロロク、クロナナ、クロハチの姿がみえる。
その次に、ザブトンの子供たちが続く。
半畳サイズ、雑誌サイズのザブトンの子供たちが種類別に群れを作って行進している。
拳大のザブトンの子供たちは、二畳サイズのザブトンの子供の上に乗って参加。
移動速度の問題だろう。
その拳大のザブトンの子供たちは、大き過ぎる旗指物を支えている。
次に、リアが率いるハイエルフたち。
全員、手で持てるサイズの弦楽器や吹奏楽器を持ち、明るい音楽を奏でている。
妊娠中の者たちも参加したがったが、不参加。
これだけは俺が強く言った。
ハイエルフの次が、リザードマン。
このパレードの為に、急いで帰ってきたダガが率いている。
リザードマンたちが持つのは槍。
全員、同じ槍を持って、掛け声と共に掲げている。
その後を、ドノバンが率いるドワーフたちが続く。
鎧を着込み、手には斧。
なんだかこれまでで一番、ドワーフらしい格好をしている。
ちょっと感動。
ドワーフたちに少し遅れて俺の櫓になる。
俺の櫓の動力は人力。
なので櫓には多数のロープが取り付けられている。
そのロープをケンタウロス族たちが引き。
櫓が転倒しないように、ミノタウロス族が櫓を取り囲んでいる。
ミノタウロスたちが櫓を取り囲む為、初期に作られた三メートルサイズの櫓は使用不可となった。
別に俺とミノタウロス族が近くても良いじゃないか。
俺はそう言ったのだが、ミノタウロス族たちの役割が決まった瞬間に山エルフたちがうっかり壊したので一番低いサイズが四メートルとなった。
あれは本当にうっかりだったのだろうか。
櫓には、俺以外にフローラ、ラスティ、フラウ、ヨウコ、聖女のセレス、そして鬼人族メイドのアンが乗っている。
これだけの人数が乗っても大丈夫な大きさということだ。
ルーやティアも同席したがっていたが、妊娠中なので不参加。
そこは譲れない。
俺の櫓の次が、獣人族。
セナが率いている。
全員、同じ剣と盾を持っている。
そこそこ重いと思うのだが、誰も苦にしていない。
こちらにも、急いで帰って来たガルフが参加している。
ガルフの息子の結婚で揉めたらしいが、詳細は後ほど。
獣人族の後ろに、俺の櫓より少し小さい櫓が三基。
これらもケンタウロス族が引き、ミノタウロス族が支えている。
前の櫓にはアルフレートと鬼人族メイドが乗っている。
アルフレートの格好は、俺よりも派手だ。
嫌がっていなければいいが……
中の櫓にはティゼルと鬼人族メイドが乗っている。
ティゼルは比較的大人しい格好。
俺もそれぐらいが良かった。
後の櫓にはウルザ、ナート、グラル、ヒトエ、獣人族の男の子たち。
それとハクレンが乗っている。
各自、これでもかって着飾っているな。
獣人族の男の子たちは、その格好で動けるのか?
微笑ましい。
ハクレンは教師役というか子供たちの見張り役。
テンションが上がって落ちそうだもんな。
ハクレンは俺の櫓と少し悩んだ後、子供たちの櫓を選んだ。
愛情ではなく、心配が強かったと信じたい。
三基の櫓の後ろを、ヤーが率いる山エルフたちが行進する。
手にするのは旗指物。
前を行くザブトンの子供たちの旗指物は統一されていたが、山エルフたちの持つ旗指物は少しずつ模様が違う。
何か意味があるのかな?
山エルフの後ろにニュニュダフネとハーピー族が続く。
一応、列らしいものは形成されているが、他の者たちに比べると少し乱れている。
だが、頑張っているのはわかるぞ。
あと、ニュニュダフネはともかく、ハーピー族は飛んでも良いと思う。
そしてクズデンに率いられた悪魔族と夢魔族。
悪魔族はキッチリとした軍装。
夢魔族は……子供の教育に悪そうな格好をしている。
ここだけサンバカーニバルのようだ。
派手に音楽を鳴らし、踊りながら行進している。
その後ろに並ぶベル、ゴウ、アサが少し恥ずかしそうだ。
続くのは三人の死霊騎士。
土で作った肉体に合わせた鎧を着込み、剣を振り回しながら行進している。
知らない人が見たらイケメンが剣舞をしているように見えるんだろうな。
その後ろに長であるジュネアに率いられたラミア族。
さらに巨人族が続く。
上空にはキアービットを中心とした天使族が編隊飛行。
綺麗なV字を作っている。
煙を出して軌跡を作るのは誰のアイディアだろう?
ああ、天使族の祭りとかでやっているのか。
最後尾がザブトンと、ザブトンの上に乗るフェニックスの雛であるアイギス、酒スライム、そして猫。
ザブトンが最後尾で良いのかと思ったけど、こういった行列の最後尾は最後尾で大事らしい。
ザブトン本人も最後尾で問題ないとのことなので、任せた。
この列の順番は俺が決めて任せた形になっているが、種族代表が頭をつき合わせて決めた。
俺はクジで順番を決めたらどうだと提案したのだが、その提案の後、会議からやんわりと追い出された。
なぜだ。
いや、楽だけど。
今回、不参加の一村のジャックたちは子供の世話だなんだで無理だった。
涙を流して悔しがらなくても……
行進は屋敷前からスタートし、南に移動。
その後、大樹の村を時計回りに一周。
この行進。
見学者が少ないのが救いだな。
俺はそう思いながら、蜂や妖精に手を振った。
あ、妖精女王がウルザのいる櫓に乱入した。
そこにはハクレンが乗っているのに。
各地を見張っているクロの子供たち。
いつもありがとう。
まあ、今日一日だけのことだ。
行進が終われば、村の南にある舞台近くで宴会。
食べて飲んで楽しもう。
そういえば、冬の間に消費しきれなかった肉があったな。
消費してしまいたい。
行進に参加できなかったジャックたちの為に、一村でもう一回やることになった。
いつの間に?
俺が決めた?
……
飲み過ぎていたか。
えっと……わかった。
二言はない。
やろう。
だが、規模は小さくだ。
素直に頷いてくれて嬉しい。
いや、当然だとは思わないぞ。
規模を縮小して申し訳ない。
ん?
どうした?
ミノタウロス族の代表であるゴードンと、ケンタウロス族の代表であるグルーワルド、それに悪魔族代表のクズデン。
……
違うな。
二村代表のゴードン、三村代表のグルーワルド、四村代表のクズデンだ。
うん、わかった。
二村、三村、四村にも子供は生まれているし、その子供たちの世話で参加できない者もいる。
順番にな。
あと、四村は場所の問題から、さらに規模が縮小されるが……
すまないな。
各村一日ずつ。
結構な日数、櫓のお世話になった。
「村長。
五村は?」
ヨウコとセレスがこっちを見ている。
……
五村では見物人が多いことが予想される。
俺は自分の格好と、この櫓を改めてみる。
うん、ごめん。
五村は無しで。
セレスは残念そうだったが、ヨウコは笑って許してくれた。
「五村は、貢献が足りないということだな」
ヨウコ、違うぞ。
その理屈だと、いつかやらなきゃいけなくなるじゃないか。
説明で終わってしまった……
書き忘れ種族がいないことを祈る。