技術
ボールベアリング。
軸などに使われる装置で、摩擦を減らすことで回転しやすくなる。
馬車に使おうと考えた。
が、駄目。
かなり駄目。
まず、ボールベアリングは、その名からわかると思うがボールが必要。
軸の周囲にボールを複数設置する必要があるのだが、そこに重量がかかるので、かなり硬くないといけない。
しかも、そのボールは全て同じ大きさでないといけない。
現在の製鉄技術では無理。
ボールベアリングの木製サンプルを、俺が【万能農具】で作ったので気付かなかった。
「凄く回るのに残念です」
山エルフが、俺が作った木製のボールベアリングサンプルをくるくると回転させている。
何かそれで玩具ができないかと思ったが、何も思いつかなかった。
自分の発想力のなさにガッカリする。
次に、馬車の車軸に関して考えた。
現在、一般的な馬車の車輪は、車軸に固定されており、その車軸ごと回転する。
利点は、作るのが簡単。
欠点は、車体の揺れなどをそのまま車軸が受けるので、車軸にダメージが蓄積しやすい。
よく折れるらしい。
まあ、車体の底に車軸を固定する穴が二つあり、そこに車軸を通しているだけなので、車体がちょっとバランスを崩せばそのままダメージが車軸にいくだろう。
それに、道も平坦な場所ばかりではない。
デコボコした道の方が多い。
車輪の左右の高さが違うだけで車軸にダメージがいくのだから、そりゃ折れると思う。
以前から山エルフたちと作っているサスペンションは、車体と車軸を固定する場所と分離し、その間に設置している。
なので揺れに関してもなのだが、車軸が長持ちすると好評。
しかし、折れないわけじゃない。
では、どうするか?
車軸を車体に固定し、回転場所を車軸と車輪の間にする。
ここに先のボールベアリングが採用できればよかったのだが、普通のベアリングでも構わないだろう。
「村長、それだと折れる場所が車輪部分になるだけで、ダメージはあまり変わらないのでは?」
「慌てるな。
メインはこれだ」
車軸を半分に切る。
そして、車体の中央底に、上下に可動するように固定。
車輪に近い部分にサスペンションを搭載する。
どうだ?
「え?
これだと……あ、左右の車輪が独立することで、荒れた道路でも車軸にダメージが通り難い」
これまで、車体の揺れを減らすことを重視してサスペンションを使っていたが、これは左右の車輪を独立させ、地面に車輪を押しつけることに使う。
これでも揺れは抑えられるし、問題はあるまい。
「さすが村長!
天才!」
はははははっ。
元の世界の知識だけどな。
……
失敗。
片方の車輪に、車体全部の重量が掛かって、車輪が外れた。
「大樹の村で作った試作馬車だと大丈夫だったのに……なぜだ!」
死の森の木は、丈夫だそうだ。
そうなのか。
いや、前々からそう言われていた気もするが……
ともかく、大々的に広める前に、五村で作ってみてよかった。
改善。
なに、車軸を頑丈にすればいいんだ。
車軸を鉄製に変更。
……
鉄って簡単に曲がるんだな。
もっと硬いものかと思っていた。
あと、重い。
色々やった結果。
大樹の村でオール木製の新型馬車が一台、稼動するに留まった。
技術は積み重ね。
一朝一夕にはできないと学んだ秋だった。
一方、サンプルに作ったボールベアリングは子供たちに人気を得た。
「回るだけだろ? あれが面白いのか? ……わからん」
わからないが、希望されるので作った。
「パパ、ありがとー」
ご満悦。
畑を広げたので水が不足気味だ。
井戸はあるので枯れるようなことはないが、ため池の水位は下がっている。
貯まる水量より、出て行く水量が多いのだろう。
このままではいけない。
対策を考えねば。
……
まあ、近くに川があるのだ。
シンプルにいまある水路を広くするか、新しい水路を設置すれば問題は解決する。
昔と違って、今は人の手がある。
ああ、ザブトンの子供たちの手だと不満というわけじゃないぞ。
お前たちも手伝ってくれたよな。
今回も手伝ってくれるのか?
ははは。
よし、頼んだぞ。
川からため池に向かう新しい水路を作ることになった。
今ある水路の横に、そのまま並ぶように作る。
竹があるので竹製も考えたが、腐敗を考えれば前回と同じく土で作るのが無難だろう。
「やるぞ!」
「おおっ!」
ハイエルフ、山エルフ、ドワーフ、獣人族、リザードマンが集まり、作業を開始。
ルーは魔法で、ティアはゴーレムを生み出し、頑張ってくれた。
ザブトンの子供たちも土を運ぶ手伝いをしてくれる。
ありがとう。
五キロの水路は、十日ほどで完成した。
新しい水路からため池に水が注ぎ込まれる。
早い。
俺が【万能農具】を使うことに慣れたのもあるだろうけど、やはり早い。
これもみんなの努力のお陰だろう。
感謝は形にせねば。
新しい水路の完成祝いとして、ため池近くでバーベキューを行う。
乾杯。
おっと、肉だけでなく、野菜も食べるように。
え?
トマトを焼くのか?
いや、焼いても美味いだろうが……
じゃあ、その横でアスパラガスを一緒に焼いてくれ。
ああ、ちょっと作り過ぎてな。
食べなければいけないんだ。
お前も食べていいぞ。
「村長、村長」
「ん?
どうした?」
「えっと……今、気付いたのですけど」
ハイエルフの一人がため池を指差す。
なんだ?
……
ため池に魔物でも流れ込んだかと思ったが、そうじゃないようだ。
「どうしたんだ?」
「水位が」
水位?
ため池はそれなりに大きい池だ。
そんなに簡単に水位が上下したりしない。
だからこそ、水位が下がったのを問題にしたのだ。
「さすがに水位が上がるのに、数日は掛かるぞ」
「いえ、そうではなく。
水の使用量が増えたとはいえ、流れ込む水量に比べ、出て行く水量が少ないというか……出て行く水路も作らないと駄目なんじゃないでしょうか?」
……
……………………
あ。
バーベキューの後、俺はため池から川に向かう水路を作ることになった。
これは掘るだけ。
土運びなどの手伝ってもらう作業はあるが、メインは俺。
タイムリミットは、ため池が溢れるまで。
村を水浸しにしない為にも、頑張らねば。




