酔っ払い村長
ガルフの息子の幼馴染は、無事にというか大歓迎でガルフの奥さんに受け入れられ、そのまま結婚が決まった。
ガルフの了承はないけど大丈夫なのかなと思ったけど、大事な冬に家を空けている夫に文句を言う権利はないとガルフの奥さんに笑顔で言われた。
……
ガルフは、五村から少し離れた場所で絶賛修行中。
今すぐ戻ってきた方が良いんじゃないかなと思う。
ガルフの息子と幼馴染は、今年の冬は宿で寝泊りする。
ガルフの奥さんが褒賞メダルを使ってまでの希望だ。
これは嫌っているのではなく、気を使ってのこと。
いや、はっきり言えば孫を期待してのことのようだ。
頑張れ、ガルフの息子。
ルーが作った薬を少し譲ろう。
大丈夫。
怪しい薬じゃ……怪しい薬だな。
うん、まあ、そういった類の薬だ。
察してくれ。
そしてこれが君を助けるはずだ。
おっと、いきなり飲むんじゃないぞ。
いざという時のために取っておくんだ。
俺との約束だぞ。
心配し過ぎかもしれないが、宿に住んで三日しか経っていないのにガルフの息子がやつれているようにもみえるからな。
あと、悩みがあったら俺かガットのところに行くように。
溜め込むなよ。
そう、溜め込んではいけない。
屋敷にて、俺は女性陣の前で宣言した。
話し合おう。
子供の数は十分だと思うんだ。
話し合った結果。
獣人族の娘が二人、新たに妊娠した。
なぜだ!
やることをやったからだ。
意思の弱い自分が悲しい。
雪が降りはじめた。
温かい風呂に入りながら見る雪は格別だ。
なぜか俺の風呂に付いてきた酒スライムが、湯船に浮かべたタライの中でまったりしている。
その横には酒の入った竹コップ。
……
俺にも少しもらえないだろうか?
すまないな。
ははは。
素直にくれるってことは、勝手に持ってきた酒なんだな。
わかった。
一緒に謝ろう。
だからもう一杯。
長風呂をしてたら、クロが心配して様子を見にきてくれた。
ありがとう。
ついでだ。
身体を洗ってやろう。
ははは。
遠慮するな。
身体を綺麗にしないとアンに睨まれるぞ。
ユキだって綺麗なほうが喜ぶんじゃないか?
最近は外に出ていないから大丈夫?
ははは。
誰しもが一度は思うんだよなぁ。
だが、ジッとしていても身体は汚れる。
諦めて洗われるのだ。
はははははは。
うん、少し酔ってる。
綺麗になったクロと、コタツに入る。
酒スライムはいなくなっていた。
後でちゃんと謝りにいくからな。
コタツの上にはプチトマト。
外で少し凍らせたから、風呂で温まったからだに心地良い。
プチトマトを思いついて育てたら、トマトの発育が悪いとクロの子供たちが大騒ぎしていたな。
こういう品種だと説明するのが大変だった。
口のまわりを汚さずに食べられるので俺は推奨したいのだが、クロたちは普通のトマトの方が好みらしい。
と言っても、食べないわけではない。
クロが口を開けて待っているので、プチトマトを三つほど放り込む。
鬼人族メイドたちは、切らずに出せるから手間が減っていいと言っていたな。
料理の彩りとしては活躍しそうだ。
プチトマトがメインの料理って何かあったっけ?
……
思いつかない。
酒が入っているからかな。
それともそんな物はないのか。
ん?
いつの間にかコタツの上にミカンの入ったカゴが置かれていた。
ありがたい。
そろそろミカンが欲しいと思っていたんだ。
そのミカンの向こうに、いつの間にかコタツに入っている妖精女王。
干し芋をかじっている。
……
こら、コタツの中で足をくすぐるんじゃない。
ん?
コタツの中に子猫たちもいるのか?
危ない所だった。
子猫たちは俺が相手でも遠慮なく攻撃してくるからな。
よしよし。
四匹の子猫が妙に甘えてくる。
理由は簡単。
母親である宝石猫のジュエルが妊娠したからだ。
最近、ジュエルが大人しいと思っていたら、そういうことね。
別に構わないが、毎年は勘弁して欲しいと思う。
だが、生まれてくる子猫は楽しみだ。
大っぴらには言わないけどな。
自分の子より、猫の子の方が楽しみですかそうですかと笑顔で言われたら困る。
おっと、俺の思考が漏れたのか子猫たちが怒っている。
いやいや、新しい子猫が生まれてもお前たちの方が大事だぞ。
ははは。
お前たちはお姉ちゃんになるのだから、しっかりとな。
それで、妖精女王。
今日はどうしたんだ?
「普通に遊びに来ただけ。
でも今は勉強中だって追い出された」
鬼人族メイドが、妖精女王に温かい紅茶を渡す。
砂糖たっぷり……ではなく、ハチミツたっぷりの紅茶のようで甘い香りがこっちにまでする。
俺の紅茶は、もう少し甘さ抑え目で……
あれ?
俺の分は?
え?
さ、酒を盗んだのは酒スライムで俺じゃないぞ。
いや、確かに俺も飲んだけど……あ、うん、俺のものだけど、管理している者に黙って取ったら駄目だよな。
謝りに行くのが遅れて悪かった。
……
温かい紅茶、美味しい。
ふう。
俺は紅茶を飲みながら、妖精女王がいるのだったらとリバーシに誘った。
めちゃくちゃ強かった。
俺とクロ、子猫たちが知恵を結集しても勝てなかった。
さすがだ。
そしてクロ。
クロヨンを呼ぶのだ。
いいんだ。
勝利のためには、手段を選ばない。
俺にプライドなどない。
うん、やっぱり酔ってる。