ex.山賊
「親分。
獲物が来ましたぜ」
「そうか。
どんなヤツだ?」
「農村の荷馬車っぽいですね。
護衛もいません。
楽勝ですよ」
「パスだ」
「え?
なんで?
どうして?」
「お前なぁ。
あんなショボイのを狙ってどうするんだ?
リスクに合わないだろ?
それに、農村ってのは、大地を相手に戦っている方々の集まりだぞ。
敬意を払え、敬意を。
って、農村の馬車、坂道で困っている。
手伝うぞ」
「え、えーっと……」
「さっさと来いっ!」
「は、はい!」
「親分、獲物です!」
「今度はどんなのだ?」
「男が一人、獣人族みたいですね。
軽装です。
というか……何も防具を付けてませんよ」
「持ってるのは木剣だけか……」
「やっちゃいますか?」
「パスだ」
「理由は?」
「どうみても貧乏そうなヤツだろうが!
貧乏人は俺たちの味方!
しみったれた事をするんじゃねぇや!」
「う、うっす。
すみません。
じゃあ、あいつはスルーって事ですね」
「そうだ」
「親分、参考までに……どういった獲物が理想なんですか?」
「金持ちだ」
「金持ちって事は……貴族ですね!
わかりました!」
「待て待て。
間違ってる。
貴族って言葉のイメージで物事を進めるな。
貴族の中には貧乏なヤツだっている。
それに、貴族ってのは為政者ではあるが、民への奉仕者でもある。
むやみやたらに攻撃するんじゃない」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。
孤児院とかも作ってる偉い貴族だっているんだぞ」
「あ、聞いた事あります。
凄いですよね」
「だろ。
だから、貴族じゃなく商人を狙う」
「商人ですか?
連中は護衛とか多いんじゃ……」
「多少の護衛ならなんとかなる!」
「おおっ。
流石、親分!」
「ははは。
理解したら、ちゃんと見張ってろ」
「うっす!
商人が来るのを見張ります!」
「親分、親分、親分!」
「獲物か?」
「うっす!
商人です。
護衛がたくさんいますけど、商人です!」
「どれどれ…………………………あれは駄目だ」
「え?」
「よく見ろ。
商会の旗を掲げているだろ」
「ですね」
「あれはゴロウン商会。
しかも、鉄の森に入る精鋭部隊だ」
「鉄の森に入る?
そんな連中がいるんですか?」
「ああ。
噂じゃ、ドラゴンの巣の近くまで行った事もあるらしい」
「すげぇ!」
「さすがの俺も、そんな連中を相手にはできん。
スルーだ」
「うっす。
……あー、でもあの辺りで野営するみたいですね」
「だな。
この辺りには詳しくないようだ。
ちょっと行って、水場に案内してくる」
「え?」
「あそこに居座られても、俺達が活動し難いだろ」
「確かに。
お供します」
「なかなか獲物が来ませんね」
「そうだな」
「獲物を待つ間の食料として作った畑、豊作ですね」
「ああ。
なかなか美味いな」
「これ、村か街に持って行って金に換えますか?」
「そうだな。
三食、ずっと同じ味ってのは嫌だしな」
「準備します」
「これはなんだ?」
「食料です」
「その横のは?」
「毛布です。
夜はなんだかんだで冷えますから」
「その横のは?」
「苗です。
次はこれを育てようかと」
「……俺達みたいな素人で育てられるのか?」
「大丈夫です。
苗を売ってた人から、ちゃんと育て方を聞いてますから」
「そうか。
よし、じゃあこの辺りに植えるか」
「ですね。
頑張りましょう」
「最近、良く人が通りますね」
「そうだな。
こっちに挨拶する人も増えた」
「薪、食料の販売をしたのが良かったですね」
「ああ、今作ってる縄も、なんだかんだで売れるしな」
「旅に出るなら、それなりの準備をして出て欲しいですよね」
「まったくだ。
おっと、火がつかないみたいだな。
手伝ってやれ」
「うっす」
「あと、夜はちゃんと見張りを立てるように注意しておけ。
この辺り、少ないとはいえ魔物が出るからな」
「親分。
山賊ですよ」
「だな。
同業者だってのに、好き勝手に攻撃しやがって」
「やっちゃいますか?」
「ああ。
手加減は無用だ」
「うっす!」
「ピンチっすね」
「ああ、最大級のピンチだな」
「山賊の次は、兵隊が来るなんて……」
「三十人以上か……
さすがに厳しいな」
「あ、なんか隊長っぽい人がこっちに来ますよ」
「し、仕方がねぇ、覚悟を決めろ」
「う、うっす!
どこまでも親分についていきますよ!」
「税金?」
「そうだ。
お主たちはここで生活をしているようだが、ここを領有する貴族がいるからな。
税の徴収対象だ」
「税の……あ、でも、金は……そんなに」
「ははは。
慌てるな。
本来なら、これまで払っていない分をまとめて払ってもらうところなのだが……どうやらお主たちはここで旅人をよく助けているようだな。
調べている最中、色々な所からなんとかしてやってくれと言われた。
上司と相談し、これまでの分は免除。
そして今年の分は……山賊退治の報酬で支払った事にしよう」
「……」
「ん?
どうした?」
「あ、い、いえ、わかりました。
ありがとうございます」
「うむ。
これからも励むように。
困った事があれば、街の警備隊に声を掛けよ」
「はい。
その時はよろしくお願いします」
「親分」
「なんだ?」
「よかったんですか?」
「なにがだ?」
「最近、この辺りに他の人が住みだした件っす」
「別に邪険にすることはない。
隣近所とは仲良くやるべきだ」
「うっす。
じゃあ、とりあえず、見張りを続けますね」
「ああ。
鳥が畑を荒さないように、しっかりと見張れよ」
「了解っす」
リハビリ。
番外編みたいな感じで。
作品の時間的には、ガルフがシャシャートの街の武闘会に出たぐらいのイメージです。




