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一村住人 ブルーノ


 俺の名はブルーノ。


 実はそこそこの良い家に生まれたのだが、事情があって飛び出した。


 計画もなにもなかったから、その後は路上生活をすることになり、辛かった。


 しかし、その生活があればこそ妻とも出会えたし、一村いちのむらに移住することもできた。


 だから全てを受け入れている。


 今の俺は一村いちのむらに住んでいるただの男。


 妊娠している妻の為にも頑張らねばと思っている。




 そんな中、秋の収穫が終わり、武闘会の時期がきた。


 今年も、大樹の村に集まる。


 妻には安静にして欲しかったが、絶対に行くという妻の言葉に俺が折れた。


 知らなかったが、妊婦でも多少の運動は問題ないらしい。


 暴れるのは論外だが、過保護すぎるのは逆によくないと出産経験のあるハイエルフに怒られた。


 ただ、馬車に乗るのは止めた方がいいので、歩きで移動する。


 さすがに二人で移動はせず、同じように歩きで移動する者たちでまとまった。


 俺の妻と同時期に妊娠した者も一緒だ。


 妻のように、絶対に行くと言ったのだろうか?


 出産はまだ先だが、お腹が目立つポーラは留守番になった。




 大樹の村は、いつものように多種多様な種族が溢れ返っている。


 それにも驚かなくなった。


 驚いていては生活できない。


 一村では、インフェルノウルフやデーモンスパイダー、ニュニュダフネ、ハーピーたちと一緒に暮らしているのだしな。


 新しい種族がいるかなと楽しむ余裕さえある。


 そういえば、フェニックスの雛がいるのだった。


 一度、一村に来たらしいが、俺は仕事中だったので見られなかった。


 是非、見たい。



 だが、慌てない。


 まずは村長に挨拶だ。


 先行で移動した者たちはもう挨拶しただろうから、歩き組だけで挨拶か。


 少し緊張する。


 俺が歩き組の代表だからだ。



 フェニックスの雛は、村長の頭の上にいた。


 おお、なんと凛々し……想像していたより少し丸いな。


 雛だからだろうか?


 福々しい姿と表現しておこう。


 村長へ挨拶した後、フェニックスの雛にも挨拶しておく。



 村長が妊婦たちを気遣ってくれた。


 言葉だけでなく、なんと会場に妊婦用のスペースを用意してくれていた。


 広く、清潔。


 専用のトイレや、ベッドもある。


 その上で、悪魔族のベテラン助産婦が数人、近くに待機してくれる。


 ありがとうございます。


 ところで……見慣れぬ女性が横にいますが?


 誰ですか?




 俺は妻と話をする。


 話題は、紹介された見慣れぬ女性。


「妖精の女王って言ってたな」


「言ってたわね」


 新しい種族に驚かないと思っていたが、まだまだ驚く余地があるのだと思った。


 いや、自分の想像力がとぼしいだけか。


 もっと豊かに。


 そして、もっと柔らかく考えよう。


 神様が移住してきたって驚かないぐらいで。


 ん?


 遠くで猫の鳴き声が?


 あ、舞台に猫がいる。


 四匹の猫によるバトルロイヤルっぽい。


 てしてしと戦う様子は微笑ましい。


 あ、魔法使った。


 結構、凶悪な魔法を使うな。


 まあ、この村にいるから普通の猫じゃないか。




「ところで貴方?」


 妻が聞いてくる。


「妖精の女王には、ちゃんと願いましたか?」


「そりゃもちろん」


 妖精の女王。


 人間の国では妖精の女王は子供の守護者と言われている。


 重労働をさせられている子供を助けたり、子供の病気や歯の生えかわりに関することが有名だ。


 だが、まだ子供がいない俺たちが妖精の女王に願えることがある。


 それは安産。


「村長は俺たちの為に妖精の女王を村に呼んでくれたのかな?」


「そうかもしれません。

 ですが、大変でしょうね」


 妻の困った顔に、俺は同意する。


 妖精の女王は自由奔放でイタズラ好き。


 そうそう、同じ場所に留まることはない。


 留めるには、子供と甘い物と遊びを提供する必要がある。


 逆に追い払うのは簡単。


 あがめれば、嫌がって出ていく。


 まあ、それらは噂かもしれない。


 だが、村長に感謝だ。


 あと、一村に戻ったらポーラに大樹の村に行くように言おう。


 妖精の女王がいると知ったら、驚くに違いない。




 夜。


 いつも通り、武闘会の熱気をそのままに、騒がしい夜だ。


 妻は先に宿で眠っている。


 妊婦に徹夜なんてさせられない。


 今回、俺は一般の部に出場して勝利した。


 酒がすすむ。


 ん?


 なんだ?


 一頭のインフェルノウルフが、騒いでいる。


 ……


 クリッキー?


 マルコスとポーラの家の見張りをしているインフェルノウルフだ。


 今日も一村にいるポーラと一緒にいるはず……


 酔っていた頭が冷えた。


「村長!

 ポーラになにかあった!」




 一村で、新しい生命が誕生した。


 急な出産でポーラも赤ちゃんも危なかった。


 助かったのは、ポーラの為にハイエルフが二人、一村に残ってくれていたことと、武闘会に悪魔族のベテラン助産婦が来ていたこと。


 そして、妖精の女王。


 悪魔族のベテラン助産婦の言葉だと、母子ともに危なかったのが、妖精の女王が一村に来た途端に回復したそうだ。


 ありがとう。


 崇めるのは駄目だから、心の中で感謝の言葉を繰り返した。




 そして、色々と振り返って納得した。


 村長は妖精の女王のイタズラに対して叱っていたが、他の者たちは放置していた。


 ルー様やティア様ですら、村長に任せっぱなしだった。


 来賓として来ていたドラゴンや魔王に対してイタズラしても、ドラゴンや魔王も本人には怒らなかった。


 なぜだろうと思っていたが……


 こういった恩恵があるなら、許容しようという気にもなる。


 だとすれば、村長はなぜ叱っていたのか?


 いや、結構、甘く叱っていたな。


 じゃれていたと考えるべきか。


 妻を多く持つ村長だが……まさか、妖精の女王と。


 いやいや、さすがに想像力が豊かすぎるな。


 ははは。





 冬に入ってから、ルー様に教えてもらった。


「妖精の女王は、出産以外にも頼りになることがあるのよ」


 子供の病気や歯の生えかわりに関してではなく。


「妖精の女王にイタズラされた村では、妊娠する者が増えるの」


 なるほど。


 だからなのですね。


 大樹の村で、ルー様、ティア様、そして二人のハイエルフ、三人の山エルフが妊娠した。


 めでたい。



 で、その……これはなんですか?


 薬?


 妖精の女王のエキスから作った?


 え?


 あ、夜の……あ、あー。


 妻が出産した後、話し合ってから使わせていただきます。



 あと、妖精の女王は、十日に一回ぐらいの割合で大樹の村に来ているらしい。


 だとするなら村長にこそ、この薬が……全然、必要なかったと。


 さすがです。




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― 新着の感想 ―
気づいてなかったとはいえ、武闘会参加した女性陣は…
一村にはたしか妖精とのハーフさんがいましたよね⋯全然ありえますね⋯!(ง •̀ω•́)ง
優しさが事件を引き起こすこともあれば、多くの人を救うことにもなる。 まさに物語の主人公ですね。
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